デフレの余波

 我が国経済がデフレ不況といわれて久しい。 1990年初頭より株価の暴落が始まり、それに連動して土地の暴落も始まった。 そしてそれは現在もまだ進行中である。 その間に失われた株や転換社債などの有価証券、土地や建物などの不動産の資産価値は一体幾らぐらいになるのであろうか。 バブル期平均株価のピークが38、900円、現在の平均株価が8500円台割れ。 不動産も市街地がピークの30%、商業地に至ってはピーク時の20%にまで下落している。  一説によるとこの間失われた国民の富は株で470兆円、不動産で920兆円、合計1390兆円といわれる。  これは現在家計がもつ個人金融資産1400兆円に匹敵する。 これだけ巨額の資産がバブル崩壊により泡と消えたのだ。 しかも当時大部分の企業が財テクと称し、銀行から金を借りて不動産や株を買った。 そして資産は買値の三分の一以下に下落し、借金はそのまま残った。  企業は資産価値の暴落にもかかわらず、莫大な借金の金利を払い続けねばならず、少しでも過大な債務を減らすため損失を覚悟で資産を売却し、借金返済に充てなければならない。   しかし本業の利益で資産売却の損失をすべてカバーできる高収益企業はそんなに多くない。 そのため大部分の企業が当期の本業の利益に見合う程度の資産売却損しか計上しない。 それにもう少し持ち続ければ資産価値が回復するのではないか、という希望的観測もあった。  結局バブル期に取得した資産は、結果的に持続すれば持続するほど損失が大きくなった。 だから早めに資産を売却した、高収益の企業ほど資産売却の損失が少なくなったことになる。

一方、法人に対し個人の資産損失はどうであったか。 我が国は個人の株式保有が少ない。 この為一部の高所得者を除いて、バブル期の株による損失は法人ほど大きくない。 それと銀行から金を借りてまで株式投資をした人はまれである。 だから個人の投資による資産損失は法人に比べると少なかった。 例外はバブル期に住宅ローンで家を買った人である。 これらの人はバブル崩壊により痛手を受けた。 我が国の個人金融資産は約1400兆円といわれているが、総務省の家計調査報告(平成14年1〜3月期)によると一世帯あたりの貯蓄現在高は、全世帯で1716万円、勤労者世帯で1313万円となっている。  貯蓄の種類別内訳は全世帯で預貯金が60.1%、生命保険など27.5%、株.債券等有価証券9.8%その他2.6%となっており、勤労者世帯では預貯金57.7%生命保険など30.2%有価証券7.5%その他4.6%となっている。 バブル期の個人貯蓄の内訳の資料はないが、我が国個人の金融資産は預貯金が主体であり、個人が投機目当ての財テクにはしったという記憶もないので、貯蓄の内訳は現在と極端な変動はなかったと思われる。
このため個人がバブル崩壊により直接被害を蒙った割合は少なかったが、勤務先の倒産に遭ったり、事業不振のためリストラに遭ったり、と間接的なバブル崩壊の影響はかなり深刻であった。

では、国の財政状況はバブル崩壊によっていかなる影響を受けたか。 バブル崩壊により国民(法人、個人)は1400兆円に近い富を失った。 当然個人は不要不急の消費を控え,必需品でも1円でも安く買おうとする。 企業は消費が抑制されるから設備投資をしない。 むしろ物が売れないから過剰な設備は廃棄する。 そして過剰になった人員も整理する。 いわゆるリストラである。 こうして時がたつにつれて不況はますます深刻化していった。  政府(国)はこの不況を何とか食い止めようと、財政出動による公共投資を幾度となく繰り返した。 しかし度々の財政出動にもかかわらづ景気は一向に回復しない。  こうして国の財政はますます悪化し、いまや国の長期債務残高は(地方債を含む)700兆円を超えるといわれている。 資産価値の下落が1,400兆円にも及ぶのだから100兆や200兆の公共投資では、景気の下支えにもならないと思われる。 ただ景気回復が思わしくなかったから、公共投資は国の財政を悪化させただけで何の効果もなかった。 無駄な投資であったとは言い切れない。 財政出動による公共投資があったからこそ、景気の悪化がこの程度で済んだ、という人もある。

いずれにしても、国も企業もバブル崩壊により大打撃を蒙った。 比較的影響の少なかったのが、家計の個人金融資産である。 これからはこの過剰といわれる個人の貯蓄を、いかにして成長分野に移転させるかが、国の政策目標となってくる。 だから税制上も国際競争力を維持する上からも、法人税は引き下げ方向。  一方個人の所得税や、消費税は課税強化が鮮明になってくると思われる。 また社会保険についても、医療費、国民年金保険料等の負担増が確実だ。

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