『占い師』


『占い師』(♂)


「真奈美・・・」
無意識に俺は今日の昼に別れた女の名前をつぶやいていた。

それはあまりにも突然の事だった。
いつもと変わらない昼休み、いつも通り会社の同僚たちと一緒に昼飯を食べていた時だった。
携帯電話が鳴り、真奈美にこう告げられた。
『私たち別れた方が良いみたいだから、別れましょ』
それだけ言うと真奈美は一方的に電話を切った。
別に喧嘩をしていたわけでもないし、真奈美に嫌われるようなことをした覚えもなかった。
俺はすぐに、電話をかけなおしたが真奈美が出ることはなかった。

7時に会社が終わってから同僚と飲みに行き、帰りにこの公園へとやって来た。
俺はベンチに座り、もう一度真奈美に電話をかけた。
『現在その番号は使われておりません・・・』
携帯から聞こえてきた声は無情なものだった。
自然と涙がこみ上げてきた。
俺は泣くまいとして、堪えようとしたが、無駄だった。

俺はどれくらい泣いてただろうか?
おそらく目は真っ赤なのだろうな。
「真奈美・・・」
無意識に俺は今日の昼に別れた女の名前を呟いていた。
呟いてから考えた。
こんな別れ方をするような女の何がよかったんだろう?
そう思うともうどうでもよくなってきた。
今まで泣いていた自分が馬鹿みたいに思えてきた。
「あんな女こっちから願い下げだ」
そう言いながら俺は立ち上がり、公園の出口を目指して歩き始めた。

公園の出口の近くで、テントをたたんでいる女がいた。
隣に立てかけてある板に『占』と書かれている。
どうも占い師らしい。
俺の足は自然と止まり、目は彼女に釘付けになって離れない。
彼女は若く、美人だった。
これが一目惚れというのだろうか?
おれは今までにない感覚に襲われた。
その時、彼女はこっちを見て俺に気付き、話しかけてきた。
「悪いけど今日はもう店じまいだよ。じろじろ見ないでくれない?」
その声は少し低めでボーイッシュな感じだ。
「あ、すみません。つい、見とれてしまいました」
「あらあら、お客じゃなくてナンパかい? あたしって見とれてもらえるほど美人なのかな?」
彼女はくすくすと笑った。
「はい、そりゃもう飛びっきり」
俺がそういうと彼女は可笑しそうに大声で笑った。
「あんた面白いね、特別に占ってあげるよ。 名前は?」
「今井 修哉」
即答だった。
それが、また可笑しかったのが彼女は笑いながら告げた。
「今日のあんたのナンパ成功確立は100%だよ」
すぐにその言葉の意味が分からなかったが、彼女が腕を組んできてようやく気付いた。
「あたしは美穂。 中尾 美穂って言うの。立ち話もなんだから喫茶店でも行きましょ」
そして俺たちは腕を組みながら夜の道へと歩き始めた。



おわり





『占い師』(♀)


「私たち別れた方が良いみたいだから、別れましょ」
私は携帯に向かってそれだけ言うとすぐに電話を切った。
私がこんなことをしたのはそう占われたからだ。
今日の昼休みの事だった。

「まなみぃ〜ご飯食べに行こ」
同僚の麻紀に誘われて私は昼食に出かけた。
その帰りに、麻紀が言った。
「そうそう、この近くの公園によく当たる『占い師』がいるんだって、行ってみない?」
「いいねぇ、行こう」
その時、私は軽い気持ちで同意した。

公園に着くとそこには紫色のテントが張ってあり隣の看板に
『何でも占います、一回たったの500円!』
と書かれていた。
「うさんくさいねぇ」
「そうだね」
麻紀と二人で話しながらどっちが先に占ってもらうか、ジャンケンで決めることにした。
私が負けて先に占ってもらうことになった。

テントの中に入ると大き目のたぶん水晶玉が置いてあった。
その奥にこれまた紫色の服に身を包み頭からヴェールをかぶった若い女性が座っていた。
彼女が占い師らしい。私が500円を払うと
「さて、何を占ってほしいのですか?」
と聞いてきた。
私は迷うことなく答えた。
「彼氏との運勢を占ってください」
「恋占いですね、ではまず、ここにあなたとその相手の名前を書いてください」
そう言って渡された紙に私は二人の名前を書いてその紙を返した。
「では・・・」
占い師はそういうと水晶に手をかざしながら、何やらぶつぶつ言い始めた。

占い師が口を閉ざして水晶から手を離したので思い切って私は聞いてみた。
「どうですか?」
占い師は肺にたまった息を吐いてから言った。
「今の彼氏とは別れた方が良いですね、このまま付き合っていてもあなたの為にも彼のためにも
 ならないでしょう。そして別れてすぐに彼には新しい恋人が出来ます」
「私には?」
「少し時間はかかりますが、運命の人が現れるでしょう」
それだけ言うと占い師はそれ以上は何も言わなかった。
私は外に出て麻紀に中の雰囲気を話し、麻紀を中に入れるとすぐに携帯を取り出した。
そして、彼氏の携帯に電話をして軽い冗談のつもりで
「私たち別れた方が良いみたいだから、別れましょ」
私は携帯に向かってそれだけ言うとすぐに電話を切った。
そして、鞄に携帯をしまおうとして落としてしまった。
たったそれだけの事なのに携帯は完全に壊れてしまった。

会社が終わるとすぐに携帯の解約、新規購入のために携帯屋に行った。
それから、その足で誤解を解く為に彼の自宅まで行った。
しかし、彼はいなかった。
夜の10時を過ぎても帰ってこなかった。
私は明日も会社に行かなければならないので仕方なく帰ることにした。

次の日、私は仕事が忙しくて、彼の自宅に行くことが出来なかった。

その次の日、日曜だったので朝から彼の家に向かった。
彼の家が見えた時、ドアが開いて彼が出てきた。
「修・・・」
私は彼の名前を呼ぼうとしてやめた。
彼の家から私の知らない女が楽しそうに腕を組んで出てきたのだ。
私は取り返しのつかないことになった事を悟った。
私は自分のアパートに帰り、ベッドに蹲って泣いた。
彼の名前を呼びながら泣いた。
「うえ、しゅ、修哉ぁ、う、うぅ」

しばらく泣いて、考えた。
こんなにすぐ別の女と付き合う奴の何がよかったんだろう?
そう考えるとどうでもよくなった。

そして私は運命の人が現れることを期待して何事もなかったように日常へと戻っていった。



おわり