円高はあるか
今年もはや師走がやってきた。 この一年世界の経済情勢は激変した。 それまで好景気に沸いた米国は一時は「このまま好景気がずっと続く、景気の波は気にしなくてよい」という超楽観的なニューエコノミー論なるものが、真剣に論じられるほど経済は順調であった。
しかし2000年後半よりそれまでの好景気の担い手であったI
T関連産業が過剰投資、過剰生産から変調をきたし、景気悪化の懸念もあってこれまで高騰していた株価も急落し始めた。 今年新年早々F
R Bは株価の暴落を防止するため緊急利下げを実施した。 以後
10回景気回復と株価テコ入れのため、矢継ぎ早に利下げを実施した。 年初6.5%であったフェデラルファンド(F
F)金利は現在2.0%まで引き下げられている。 しかしこれほど大幅で機敏な利下げにもかかわらず、米国景気は一向に回復の気配が見られない。
それどころか景気悪化に追い討ちをかける大事件が発生した。 9月に発生した同時多発テロ事件である。 この事件による人的、物的被害はもちろん多大であったが、それと同時に米国民に与えた心理的影響は大きい。 それまで景気の落ち込みを何とか支えてきた個人消費が一気に悪化した。 期待されていたクリスマス商戦も不発に終わりそうだ。 最近米国のリセッション(景気後退)入りは本年3月だと発表されている。
一方の我が国はどうか。 “失われた10年”といわれる長期景気低迷が続く我が国は米国の景気後退の影響を受けて、最近はますます景気悪化が著しい。 ここ一、二ヶ月の間に主なところでもマイカル、大成火災、新潟鐵工所、青木建設等続々上場企業が倒産している。 これ以外にも株価が額面割れの企業が多数存在し、これらは市場が破綻企業として認知した倒産予備軍である。
金融機関の体力消耗も著しい。 株価が最高値の十分の一以下に下落した金融機関も珍しくない。 先日発表になった2001年経済財政白書に、年間に処理した不良債権が10兆円、新たに発生した不良債権が10兆円と記されており、不良債権は一向に減っていない。 近年銀行は業務純益を上回る不良債権処理を毎年迫られており、年々体力が低下してきている。 平時であれば支えられた主取引先の緊急事態も、現在では支えきれなくなっている。 これ以上銀行がリスクをとることは、銀行自体が危機に陥ることになりかねない。 今後年末から来年3月にかけて市場の評価の厳しい企業が、経営危機に陥る可能性が指摘されている。
「構造改革なくして景気回復なし」の旗印の下、改革を推し進めるには、低収益で生産性の低い企業は市場からの退出を余儀なくされるのであろうが、その痛みがいよいよ本格的に出てくる。 こうした中、つい先日日本国債の格付けが引き下げになった。 先進国の中の最低のランクで、隣国の韓国とほぼ肩を並べる水準である。 相次ぐ大企業の倒産と、遅々として進まぬ構造改革への苛立ちが国債格下げにつながったものと思われる。
こうした諸般の状況から判断して為替の行方を占うと、円もドルも決して万全の体制ではない。 どちらも景気の先行きに不安がある。
しかし米国にはまだとりうる対策がある。 金利は低下したとはいえまだ若干の下げ余地を残している。 財政も我が国よりはよほど健全だ。 一方我が国は、金融緩和を進めるぐらいしか方策がない。 また金融緩和を進めるにあたって、外債を買い取るという案が最近浮上してきた。 これはとりもなおさづ円安につながる。 経常収支黒字国の我が国が、円安を進めるため外債を買い取るのは
問題があるが、景気回復のための金融緩和の手段として外債を買い取るのであれば、容認されるのではないかといわれている。
それ以外にも、世界の半導体ファウンドリー(受託生産会社)の最大手台湾積体電路(T
S M C)の受注額が、ここ数ヶ月増加に転じてきたという注目すべきニュースも伝えられている。 これはI
T先進国米国にとっては久しぶりの朗報である。 これに引き換え我が国は、これから構造改革が進むにつれて厳しい局面が続くと予想されるので、ここ当分円安が進みこそすれ、円高の可能性は少ないと推測される。