『壊れた腕時計』
「う・・・・・」
体中に痛みを感じながら俺は目を覚ました。
頭がボーっとする。
頭を強く打ったのだろうか?
しばらく座ってじっとしているとだんだんと頭が冴えてきて現状を確認する。
辺りを見回すと、そこは見慣れた商店街だった。
ただ、誰もいないことを除いては。
日は照っている。
つまり今はまだ昼間だ。昼間にこの商店街に人が全くいないというのはどう考えても異常だ。
いつもなら、近所のおばちゃんたちでごった返しているはずなんだが。
「どうなってんだ?」
返事が返ってくるわけでも無く、誰に問いかけるわけでもなく一人つぶやいていた。
「じっとしてても仕方ない・・・」
人がいそうな場所を目指して僕は歩き始めた。
この商店街を抜けた先にはカップルの待ち合わせの名所である公園がある。
公園の中心には噴水が、その上に時計が突き出している。
ありがちな公園だ。
だが、やはりそこにも誰もいなかった。
ふと、時計を見て時間を確かめる。
「11時12分・・・」
この時間に人がいないことはやはり何かがおかしい、周囲に人の気配どころか生き物の気配すら感じない。
「悪い夢でも見ているんだろうか?」
そう、きっと自分は悪い夢を見ているんだ。
だからきっと、眠ってまた目覚めたらすべては元通りになっているはずだ。
そんな、何の確証もない思いに一縷の期待を込めて眠ることにした。
公園のベンチに寝そべって目を瞑る。
なかなか眠れないだろうと思っていたが、意外にもあっさりと眠りに落ちた。
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目が覚めた。
辺りを見回す。
やはり人っ子一人いない、おまけにまだ日は高い。
時間を確かめようと、腕時計を見ようとして無くなっていることに気づいた。
「まいったな、大切なものなのに」
無くしてはいけないものを無くしてしまった焦燥感が俺の中を駆け巡る。
噴水の上にある時計を代わりに見る。
「11時12分・・・・え?」
眠りに就く前の時刻と同じ時刻。
一秒も寝てないわけが無い、かといって24時間きれいに寝たはずは無い。
「あの時計壊れてんのかな?」
一人つぶやきながら、ベンチから立ち上がりまた当ても無く誰もいない町をさ迷い歩き始める。
家の近くのよく行くコンビニに立ち寄る。
立ち読みをしている客もいない、店員もいない。
でも、商品は並んでいる。
少しのどが渇いてきたので店内に入ろうとするが、自動ドアが開かない。
「あれ?」
不思議に思ってドアに触れてみると、いつものように開いた。
「反応、鈍くなったのかな?」
店内の冷蔵庫にしまわれているジュースを一本取ってレジへと向かう。
誰も出てくる気配は無い。
「あのー誰かいませんかー?」
一応声をかけてみる。
予想通り返事が返ってくる気配もない。
仕方なく財布から150円出してレジにおいて外に出た。
コンビ二の外でジュースのふたを開け飲み始める。
なんとなく店内に人が戻っていてないかと期待して店内をもう一度見回す。
誰もいない・・・・・ふと時計が目に入る。指し示す時刻は
「11時12分」
秒針はピクリとも動いてはいない、これも電池切れかなんかだろうか?そんな偶然があるだろうか?
そして、強烈な焦燥感に駆られ俺は走り出していた。
公園、コンビニ、駅、学校、喫茶店、ファミレス、ゲーセン、カラオケ、普段自分が行くところそのほとんどを回った。
すべての場所に人は一人もいない、すべての場所の時計はひとつの時刻を指し示す。
「11時12分」
わけがわからないまま、歩きつかれて、家に帰ってきていた。
玄関の前で立ち止まる。
ここが最後の砦だ。
このドアを潜り抜けて、誰もいなくて、時計があの時間を指し示しているなら自分の仮説を認めるしかないだろう。
俺は覚悟してドアを開けた。
「ただいま・・・」
言葉の後ろは尻すぼみになっていく。
返事は無い。
家の中に人の気配は無い。
リビングへと行き、時計を見る。
「11時12分」
誰もいない、時間は止まっている。
それが今俺のおかれた状況。
俺はこれからどうやって生きていけばいいのだろう?
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沈まない太陽、どこにも吹かなくなった風、二度と現れない月や星たち、誰もいない世界、止まってしまった時間。
その世界で早くも5日が経過した。
時の止まった世界での5日とはあくまでも俺がつけた目安に過ぎない。
3食食ったら一日。
それが今の俺の時間。
5日経過してわかったことこの世界で食べ物は腐らない、なぜなら時間が止まっているから。
この世界で生きるにあたり最も不安だったのが食の面だったが何の不安もいらなさそうだ。
コンビニ一店食べきるのに一ヶ月はかかるだろうから。
だが、時が止まっている割には俺が触れたもの、干渉したものはその時を再び紡ぐらしい。
だからこそ食べられるのだろう。
この5日間何をしてすごしたか?
家とコンビニの往復、それから図書館にいって原因が何かわからないか、ただし、気休めにしかならなかった。
新しい発見を求めて、俺は今一度商店街へと向かった。
ちょうど商店街の自分が倒れていた位置に何かが落ちているのを見つけた。
俺の鞄だった。
「何であの時気づかなかったんだろう?」
返事が帰ってこないと知っていながら独り言はやめられない。
もしかしたら、というかすかな淡い希望がそうさせるのだ。
鞄を開けると入っていたのは教科書、ノート、筆記用具、携帯音楽プレーヤー、そして・・・一枚のチケット。
「あ!」
そのチケットを見た瞬間、思い出した。
「あいつのライブに行く途中だったんだ!」
鞄を担ぎ、チケットを握り締め、商店街のはずれにあるライブハウスへと全速力で駆け出していた。
そこには何かある、きっと何かある。
そんな期待を胸に。
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全速力で、ライブハウスのドアを突き破った。
自分を温かく迎えてくれるような歓声も、ライブの熱気も、ステージで歌ってるあいつの姿も当然のように無かった。
椅子も何も置いていない奥にステージがあり、真ん中にマイクが一本置いてあるだけの質素なライブハウス。
でも、あいつの初ライブが行われるはずだった。
「俺は、それに遅刻を?」
それが理由で俺はこんな世界に?
わけがわからない、チケット、ライブ・・・・俺にいったい何があった?
疲れ切ってステージに寄りかかるようにしてマイクに背を向けて俺は座り込んだ。
座り込んで気づいた、ここにある時計もまた「11時12分」を指し示していた。
ここまで全力で走ってきてあがった息がまだ収まらない。
息を整えるためにじっとしながら考える。
一体、どうなってるんだろう?
この世界のことはだんだんとわかってきた、でも、この世界にいる理由がわからない。
なぜ、どうして俺はこんな所にいる?
もしかして、俺は死んだのだろうか?
ある種その考えはこの状況を説明し納得させるだけの十分な説得力をはらむようにも思われた。
が、受け入れられるわけがない。
「そんなことがあってたまるか! だって、俺は・・・俺は、まだ」
言葉にしながら今は無くしてしまったけれど腕時計のはまっているはずの腕を見た。
『「・・・時計」』
ふと、独り言を言ったはずなのに誰かの声がかぶった気がする。
『それには魔法がかかってるの、無くしたり、壊したりしたら。不幸なことが起こるの』
その声はたしかにあいつの声。
でも俺は振り返ることができなかった。
振り返ればもう二度と聞こえなくなるような気がするから。
『誰が、その魔法をかけたのかって? もちろんあたしよ』
『何よ、馬鹿にして、どうなっても知らないんだからねっ』
思い出した。
これはあいつが俺に時計をくれた時に言った言葉だ。
それにこの声、あいつの地声というよりは何か機械を通した感じの声、もしかして、マイクが?
そう思うけれど、やはり振り返ることもできなくて、ただ、聞いているだけ。
『時計、壊れちゃったね・・・でも、すぐ直すからね』
壊れちゃった?
そうだっけ?
この世界に来る前の記憶をたどる、が、そんな記憶は全く無い。
『きっとこれのせいだよね・・・・待ってて、もうすぐだから』
これのせい?
何の話だ?
俺はあいつとこんな会話したこと無いぞ?
涙声の混じったあいつの声がマイクを通して聞こえてくる。
どうなってる、マイクよ、お前は何を伝えようとしてる?
『これをこうして・・・痛っ!』
あいつの悲鳴に思わず俺は振り返ってしまった。
そこにはあいつの姿は当然のように無かった。
俺が愕然として、自分のおろかさを呪った。
なぜ振り向いたのか?
振り向けばあいつの声はもう聞こえないだろう。
それがわかっていてなぜ?
俺の目の前にはただ一本さっきと同じようにマイクが一本立っているだけ・・・・・ではなかった。
マイクには腕時計が引っ掛けられていた。
「これ・・・は・・・」
『よし、後はこうして!』
あいつの弾むような声が聞こえてきた。
まだ聞こえる、あいつの声が聞こえるマイクを通してだけれどたしかに、俺は無意識のうちに腕時計へと手を伸ばしていた。
俺は腕時計に手を触れた。
カチッチッチッチッチッチッチッ
目を開けた。
目の前にあいつの顔があった。
目には涙を浮かべてこっちを見ていた。
あいつは俺に抱きついてきた。
「やったぁぁー、目がさめたんだね!」
それだけ言うと、あいつは部屋を大急ぎで出て行った。
そこは病室だった。
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自分はどうやら、交通事故に遭ったらしい。
学校帰りに授業をサボってあわててあいつのライブに行くために、大急ぎで商店街を横切っているときに交差点で出会いがしらに。
それが5日前の出来事。
それから、意識不明に陥っていたらしい。
体に大きな怪我こそ無かったがひどく頭を打ち付けてしまったらしい。
そしてもう一つそのとき時計を壊してしまったらしい。
事故で俺が病院に担ぎ込まれてからあいつはずっと自分のせいだといって必死に時計を直していたそうだ。
自分のかけた魔法がどうとか。
当然そんなもの俺は信じちゃいないが、今回のできごとは俺にとって一生忘れられないものになった。
あいつが俺のことを本当に心配してくれたのはわかっているし、結果的にあいつの中では俺はあいつに助けられたことになっている。
なら、このもらった命ですることは一つ・・・・だよな?
「おーいた、話って?」
あっちの世界での覚悟なんかより百倍の覚悟はいる。
でも俺は覚悟し決心し言うことにする。
「実はな、俺、ずっと前から・・・・・」
チッチッチッチッチッチッチッ
世界は今再び動き始めた。
壊れた時計も再び動き始め、そして今、事件から6日目にしてようやく。
「11時13分」を示した。
完