あしなが募金

今年も あしなが募金の季節がやってきた。  当初は交通遺児、病気や災害で死亡した人の遺児等を対象に奨学資金が貸与されていたようである。 しかし近年は長引く不況による会社の倒産、人員整理(リストラ)による失業、商売の行き詰まり等により将来に希望を見出せなくなった働き手の自殺が急増しており、これらの人々の遺児に対する奨学資金の貸与も増加しつつあるようだ。

事情は少し異なるが、我が家も日本育英会の奨学資金の貸与を受けている。  息子が大学院の修士課程に進んだ平成11年から修了までの2年間と、今年4月からの博士課程1年の上半期、半年分である。  幸運にも息子は今年11月から、大学院の研究室助手として採用されたため、博士課程を中途退学することなり、本年分は上半期分だけとなる。

高コスト体質の進むわが国で、特に人件費は世界最高水準にあり、低賃金を求めて国内企業の海外流失が止まらない。
中でも中国への進出は、中国の技術水準の著しい向上もあって目を見張るものがある。 つい7,8年前までは産業の基幹となる技術は国内にとどめ、ある程度成熟した技術のみを海外に移転していた。 しかし現在では不況による競争の激化もあって、最新の技術をどしどし海外に移転しないと競争に勝ち抜けない。

最近貿易収支の黒字が急激に縮小しつつあり、このままでは遠からず貿易収支の赤字という事態が起こりうるのではないかと、一部では危惧されている。 国内でモノを作っていては国際競争で勝ち目はないとして、主だった企業を初め、中堅の中小企業まで工場を海外に移転し始めた。 そこで生産された安い商品をわが国に輸入するという構図である。 産業の空洞化が進み、産業構造の変革が進行している。  このまま国内産業は国際競争力を失なって衰退の道をたどるのか。 競争力を回復する方策はあるのか。

ひとつには、コスト高の一番の要因とされる人件費の抑制、すなわち賃金の切り下げ。 すでに一部の企業であは実行に移されつつある。 二つ目は為替の切り下げ。  それも単なる円安政策ではなく、競争力の回復に影響力を及ぼすほどの大幅な円安誘導政策の実施。 三つ目は知的競争力の強化。  コスト競争力の弱いわが国がとりうる対策でもっとも望ましいのが、この方策ではないかと思われる。  しかしながら、知的競争力の強化は一朝一夕には進まない。 これまでわが国は貿易収支黒字国、経常収支黒字国として、教育政策の方向が「ゆとり教育」とか「詰め込み主義反対」とか競争力の強化とは反対の方向を目指していた。  この間にNEIS(新興経済地域)諸国は知的競争力強化に全力を注ぎ、かってはわが国の独壇場であった知識集約型産業といわれる分野に続々進出しており、彼我の技術的水準の差は著しく縮小している。  ちょうどウサギとカメの寓話に似ている。  経済大国の名におぼれて昼寝していたわが国は、目が覚めてみるとカメであるNEIS諸国につい後ろまで迫られている、という状況である。今後わが国は、IT立国、技術立国につづいて教育立国も旗印に掲げて、国際競争力回復のため全力を尽くすべきではないか。

意欲ある研究者にとって現在のわが国の教育環境は、決して恵まれたものではない。 昨日の新聞にドイツの大学のきじが載っていた。 それによると、大学はほとんど国立で授業料は基本的に無料。 地下鉄やバスの割引定期券が支給され、格安の学生寮や学食も整っている。 日本円に換算して4〜5万円あれば何とか暮らしていける、と書かれている。  これに対してわが国の大学はもちろんすべて有料、学生に対する格別の配慮もない。 大学を終えてさらに勉学を志し、大学院への進学を希望しても修士課程が2年、博士課程がさらに3年、この間アルバイトをしなければ無収入、学費、生活費のすべてを親に頼ることになる。 これだけの負担を簡単に援助できる親は限られている。  そこで頼らなければならないのが奨学資金である。 中には返済のいらない奨学資金もあるがごく少数しか援助を受けられない。 その代表的なものに、日本学術振興会の特別研究員という制度がある。 ぞくに 学振 と呼ばれ大学院生の間では有名な制度である。 しかしこの制度の適用を受けるのは並大抵ではない。 ここ数年間全国の大学院生および博士の学位を取得した
常勤でない研究者合わせて年間2000人に満たない。この選に漏れた大多数は日本育英会の奨学資金を頼ることとなる。 しかしこの奨学資金は学校卒業後月づき返済して行かなければならない。 卒業後就職するものはよいが、さらに学校に残って研究を続けるもの
にとってはこの負担が重荷になる。 勉学への強い意志がありながら、生活苦におびえるこの意欲ある研究者を、雑念を除いて何とか研究に専念させられないか。 現在のわが国においては残念ながら研究者を優遇する制度はない。 すべて自己の負担において研究を続けるしかない。
知的競争力の強化を目指すのであれば、研究者が安心して研究を続けられる環境をまず整えることが基本であろう。

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