ドル高政策の放棄

このホームページを開設してまもなく3年を迎える。 その間世界の経済環境は著しく変わった。 開設当初の2000年10月ごろ、
米国は10年に及ぶ好況の余韻をまだ色濃く残していた。 というよりまだ好況のさなかにあり、現在の景気停滞は次の景気拡大への小休止場面と捉えられていた。その頃平均株価は1万ドルを大きく超え、FF金利は6.25%、財政収支は黒字。今では考えられない夢のような数字が並ぶ。その後わずか3年、その間にIT産業崩壊による不況の深化、国際テロ組織による同時多発テロ、その報復としてのイラク戦争、エンロンを初めとする優良企業と目されていた大企業の不正会計処理問題の発覚など、景気を悪化させる重大な事件事故が重なった。 おかげで現在の米国は、景気回復のための減税、財政支出の増加などにより一時は黒字であった財政が大幅赤字に転落した。 またこれまでのドル高政策により競争力を失った企業の輸出も依然として振るわず貿易収支も大幅赤字が続く。 前クリントン政権は好景気による株高、ドル高、債券高を演出し世界のマネーを呼び込み空前の好景気を持続させた。 長期にわたる好景気におぼれて、好景気は永遠に持続すると唱えた経済学者まで現れた。 クリントン政権はもっぱら金融政策により世界から金を吸収して景気の持続、拡大を図った。 そのためにはドル高が必要であった。 一方産業界は長期にわたるドル高政策により、日本を初め中国や、アジア諸国に対する競争力が特に衰えている。 金融政策により国内の景気が好調であった時は良かったが、需要が停滞し景気が悪化してくると、企業の倒産も増え、リストラも進む。 現在の米国は我が国と同じく国民の雇用問題が、大きな課題となっている。景気が低迷すると企業は海外に活路を求めようとする。 しかしドル高では他国との競争に勝てない。そこで為替問題が浮上する。 これまでにも為替をめぐって金融界と産業界との間に軋轢はあった。 クリントン政権時代は金融界が景気拡大を支えているとして、金融界よりの政策が推し進められた。 ブッシュ大統領に代わると支持基盤である産業界よりの政策に転換するだろうと予測はされていた。

ただ米国は経常収支で世界一の赤字国で、海外からのマネーが途絶えるとやっていけなくなる。 だからドルの全面安は大変困る。
景気の悪い経常収支赤字国に誰も投資などしないから。 だから建前としてドル高堅持を唱えながら、実質的には為替政策をドル安に転換する。 最近の米国は他国の為替問題に言及することが多い。 例えば中国の元切り上げ問題とか、我が国の為替介入に対するコメントなど。 これらは為替政策のドル安への転換をにじませている。 そしてドル安が進む間に自国産業の競争力をよみがえらせ、景気の回復を図る。というのが米国の狙いではないか。 しかしこの政策が米国の望むとおりになるかどうかは予断を許さない。
最近の新聞に中国が外貨準備の一部をドルからユーロに転換したとか、アジアの中央銀行がディーリング感覚でドル売りに参加しているとか書かれている。 ドルは現在他国通貨に対して全面安で、アジア通貨もその例外ではない。アジア諸国は自国通貨がドルに対して値上がりすると貿易面で影響力が大きいから、その中央銀行は通常ドルを売ったりはしない。 これらはドル離れを象徴する出来事として注目に値する。 このままドル離れが進むとドル暴落という事態もあるかもしれない。 そういう意味で現在の米国為替政策は、ドル危機をも招きかねない危うい選択といえる。 


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