直接金融

毎年3月になると株価が気になる時期である。 特に今年は株価がバブル崩壊後の安値を更新し続け、3月末の株価水準によっては我が国経済は大打撃を蒙る。 すでに平均株価は8,000円の大台を割り込み更に下値を窺う動きをみせている。 株価が下落すると政府は緊急株価対策を講じるが、今年は有効な対策があるのか。 昨年はカラ売り防止対策で何とか3月末を乗り切ったが、今年はどうなるのであろうか。 新聞によると平均株価の8000円割れで、「増資で集めた資本がことごとく消えてしまう」と黙り込んでしまう大手銀行の幹部があるとか。 不良債権処理や株価の下落に備えて、大手銀行は今年に入って軒並み資本増強策を発表している。みずほ銀行1兆2000億円、三井住友銀行4950億円、三菱東京銀行3000億円、UFJ銀行1200億円、りそな銀行1000億円など。しかし平均株価が3月末に仮に7000円を割り込むようなことになるとこの資本増強はすべて水泡に帰し、改めて更なる資本増強策を考えなければならなくなる。それが可能なのかどうか、現在の経済情勢からすると限りなく不可能に近いと判断されるのだが。いよいよ銀行の嫌う国による資本注入が必要になるかもしれない。いずれにしても銀行が株を保有する限り、本業による収益以外に常に株価下落によるリスクを背負うこととなる。株価下落による企業業績への影響は金融機関だけであろうか。トヨタ自動車は保有するUFJ銀行の株価が、現状で前3月期より60% も下落したためこのままであれば今期200億円以上の評価損計上を迫られる。新日本製鉄も保有する銀行株の下落により420億円の評価損が発生する、と報じられている。そのほかでも上場企業は金融機関との付き合い上、株式の持合をしている企業が多数あると思われ、これらはことごとく評価損計上を余儀なくされる。金融法人以外の事業法人でも株式保有によるリスクを軽減するため出来る限り保有株を圧縮する動きが広がっている。 

では誰が金融法人や、事業法人に代わって株を買うのか。政府はそれを個人に期待している。個人を直接資本市場に参加させることにより、これまで金融機関のみがリスクをとっていた間接金融から個人もリスクを負担する直接金融を目指す。しかし個人を株式市場に参加させることはなかなか容易ではない。特に株価下落による金融機関の巨額損失が毎日のように報じられるこの時期に、個人がリスクをとるとは到底考えられない。それでなくても個人はこれまで長い間預貯金の元本全額保護で守られてきた。ようやく最近になって一部ペイオフが実施されているが、相変わらず個人は資産の運用で安全志向が強い。この意識を改革するためには、株式市場に参加する個人に対し、時限立法でもよいから相当思い切った優遇策を講じる必要がある。これまでにも一応優遇策は講じられてはいるが、中途半端で目に見える効果が上がっていない。今後株式市場参加者のうち金融法人、事業法人が取引を縮小させると資本市場の円滑な運営に支障をきたすようになるのではないか。そうならないためにも個人の株式市場参加は必須条件ではないのか。個人を株式市場に参加させる思い切った優遇策とはどんなものがあるだろう。考えられるのは株式売買益(キャピタルゲイン)に一切課税しないこと。また場合によっては株式売却によって損失が出た場合、その損失を他の所得から控除できる損益通算等の措置。とにかくこれまでの常識では考えられなかった税制上の優遇措置を設ける。これぐらいしないと現在の環境で個人を資本市場へ参加させることは難しいのではないか。

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