『世界終末考』



それは唐突に世界の終わりを告げた。
世界の終わり、それはあまりにも非現実的でありながら、ひどく現実的なものとなった。
全世界の人類が、同時に明日世界が終わることを直感で悟ってしまった。
気のせい、そう信じていたかった。
でも、終わりは僕らの後ろすぐそこまで迫っている。
タイムリミットは24時間。
誰だって、今までの中で考えたことはあるだろう。
これまで生きてきた中で幾度となく耳にした言葉を。


「もし、明日世界が終わるとすれば、あなたはどうしますか?」


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世界の終わりまで残り20時間。

「うん、そういうことだから、僕はもう帰らないよ。行かなきゃいけないところがあるんだ。・・・・・・・・・最後にもう一度会いたかったって? そりゃ、僕も会いたいけれど、会ってしまったら僕はきっと家から二度と出られなくなってしまう。離れられなくなってしまう。それではだめなんだ。行かなきゃならない。・・・・・・ごめん。じゃあ・・・いままでありがとう」
僕は携帯を閉じてズボンのポケットにしまう。
皆が世界の終わりを悟ってから僕は即座に家に電話した。
あわてて電話に出てきた母も同じことを感じていたようだ。
もうすぐ世界が終わるということを。
どうやって終わるのか?
隕石でも降ってくるのか、地球が爆発するのか、終わり方はさっぱりわからない。
ただ、漠然と終わりが迫っているということだけははっきりとわかってしまう。
この際どうやって世界が終わるのか、とか、なぜ世界が終わるのか、なんてどうでもいい。
問題なのは世界が終わるまでに一体何をするか、だ。
世界が終わるという予感がして、すぐに僕は何年か前にしたくだらない約束を思い出した。
小学校以来の腐れ縁の友人たちと交わしたどうでいいような約束だ。
『もし、世界が終わることになったら、ここに集まろう』
本気が冗談か、といわれれば当然冗談に決まっていた。
世界が終わるなんて本気で考えたことなんてなかったのだから。
でも、そんな、僕がたった今まで忘れていたような約束を他のみんなが覚えているという保証は全くない。
あの場所に行ったとしても誰もいないかもしれない、誰も来ないかもしれない。
それでも、行かなければならないと思った。
だから、僕は行くことにした。


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世界の終わりまで残り15時間。

約束の場所。
僕らが生まれ育ったこの町の少し外れたところにある、神社の境内。
そこに一本の大きな神木が植えられている。
その神木の真下で、僕たちは約束を交わした。
この場所で僕らは良く遊んでいた。
そして、遊び疲れると、この木の下に集まっては休憩がてらに話をしていた。
僕は、昔のようにこの木下の芝生の上にしゃがみこんで、寝転んだ。
涼しい。
この木の下はこの神社の境内の中でどの場所よりも涼しいのだ。
あの時も確か、ここに座って、話をしていたんだった。
確か、1999年のノストラダムスの大予言が流行った頃だ。
話していた内容はもちろん、 
「もしも、本当に世界が滅びるならどうするのか?」
神木からもれる木漏れ日が、風によって揺れる葉の音が僕のなかの記憶を少しずつ少しずつ蘇らせてゆく。

『ノストラダムスの大予言ってさ、みんなあんまり信じてないけど、もしも本当に世界が終わるとしたらどうする?』
『俺はとりあえず、まだ、終わってないゲームをやる』
『私はケーキいっぱい食べる』
『おーいいね、それおいしそう』
『ほんとに? ホントに世界が終わるときにそんなことでいいの?』
『なんだよ、そんなに心配しなくっても、ノストラダムスの予言なんて外れるって』
『そうじゃないよ。 もしも、本当に世界が・・・』
『ならキミはどうするのだ? 世界の終わりを迎える寸前に』
『わからないから、聞いてるんじゃないか』
『君はわからない、他のみんなは考えていない、一体誰に何を聞くというのか?』
『じゃあ、お前はどうするんだよ?』
『そんなこと今まで考えたこともなかったが、いまひとつ面白そうなことを思いついたのだが?』
『え、なになに?』
『だれも、そんなときのことを考えていないのなら、みんなでもう一度この場所に集ってはみないか?』
『あ、それいいかも』
『確かに、面白いな』
『じゃあ、決まりだね。もし、世界が終わることになったら、ここに集まろう』

そんな感じの会話だった気がする。
実際、世界が終わるなんて誰もまじめに考えてなんていなかったのだ。
そしてさっき、全世界の人間がそれを直感するまで本当にそんなことが起こるなんて、誰も予想さえしていなかったに違いない。
そして、みんなが来ることを信じて僕はここで待つことにした。
ここにこうして座っているだけで、本当にいろんなことを思い出す。
あんまり長くもなかったけど、僕の人生は結構いろいろあったのだと。


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世界の終わりまで残り8時間。

おもむろに僕は携帯を取り出した。
画面に表示されたものを見て僕は驚いた。
「新着メール87件、着信109件」
すべてのメールを読んでいく。

『世界が終わる予感がするってみんな言ってるんだけど? そんな予感した?』
『今どこにいるの?』
『最後に会えないかな?』
『今まで楽しかったよ』
『いろいろあったけど、お前と会えてよかった』

本当に世界が終わっていくのか、という疑問からみんなだんだんと覚悟を決めていくようにメールの内容は変化する。
そして87件のメールと109件の着信履歴を見て僕は気づいた。
メールも電話も3時間前には使えなくなってしまっていることに。
世界が終わることを悟ってなお働こうとする人はやはり少ないというわけか。
最後ぐらいみんな自分のやりたいことをやって終わりたいのだろうな。
携帯で、ネットにつないで見る、最後に更新されているニュースは金持ちたちの宇宙への逃亡。
世界の終わりを、地球の滅亡と勘違いでもしているのだろうか?
そういえば昔くだらないことで議論になった。

「世界一と宇宙一はどっちのほうがすごいのか?」
『世界一とは地球上の世界一という意味なのか宇宙をひっくるめた世界一なのか? もしそうなれば宇宙一とは当然地球も含まれた表現なのだろうからどっちのほうがすごいのか?』
『宇宙一っていいにくい上に子供っぽいから俺は世界一がいいな』
『確かに』

ほんと、どうでもいいようなことを議題にして良く遊んだものだ。
金持ちたちを乗せた宇宙船が地球を離れつつあるなか、地球上に取り残された人たちは一体何をしているのだろうか?
そういえば昔、へんなことを言っていた奴がいた。

『世界が滅んでしまうというのなら、別の世界に逃げればいいじゃないか?』
『別の世界ってどんな世界さ?』
『あの世とこの世は少なくとも別の世界だと思うけどな?』
『あの世って・・・』
『というわけで、世界が滅びるようなら、俺は自殺でもするかもしれない』

というわけで、奴はきっともうあの世に行ってしまったのだろうな。
でも良く考えてみれば、あの世って言うのは人間が作り出したものなのではなかっただろうか?
人間が、自分たちの死に関して何かしらの理由や、死後どうなるのかというのを考えていくときに出来た概念だったように思う。
つまりは、あの世も結局のところ、人間が作り出したこの世界に属するものなのではなかろうか?
別の世界であって、この世界のものでもある。
なんて矛盾した世界なの・・・・・・だろうか?
という議論もそういえば昔いていたな。

『世界の99パーセントは偶然だ』
『ぞくに人はそれを運命とも呼んでいる。なんと矛盾した世の中だ』
『しかし、そんな矛盾した世界にしか生きられないのが人間というものだ。完成された世界は、人間には軽すぎる』
『そうではない、人間がいるから矛盾が起こるのだよ。人間のいない世界に矛盾なんてないさ』
『そうかな? 思うに、この世界は生まれたその時に最大の矛盾を孕んでしまった。すなわち、無から有が生まれるという矛盾だ。そこに人の力が介在するべくもないであろう?』
『はたして世界が生まれる以前は本当に無だったのだろうか?』
『なるほど。世界は最初から有であったといいたいのだな?・・・だがそれこそ愚問だ。もし世界が最初から有であったというのなら―いやその表現すら正しくはあるまい。世界が常に有であるという状態、つまりそれは世界が永遠であるということだ。そこに最初などという言葉の当てはまる余地はないだろう。話を戻すぞ。もし、世界が永遠であるというのなら、それには終わりがないことと同義である。始まりへの極限は終わりへの極限の意味するところと同義であるのだから。つまりは"永遠"。だがそれは栄枯盛衰という森羅万象の絶対真理に明らかに背く法だ。ならば、それこそが世界の矛盾とはいえないかね?』
『では問うが栄枯盛衰という森羅万象の絶対真理というのは一体誰が決めたものなのであろうな?それは他ならぬ人間であろう。人間が勝手に世界はそうであると決め付けた結果に過ぎない。人間が定めたところの固定観念に囚われているだけで、結局のところそれを真理と呼ぶには程遠い。それを踏まえたうえでなおも世界に終わりが来るとするならどういった真理からなのだろうな?』
『なるほど。確かに人の心理など観測者の視点から見た拙い妄想に過ぎぬかも知れないな。君の言うとおりだ。だが確かにそれが真理でないかもしれないが、我々は観測することで限りなく真理に近づくことはできる。一つ聞くが、君は栄枯盛衰しないものの判例を一つでも挙げられるのかね?・・・そしてその根拠をいえるのか? 君の言うその真理すら妄想でないと断定できる完璧な根拠を』
『フム、例えば、時間―いうなれば時の流れなんてものはどうだろうな? 知覚することが困難ではあるが―いや、知覚することなどできないかもしれないが人類の有史以来突然時の流れが速まったり、遅くなったりした事はないのではないだろうか? 時間の流れというのが速くなったり遅くなったりするものであるなら、はっきりと知覚できるのではないだろうか? この場合知覚するにはその他の全ての条件、物理法則や天体法則などがイマと同じ状態を保っていることが不可欠だが』
『・・・だからそれは君の妄想に過ぎまい。知覚することが困難であると自分で言っているにもかかわらず、それについての説明をあたかも絶対のことのようにし出すとは、笑止千万。そのようなものいかようにも捻じ曲げられる理屈ではないか。それに、君のその理屈が真理でないことはすでに証明されている。無重力状態においての時間の進行が地球という重力下での時間の進行に比べてほんのわずか―それは無視できるほどの本当にわずかな誤差ではあったが―遅いというのは、米国によって立証されたのを知らぬわけではあるまい?アインシュタインの予想した、時間ですら物質によって捻じ曲げられることの証明だ』
『おや、私としたことが失礼した論点をかなりはきちがえたことを言っていたようだ。そう、時間の流れが速い遅いとか君の出した無重力空間の話など、そんな事はどうでもよかったのだ。ようは時間というものが存在してさえいれば言い訳なのだからな。そこであえてあなたに問おうか、君は時間の流れが存在しない場所を知っているか?あるとするなら教えて欲しいのだが?』
『それこそ無意味な議論だ。それは世界というものの永遠性を全体とした推論だろう? そうでないのならば私はただ世界と答えればよいだけだ。しかしそう答えた場合君はこう反論するだろう。「世界は永遠だ、だから時間も永遠だ、と」全く、ばかげた議論になったものだ。これでは鶏が先か卵が先かのレベルではないか』
『そうさ、これは無意味な議論なのだよ。そんな事は初めからわかっていたことだ。人間が知ることができるのはあくまでも対象が対象として存在しているものだけだ。対象が対象として存在しないものそれを人間は知る事はできない。よって概念的なものは観察することもできなければ真理として近づくことすらできない。それにいくら議論したところで我々に答えを知ることはできない。答えを知るためには人間はあまりにも脆すぎる。ところで、鶏が先か卵が先かと聞かれたらあなたはどっちを答える?』
『ん〜、ぶっちゃけ、どっちでもいいけど卵かね。』
『そうか、うん分かった』


こんな話を延々としていた気がする。
本当にどうでもいい話だったけど。


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世界の終わりまで残り1時間。

この場所に着てからどうでもいいことばかりを考え、思い出し、気がつけば世界の終わりまであと一時間をきってしまった。
23時間前に世界が終わるという事を悟ってから、今まで、ただ座っていた。
他のみんなは一体何をしていたのだろう?
やっぱりやりたいことをやっていたのかなぁ?
自分のやりたいことって一体何なのだろう?
しかも、世界の終わりに。
自分のやりたいことをやったとしても、世界が消えてしまえばどうせ後にはだれも、何も残らないのだから、無意味に等しい。
逆に言えば、犯罪を犯したところで、世界の終わりを迎えようとする世界で、まじめに警察の仕事を使用なんてする警官なんてほとんどいないだろうし、捕まることもなければ、罪に問われるようなこともないだろう。
完全に世界は無法地帯と成り果ててしまっているのだろうか?

『世界が滅びることを俺は阻止してやる。俺は神に勝つ!』

なんて、ほざいていた奴も昔いた。
漫画やゲームの虜だったあいつは今世界を救うためのアイテムか武器でも見つけ出して、ラスボスの前にでも立ちはだかっているのだろうか?
そんな奴がいたことも今となっては、どうでもいい。
世界が終わりに近づくにつれ、何もかもが本当にどうでも良くなってきた。
今にして思えば、それは世界が終わりに近づいてきたからなのではなく、もっと前からこの世界自体をどうでもいいと感じるようになっていたような気がする。
生きることがつまらない。
何をしていてもつまらない。
どうでもいい。
そう感じるようになっていた気がする。
そんな、どうでも良かった世界が本当にもうすぐ終わる。


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世界の終わりまで残り60秒。

結局、この場所には僕以外の誰も来なかった。
町外れの神社の境内で、僕は一人。
孤独にこのどうでもいい世界の終わりを迎える。
大きな神木にもたれかかり、目を閉じた。
閉じた目から涙がこぼれた。
最後に僕は一言つぶやいた。
「――――」

そして世界は終わった。














あとがき

とりあえず、ここまで読んだ人、お疲れ様です。
どうでもいい、なんとも内容の薄い物語に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
読者の方の貴重な時間をこうも綺麗に無駄にしてしまい、全く持って謝罪申し上げます。
形だけ。
今回のは小説というよりは、自分の中ではエッセイに近い感覚。
過去に自分がやってきた本当にどうでもいい議論シリーズ。
『世界』『世界の終わり』について。
をノベライズ化したものとでも言いましょうか?
ページの都合上長々とあとがきも書けないのが残念ですが、このお話を最後まで読んでくれた人たちに、最後に一言。





キミに今敢えて問おう・・・。





「もし、明日、世界が終わるとすれば、あなたはどうしますか?」



             完