持ちつ持たれつ-通貨政策

先日米連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン氏が我が国の通貨介入に対し懸念を表明した。 我が国は長びく不況を何とか回復しようと懸命の努力を続けているが、なかなかその成果は出てこない。 わずかに輸出が堅調で、これをテコに景気回復を目指している。 その輸出も昨年後半からジリジリと円高が進み、1ドル120円台半ばだった為替レートが一時は105円割れ寸前まで上昇した。 これを何とか阻止しようと我が国財務省は巨額の為替介入を実施した。 財務省が昨年12月30日「本年12月までの実績で円売り介入額が20兆円を突破」と発表、更に本年に入って1,2月の円売り介入額も合計で10兆円を超えると公表した。 我が国国家予算(平成15年度一般会計)が82兆円弱、と比べても如何にその額が巨額であるかが知れる。 更に伝えられるところによると、政府は今年度補正予算案に、介入限度枠を21兆円増やして100兆円に拡大する方針、という。 円高ドル安の背景には米国の5000億ドルを超える経常収支の赤字と、大幅な財政赤字がある。 これが改善の兆しを見せない限り折にふれてドルは売られる可能性がある。
さすがに我が国通貨当局の断固とした円売り、ドル買いの姿勢にドル売り勢力も105円割れを目前にして、押し返され最近ではドルの買い戻しに動いており為替相場も110円台に下落している。 しかしドル安の原因である経常収支の赤字と、財政収支の赤字はなんら改善されたわけではないので、いずれまたドルが売られる場面が出てこよう。

今回のドル安の局面で日本を初め中国、韓国、台湾、タイなどの他のアジア諸国も輸出競争力を維持するため、自国通貨を売ってドルを買い支えた。 この自国通貨売り、ドル買いによって得たドルを大半の国はアメリカ国債の購入に充てた。 これまでドル安が進んだのはそれまでアメリカに向かっていた欧州の民間の資金が、アメリカの景気悪化を懸念して欧州に回帰したのが原因の一つといわれている。 アメリカは経常収支赤字国だからこれに代わる資金をどこかから調達しなければならない。 その役目を担ったのが前述のアジア諸国の公的資金である。 我が国のアメリカ国債保有高はアメリカ国債残高の15%近くを占めるといわれている。 おかげでアメリカは放置すればドルの全面安,暴落にもなり兼ねないところを何の努力もなしに、ドルを買い支えてもらい、おまけに国債の順調消化による長期低金利まで保証された。 しかし低金利が続くことによりアメリカは景気が回復し、雇用も増える。 したがって家計の支出も増え消費も増加する。 それがめぐりめぐってアジアからの輸出増につながる、という構図である。 これが順調に続けば万事めでたしめでたしである。 しかしこれには問題がある。 日本を初めアジア諸国はアメリカの赤字体質という構造の改革なしに、このままずっとアメリカのドル安政策を支え続けていけるのか、ということと、ドル安による外貨の評価損をどう処理するのかという問題である。
冒頭のFRBグリーンスパン議長の発言は「最近の日本の経済情勢を見ると、景気は順調に回復しておりこれ以上の円高阻止を狙った為替介入は必要ないのではないか」との指摘であったようだ。 いいかえればドルの価値は市場に任せておけばよい、人為的操作は必要ないとの意味のようだ。 果たしてそれでよいのだろうか。





 

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