リスク負担の増大

我が国金融機関の不良債権問題は、リスク負担について我が国経済の仕組みの根幹を揺るがす問題を提起した。 これまで我が国では中堅、中小企業を中心に資金調達はほとんど間接金融に頼ってきた。 そして金融機関は不動産や、有価証券を担保として企業に融資を行った。  バブル崩壊前まで土地や,株など有価証券は、短期的には多少の価格の変動があっても長期的には必ず値上がりするという実績があった。 この実績が土地や株は将来絶対値下がりしないとの信念となり、神話ともなっていた。  銀行は担保となる土地や有価証券さえあれば、企業の収益性や財務の健全性に少しぐらい問題があっても、ほとんど融資を行ってきた。 其れまではこれでよかった。 万一融資の返済が滞っても担保さへ処分すれば解決できた。 これが銀行の融資に対するリスク感覚を麻痺させた。 そもそも融資がリスクを伴う行為であることを、十分認識しない安易さがあったのではないか。 ところがバブル崩壊で状況は一変した。 土地も株も持てば持つほど損失が広がった。 しかしバブル崩壊当初は、ほとんどの人が土地も株も値下がりは一時的なものだ、もう少し辛抱して持ち続ければそのうちに回復する、と思い込んでいた。 事実経済学者でも,政治家でもバブルがこれほど惨憺たる結果をもたらすと予想した人はいなかった。 そのうちに外資系の証券会社が、我が国金融機関は百兆円近い不良債権を抱えているという調査情報を流しだした。 しかし大半の人は証券会社が空売りして儲けるために、大げさな情報を流しているのだとして信用しなかった。 後で考えるとこの情報は正しかった。  この情報を信じてこの時点で保有する土地や、株を処分しておれば被害は比較的軽微ですんだ。希望的観測から損失の発生を先延ばしした企業ほど損失は大きい。 その一番の被害者が銀行や、ゼネコン、不動産業者などであった。 間接金融では銀行は預金者から元本保証で預金を集め、これを企業に融資して収益を上げてきた。 融資に伴う貸し倒れのリスクは全部銀行が負担してきた。  しかし不良債権の激増から銀行など金融機関は、リスク負担の能力を失いつつある。 これからは預金者も、リターンに見合う応分のリスク負担を要求されることとなる。 一部ペイオフが実施になったのもこういう理由からである。   

今後は個人も今までのように元本保証で、リスクなしと言うような金融商品はまずありえないと自覚すべきである。 またリスクが少なくてリターンが多いという、うまい話もありえない。 リスクが少ない商品は誰もがほしいから競争が激しい。 したがってリターンも少ない。
大きなリターンがほしければリスクの高い商品を選ぶしかない。 それも自己責任で、が原則となる。  だから出来るだけリターンが大きくて、比較的リスクの少ない商品はないか、われわれ個人も経済の勉強をしなければならない時代になってきたようである。       デフレ不況が深刻化する我が国では、10年を超える低金利時代が続いており、長期金利の指標となる10年もの国債の利回りは、ついに0.775%まで低下した。 この水準でも我が国金融機関は国債を買い続ける。 このまま際限もなく国債を買い続ければ、金利が反転して上昇に向かったとき、国債価格は大暴落する。 銀行はそのリスクをどう考えているのだろう。 国債バブルの弾けたときのことを考えると空恐ろしくなる。  この状況から判断する限り、今後も我が国の低金利は当分続くであろう。 そうすると預金の利息収入はほとんど期待できない水準がが続くこととなる。 なけなしの資産を如何に安全で有利に運用していくか、これからはその巧拙によって大差が生じる可能性が大である。  

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