中国投資のリスク

新聞によると、天津市国際信託投資公司は発行した第5回のサムライ債(円建外債)で12月13日利払い期限を迎えたが、利払いが実行されなかった、と報道している。
国際信託投資公司の発行したサムライ債については、これまでにも利払い期限に利払いがなされないケースが相次いでいる。海南省
国際信託投資公司の発行した第1回のサムライ債は、本年6月26日利払い期限が到来したが実行されず、「期限の利益喪失(デフォルト)事由」が発生した7月10日を過ぎても利払いがなされなかった。  その後当初の利払い期日から約1ヶ月経過した7月28日に至って、ようやく利払いがなされている。    つづいて、同じく海南省国際信託投資公司が発行した第2回サムライ債が9月24日利払い期日を迎えたが、これも利払いがなされず2週間の支払猶予期間が経過した後、本年10月にデフォルト宣言されたばかりである。

残債のある国際信託投資公司発行のサムライ債

債務者 回号 発行額 発行日 期間 利払い状況等
中国国際信託投資公司 6 200億円 96/9/19 5年 順調
7 100億円 96/9/19 8.5年 順調
8 100億円 96/9/19 10年 順調
海南省国際信託投資公司 1 145億円 94/12/26 7年 デフォルト宣言
2 140億円 97/9/24 7年 デフォルト宣言
福建省国際信託投資公司 5 140億円 96/7/24 10年 一応順調
天津市国際信託投資公司 5 125億円 96/12/13 5年 利払い遅延
(上記の表以外に中国政府が本年8月に発行した300億円のサムライ債がある)

中国の国際信託投資公司の対外債務問題は、サムライ債のみではなくむしろ主体は海外金融機関に対する多額の負債(ローン)にある。    1999年1月に破産宣告を受けた広東省国際信託投資公司は、かって広東省の資金調達の窓口として海外金融機関から、
多額の資金提供を受けていたが乱脈経営が重なり、ついには破綻をきたした。   この件では当初広東省政府が信用保証か、中央
政府が資金援助するものと目されていたが、いずれも実行されず破産宣告という最悪の事態を招いた。

改革開放路線の下、各地で多数の省、市レベルの国際信託投資公司が設立され、海外及び国内の金融機関から資金提供を受け、その
資金を省のインフラ整備等のプロジェクトのために投融資を行う等中国の外資導入の窓口になってきた。
しかし90年代後半からバブル崩壊に伴い、従来の乱脈融資もたたって不良債権が著しく増大しその経営は困難なものとなっていた。

実情はどうあれ国際信託投資公司は、省、市レベルの公的機関であり資金調達の際にはその信用力をバッツクに資金調達をしたのだから債務の返済にあたっても、省、市が責任を持つのが当然である。
ましてサムライ債といえば、金融機関に限らず一般投資家も応募した公募債であるからその影響度は大きい。   借りるだけ借りてその返済にあたっては、省、市当局は勿論其れを監督する中央政府も責任を持たない、というのであれば、モラルハザード(倫理感の欠如)
が起こっていると言われても致しかたあるまい。

この他一般融資の返済にあたっても大連国際信託投資公司は、海外債権銀行に対し債権の一部放棄を求め、債権者側はあくまで全額
返済を要求して交渉は暗礁に乗り上げていた。   しかし小額の債権者である一部銀行が応諾したことから外国債権銀行の足並みが
乱れ、ついには我国銀行も債権の40%カットで合意するに至った。

これが前例となって中国各地の国際信託投資公司に対する融資返済交渉は、債権カットを軸とした交渉に移りつつある。


国際信託投資公司の債務不履行問題については、省政府は勿論中央銀行総裁、来日した朱鎔基首相にも契約の履行を促したが、
いづれもその場しのぎの口先だけの約束で、きちんとした対応が示されない。    中央政府も地方レベルの債務不履行については、
資金援助等の対応は一切しない方針と見受けられる。

中国市場がいかに将来有望(と言われている)であるとしても、信義誠実の原則の通用しないこの国に対して、今後以下に対応していくか。   直接投資、証券投資を含め一歩退いて考えるときではないか。


※本稿執筆にあたっては、日本債権信用銀行のレポート等を参考にさせていただきました。


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