規制緩和の終焉

米国の同時多発テロ事件発生から一ヶ月を経過したが、いよいよ米国によるテロ事件首謀者オサマ.ビンラディンおよびテロ支援国家(組織)タリバンへの報復が開始された。 今後事態がどう展開するのか現在のところ予測できないが、今回のテロ事件は米国に人的、物的に大打撃をもたらし、それにもまして米国の誇りと自信を大きく傷つけた。

これまで米国は唯一の超大国として君臨し、政治.経済.軍事.いずれの面においても世界一級の力を誇示してきた。 それが実行犯としては、わずか数十名に満たないテログループにより経済および軍事の中枢部が大打撃をこうむった。 それも破壊行為の武器が自国の旅客機という屈辱的な手段により実行されている。 その被害もすさまじく数千人の人命が奪われ、経済的損害額も一説では1000億ドルをこえるといわれるほど甚大であった。

なぜこれほどの大事件が易々と実行できたのか
これまで米国は個人の自由と、市場への介入を極力排し市場原理に基づくグローバル経済を推進してきた。 国家は規制をできる限り緩和し、民間でできることは民間に任せるという小さな政府を目指していた。 この自由放任とも取れる規制緩和が今回の事件の背景にあるといわれている。 個人の自由をあくまで尊重し国による規制、介入は必要最小限度にとどめるというのがこれまでの政策であった。 人、モノ、カネが瞬時に国境を越えて自由に往来することこそ経済的繁栄をもたらすとして、これを阻止する垣根をできる限り低く抑えてきた。

今回の事件を契機に従来のような規制緩和、市場不介入主義が見直されるのは確実であろう。  事件前にすでに実質景気後退の様相を呈していた米国経済は今回の事件により、唯一堅調を続けてきた個人消費も悪化が避けられない。  テロによる航空、保険、観光業界等の人員整理増大の動き、テロ事件報復の今後の見通し不透明、最近発生した新たな生物兵器テロ疑惑等消費者心理を悪化させる材料が山積しており、事実事件後個人消費が大幅な落ち込みを示し始めている。

これに対して中央銀行であるFRBは、事件後矢継ぎ早に2回計1%の緊急利下げを行い、米政府はテロ対策、復興費などに400億ドル、
航空業界支援に150億ドル、失業対策に30億ドルの緊急財政支出を決定し、追加財政刺激策として大幅な減税を検討中である。
しかしながら今日のニュース報道を見ると、疑われていた炭疽菌による被害が生物兵器テロと断定されている。 このようなテロ事件が続発すると米国国民は、安心して消費を楽しむという心境にはなれない。 しかもテロが思いもよらない方法で実行される。 旅客機突入によるテロ、生物兵器によるテロ、これらは映画や、小説などに登場する虚構の話として、誰もそれが現実に起こりうるとは信じていなかった。次にはどのようなことが起こるか、被害が自分の身辺に及ぶのではないか、恐怖と不安で買い物どころではない、といった心境であろう。  このような状態は事件が解決するか、テロ行為がこれ以上発生しないという確証が得られない限り、根本的には解消しないであろう。 

今後国家安全保障のためには、個人の自由や、権利はある程度制限されてもやむを得ないとして、国による規制、介入が積極的に行われる可能性が高くなった。

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