『Dream Guide〜夢の案内人〜』



   序 章

ここに一人の夢を見る少年がいる
それは将来何になりたいか? とか、何をしたいか?という夢ではない
そう、あれだ・・・
諸君らが眠ったときに見るあれだ

ここに一人の夢を見る少年がいる
それはゲームのようなファンタジックなものでもなければお伽話のようにメルヘンチックなものでもない
そう、それは・・・
彼の過去の経験、記憶である

ここに一人の夢を見る少年がいる
そこには自分以外の彼の記憶以外の誰かがいる
そう、それは・・・
"夢の案内人(ドリームガイド)"と呼ばれている

それは夢の物語

そして少年は考える
『何故見るのか?』・・・と
『いつ終わるのか?』・・・と







   本 章


(ここはどこだろう?)
気がつけば少年は何もない所にいた。
周囲を見渡しても何もない、ただ闇が広がっているだけ。
いや、手や足、体は見える。
闇というよりは何も無い。
何も無いという表現が一番適切であろう。
そこに広がっているのは"無"
(そう、ここはむのせかいだよ、しょうねん)
少年は声のした方向に目を向ける。
そこには一人の男がいた。
その男は白いシルクハットをかぶり白いタキシードを着て、白いステッキを持っている。
その何もない世界にただ一人、光のように輝いて見えた。
(無の世界・・・?)
少年は繰り返した。
(ちがう、むのせかい、つまり、ゆめのせかいだよ、しょうねん)
(夢?)
(そう、ただし・・・このゆめはキミのカコしかみることはできない)
(どうして?)
(キミにひつようだからだろうな)
(僕に必要・・・)
少年は再び繰り返す。
(ところであなたは誰?)
(おや、わたしとしたことがしつれいした。わたしは"ドリーム・ガイド")
("夢の案内人(ドリームガイド)"?)
(そう、それがわたしのなだ)
そういうと男は中世ヨーロッパの貴族がするようなおじぎをする。
男が顔を上げると穏やかの微笑んでいた。
(さぁ、はじめようか)
(始めるって何を?)
(わたしはドリーム・ガイドだ。これからキミのカコをあんないする)
(嫌だ)
(どうして?)
(今までロクなことが無かった。嫌なことは忘れたい)
(そうか、しかしひつようなことなのだ)
(なんで?)
(すべてがおわったとき、それはおのづとわかってくる)
それだけ言うと男は指を鳴らした。

  パチン

その時二人を包んでいた世界が一変した。
そこは少年の良く知っている場所、通っていた高校だった。
少年と男は宙に浮いて上から見ているような形になった。
(僕の夢なのにどうしてこんなところから見ているんだ?)
(カコをみつめなおすにはきゃっかんてきにみないといけない)
(あ、僕だ)
学校のとある教室に僕の姿があった。
少年は白いキャンパスを睨みつけるようにして座っていた。
その目にはうっすらと涙を浮かべていた。
(これはびじゅつのじゅぎょうかい?)

(・・・うん)
その時、教師が白紙のキャンバスに気付いて歩み寄ってきた。
「おい、何してるんだ? 早く描け」
少年は答えない。
「おい、聞いてるのか?」
やはり少年は答えない。
するとその教師は馬鹿にするように笑い声を上げた。
「そうだよな、両親が二人とも有名な画家だっていうのにその子供はまともな絵がかけないんだからな」
その陰湿な笑い方は教室中に響き渡り、少年を傷つけるのには十分すぎた。
少年の友は誰一人として少年に肩を貸そうとはしなかった。
少年のすすり泣く声が徐々に小さくなり、辺りはまた無の世界に戻った。
(それで・・・)
男が口を開く。
(それで、キミはあいつをコロそうとしたんだな?)
(あいつだけじゃない)
(というと?)
(あそこにいた奴ら全員、同情するような顔して裏では笑ってるんだ・・・)
(みんなコロしてしまおうと?)
(そうだよ、でもできなかった)
(キミのヤミはふかそうだ、もうすこしのぞいてみるとするか・・・)
そういうと男は先ほどと同じ様に指をはじく。

  パチン

無の世界は再び姿を変える。
前のとは少し違い、それは断片的な映像と音声が次々と表れた。
「ねぇ、あいつの親って有名な画家なんだってね」
「あ、私も聞いたよ、それ」
「でも、あいつって絵下手だよねー」
「マジ? 何それ? 鷹がトンビを産んだってこと?」
少女たちの甲高い笑い声が響く。
「どうしてあなたはそんな絵しか描けないの!?」
「もっとまともな絵はかけないのか!」
「ホントに情けないわ!」
「それでも俺たちの息子か!」
心無き両親の罵声が響く。
「これ猫かい?・・・え? 犬? 犬には見えないなぁ・・・」
「そんな絵幼稚園児にだってかけるよ?」
「下手やなぁ・・・」
「へたくそ・・・」
「ヘタクソ・・・」
「ヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソヘタクソ・・・」
少年を嘲笑う無数の声が辺り一帯に響きわたる。
そして、また無の世界へと戻る。
(なるほど、むりもないか・・・)
男は憎しみや怒りに燃える目から涙を流している少年に気付いた。
(こんな事ばっかりだ、これが僕の日常、描きたくもない絵を描かされて、馬鹿にされて・・・もうたくさんだ)
(そういうな、しょうねん)
(僕なんか産まれてこなければ良かったんだ)
(そうだろうか?)
男は憐れむように言った。
(では、キミのうまれたひにあんないしよう)
男は再び指を鳴らす。

 パチン

無の世界は姿を変える。
そこはどこかの病室のようだった。
一人の赤ん坊と一人の女性が寝かされていた。
その時、慌しくドアが開けられ、一人の男が入ってきた。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人は何か話しているようだったが何も聞こえなかった。
(あれが・・・父さんと母さん?)
(そうだ)
(どうして声が聞こえないの?)
(これはキミのキオクだ。コトバをしらないキミがおぼえているわけがないだろう?)
(そっか・・・)

赤ん坊を囲んだ二人はとても幸せそうだった。
嬉しそうだった。
笑っていた。
喜んでいた。
(キミがうまれたとき、かれらはしあわせだったのだよ)
(・・・・・)
そして、また無の世界へと戻る。
(でも、あいつらの喜びなんてその時ぐらいじゃないか?)
(・・・かもしれないな)
(だったら・・・)
(ならカノジョのことはどうする?)
(え?)
男は再び指を鳴らす。

  パチン

「好きです。つ、付き合ってください!」
その声は少年の声だった。
そこは、少年の通っていた中学校の校舎裏だった。
少年も、告白された少女も顔を真っ赤にして言った。
「わ、私でよければ・・・」
(このとき、キミはせいいっぱいのユウキをだした。そして、うけいれられた)
無の世界に戻りながら男は言う。
(カノジョはキミのユイイツのリカイシャだ。カノジョはキミのためにあらゆるものをすてた)
(・・・・・)
(キミとつきあうことでほかのレンチュウからはキョリをおかれカワリモノとしてあつかわれた)
(・・・・・)
(しらないはずはないだろう? わたしがしっているのはキミのキオクなのだから・・・)
(・・・・・)
(そんなカノジョをステ、ヒトリボッチにするのか?)
少年は考える。
自分はどうするべきなのか・・・と。
自分が何をしたいのか・・・と。
(どうする? カノジョをすてユメのセカイにのこるか? もういちどカノジョのもとにもどるか?)
まだ少年は答えない。
答えられない。
(ユメのセカイにのこればキミはくるしむことはない、しかしカノジョはひとりになり、ずっと苦しむ)
(カノジョのところにもどれば、ぼくはまたくるしむことになる?)
(そうだ)
(それでも・・・)
少年は覚悟を決めた。
(それでもやっぱり僕は彼女のところに戻るよ。彼女を一人になんてさせやしない!)
少年の言葉には力があふれていた。
自分の運命と戦う覚悟を決めた少年に怖れるものは何もなかった。
(サイゴにもういちどきく、ほんとうにいいんだな?)
(決めたよ。もどる!)
男は手を高く掲げて言った。
(わかった。もうキミにあうことはないだろう。ごきげんよう・・・)

  パチン

男が指を鳴らすと強烈な閃光に包まれ、少年は目を閉じた。


        * * * * *


少年が目を開けると赤い絨毯の上に寝転がっていた。
少年は体中に痛みを感じ、またひどく眠かった。
「大変だ。誰かが飛び降りたぞ!」
どこか遠くの方からそんな声が聞こえたが少年は起きあがらずにまた寝る事にした。









   終 章


ここに一人の男がいる
彼は一体誰だろう? 何者だろう?
そう、それは・・・
"夢の案内人(ドリーム・ガイド)"と呼ばれていた

ここに一人の男がいる
彼はどうして案内するのだろう? 彼の見せる夢はどうして過去なのだろう?
そう、それは・・・
過去を見つめなおさせる事で得るものがあるからだ

ここに一人の男がいる
彼はそこにやって来た者に夢の案内をする
そう、そして・・・
彼らのために今日も指を鳴らす

これは夢の物語

そして男は答える
『ヒツヨウだからだ』・・・と
『オワリがくればおわるのだ』・・・と