『どこへ』
見上げてみれば、夜空に輝いて見える星たちは数えるほどしか残されていなかった。
彼らはどこへ行ってしまったのだろうか?
答えは簡単だ。
彼らはどこへも行ってなどいない、ただ、見えなくなってしまっただけだ。
本当はそこにしっかりと残っている。
薄汚れた空気が彼らを覆い隠してしまったのだ。
そんな真っ黒な夜空を見上げながら歩いている僕の横を一台のトラックが走り抜ける。
そいつの撒き散らす排気ガスに僕はむせた。
道端に落ちていた小石を拾い上げ、トラックめがけて投げつけようとしたが、トラックはすでに遥か向こう。
「はぁ・・・」
自然とため息が漏れる。
たった一台のトラックが人間一人をむせさせるのに必要な排気ガスを一瞬通り過ぎただけで排出する。
そんな公害製造マシーンがこの世界には何万、いや、何億と走っているのだ。
それは、星も見えなくなるというものだ。
やり場のない怒りが自分の中で沸々と湧き上がってくるのを感じる。
不意に暴れたい衝動に駆られる。
だが、暴れてお茶の間を賑わすニュースになってやるつもりはない。
怒りが収まるのを何も見えない夜空を見上げながら待つことにした。
「そんなところで惚けとると危ないぞ」
幾分かしわがれた声が聞こえた。
声のしたほうを向くと、一人の爺さんが立っていた。
見るからに年をとっているようだった。
「若いもんがこんな夜遅くにぶらぶらしとると危ないぞ、最近は物騒な連中もおおいでな」
「・・・・・・」
変な爺さんに絡まれてしまった、自分よりもよっぽど爺さんのほうが危険だと思うんだけどな。
お互い相手を探るような形になって、二人の間にしばらく沈黙が流れる。
その沈黙を先に破ったのは爺さんだった。
「こんな空を見上げて何をしとったんだ?」
そういいながら爺さんは空を見上げる。
僕も釣られてまた見上げる。
やはりそこには何もなかった。
上を向いたまま僕は爺さんの問いかけに答える。
「少し考え事を」
「その若さで何を悩んどる?」
「別に悩みというわけじゃ――」
「違うのか?」
実際、悩み事をしていたわけではなかったが、爺さんにそう言われるとどういうわけか何も言いかえせなくなってしまった。
僕が言葉を失っていると、爺さんは寄ってきて僕の手をとりまるで手相を占うようにまじまじと見つめていた。
心なしか僕の手を見つめる爺さんの顔が一瞬驚いたような気がした。
手を見つめながら爺さんは質問を続ける。
「お前さん、年は?」
「19」
爺さんはしばらく考えてからまた訊ねた。
「大学か?」
「いや、浪人」
「それは悪いことを聞いたの」
「別に、もう慣れた」
私立2つに国公立前後期、そのすべてに落ちてからはや3ヶ月。
年を聞かれると、大学か?
その質問だけで何回目だろうか、いい加減慣れるというものだ。
そして聞いた相手は爺さんと同じように必ず謝ってくる。
大学にいけなかったということはそんなに悪いことなのだろうか?
確かに最初のころは、周りの同世代の人間が大学に通って楽しくやっているのに自分だけ取り残されてしまったような気がして嫌だった。
情けない、そんな風に考えたこともあった。
でも、そんな風に思ったころからどこか自分に対して違和感を覚え始めた。
この違和感はいったい何なのか?
今までの人生の中で何かを間違えたような感覚。
でも、小中高と全く悪さもしなかったし、勉強だってしてきた。
どこも間違えてなんかいないはずだ。
「僕は―――間違ってますかね?」
聞いても意味の無いコト。観念的過ぎる質問。どんな答えを望んでいるのかすら、わからない。肯定して欲しいのか。否定して欲しいのか。
「世の中に正解なんぞない……と言えば逃げになるかね?」
「わかりませんよ」
2人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を断ち切ったのは、僕でも爺さんでもなかった。
「おじいちゃーーん!」
という若い女の声。
すぐに、その声を発したと思われる女性の姿を確認した。
すらっとした肢体。髪は肩くらいまで。多分、同年代。
「こんなとこでどうしたの? 夜の散歩?」
「ああ、そうじゃよ。お前もか?」
「うん、わたしも、夜の散歩」
そこまで言ったところで、初めて女性は僕の姿を確認した。
「あ、こんにち……は?」
語尾が疑問系。僕がどうかしましたか。
「星野……だよね?」
確かに僕の名前は星野智久ですがそういうあなたは?
「ええっと、覚えてないっかなぁ? 中学ン時一緒だった佐野さゆなだけど……?」
佐野……? 佐野さゆな……? いたっけ、そんなヤツ。
「あーっ、全然覚えてないって顔してる。ひっどいなぁ、もう」
って言われてもなぁ……。そこまで親しくない中学のクラスメイトの名前を覚えてるくらい記憶力が良けりゃ、大学受かってるっての。何かヒントをくれよ、ヒントを。
「ヒント1、当時わたしはメガネでした」
メガネ……。
「ヒント2、当時わたしはクラス委員長でした」
あ、わかった。
「思い出した、思い出した。委員長かぁー、久しぶり。そう言や委員長、佐野なんて名字だったな」
「よーやく、思い出してくれたか。嬉しいよ」
そう言ってにっこり笑う。
「んで、なんで星野はこんなとこでおじいちゃんと話てたの?」
「え、あーいや、ちょっとした立ち話だよ。とくに意味の無いなんでもない話」
まさか、人生の疑問について話していましたとは言えまい。
「じゃあ、オレ、もう行くから、それじゃ」
そう手短に別れを告げる。なんとなく、その場にいたくなかった。
2人に背を向けて歩き出そうとした時だった。不意に―――――
不意に、体中の力が抜けた。
視界が、暗転する――――――――――――――――
目覚めると、見知らぬ場所にいた。
妙に身体が軽くて、なんだか少し酔っ払っているみたいな感覚が身体の中にあった。
「どこだよ、ここ……」
上半身を起こす。どこか屋内にいるらしくて、上下前後左右はクリーム色の壁に囲まれていた。
灯りは、皆無だ。
あれ、なんで僕は真っ暗の闇の中で、壁がクリーム色だってわかったんだ?
夢か? 僕は、夢を観ているのか?
夢の中で自分が夢を観ていると認識するのを何ていうんだったっけ……明晰夢?
そんなことを考えながら立ち上がる。
そして、「自分がどこに横たわっていたのか」を認識して、やっぱりこれは夢なんだと思った。
僕が寝ていたのは、夜空のように黒い洋風の棺桶だったのだ。
バカバカしい。そう毒づいた時だった。
がちゃり。
ドアを開ける音。さっきは気付かなかったけれど(いや、夢なんだから、今まさに"出現"したのかもしれない)僕の前方にある壁にドアがあって、そこが開いていた。
「あ、お目覚めだね、星野智久くん」
「委員長……?」
彼女の姿を見て、ここで覚醒する前のことに思いが向かう。
星を見上げて、爺さんと話をして、委員長が現れて――――、それから、どうした?
思い、出せない。
「あのさ、委員長、オレ―――」
「名前で呼んで欲しいな、もう仲間なんだから」
仲間? 何を言っているんだ? やっぱりこれは夢なのか? だからこんなにわけがわからないのか。
「うふふ、何がなんだかわからないのね? 大丈夫、なぁんにも心配なんかいらないから」
そう言って、委員長――佐野さゆな――は、中学の時の僕の記憶からは全く想像できないような妖艶な笑みを浮かべた。
「遠い昔のひとたちは、わたしたちのことを良く知っていた。けれど―――今は知るひとは少ない。
わたしたちはどこへも行ってなどいない、ただ、見えなくなってしまっただけ。
本当はそこにしっかりと生き残っている。
薄汚れた空気が、煌く電飾が、わたしたちを覆い隠してしまったのよ」
唄うように、委員長は意味不明の文言を綴る。
「委員長、キミが何の話をしているのか、わからないよ」
「わたしたちの話をしているのよ、智久。きみは、くだらない疑問から解き放たれた――そういうことよ」
誤魔化すような、わけのわからないことを言って、「それと、名前で呼んでって言ったよね」と軽くオレを睨む。
わからない。わからない。わからない。何が、どうなっているんだろうか。
思考は勢い良く空転するばかりで、頭が重い。
それとは反対に、何故だか、身体には爽快感が溢れている。
「とりあえず、これでも飲みなさいな」
手渡しされるグラス。赤い液体。ワイン?
「委員ちょ、あ、えと、さゆな……さん、これは?」
「美味しいわよ」
微妙に答えをはぐらかされた。ただ、喉が渇いていたのは確かなので、口をつけて一気に飲み干す。
今まで味わったことのない味がした。
―――と、急に身体の爽快感が増す。
「え?」
思わす、口から驚きが漏れる。
「美味しいでしょ?」
「うん」
身体だけではなかった。心の中のもやもやさえも、これを飲んだだけで、きれいサッパリ消えていって、今まで、自分が何を悩んでいたのかさえ、どうでもよくなった。
何年も体験していなかった、すばらしい気分。
「これ、なんていう飲み物なんだ?」
好奇心むき出しで訊ねる。
「それはね―――、さっき抜いた、きみの血液よ」
「は……? え…?」
「これで智久も、夜の眷属の仲間入り。ようこそ―――――悩みなきヴァンパイアの世界へ」
さゆなはそう言うと、牙を見せてにこやかに笑った。
あとがき
sion「いやぁ、まさかの展開ですねぇ」
YU「もう、なんか、すみませんw」
sion「色々ありえないですねぇ、張ってもいない伏線とか、あとがきとか」
YU「あとがきは、主に書き方が。 伏線は、もともと、殆んどないでしょーが」
sion「いやいや、おじいちゃんが実は血のつながりの有る関係だとか、そんな伏線が合ったような気がしないでもない」
YU「ねぇよ。具体的にどこだよw!」
sion「主人公に排気ガスかけてったトラックの運ちゃんが実はヴァンパイアのボスだとか・・・」
YU「ヴァンパイアとか、もうオレのパートに入ってからのネタじゃん!」
sion「主人公の通ってる予備校は実は河○塾だとか」
YU「すげぇどうでもいいよ!」
sion「・・・・・・読者の皆さんも気になっていることとは思いますが、当物語の主人公はこの後、委員長の助けをかり・・・」
YU「人間社会へ復讐を開始します……ってンなわけあるか! なんで漫談してんの?」
sion「その通り、そんなわけはなく、無事大学に合格します。 わーい、おめでとう」
YU「なんでだよ! そんな要素は一切なかったよ!」
sion「で、その大学の学園長がおじいちゃんなのである」
YU「知らんわ!」
sion「実はヴァンパイアしか入学できない仕組みになっていて、委員長がヴァンパイアになる手助けをしたと言う、まさかの伏線!」
YU「伏線でもなんでもねぇよ! 小説の内容について話せよ! 妄想後日譚はいいから!!」
sion「ええ、実はヒロインの名前はYUさんの初恋の人なんですよっ!」
YU「どっから出てきたんだよその話は! 捏造もいいとこじゃねぇか!! てか内容の話じゃないし!」
sion「内容なんてないよー……あっはっは」
YU「駄洒落かよ! もういいよ!!」
終