寸にして断たざれば

“昔の諺に、寸にして断たざれば尺の憾みあり、尺にして断たざれば丈の憾みあり、たとへ一木といえどもこれを双葉のうちに刈り取ることはきわめて容易ではありますが、その根が深く地中に蟠踞するにいたっては、これを倒すことはなかなか容易ではない。....。”
これは昭和11年5月7日軍部勢力が圧倒的であった頃,憲政擁護の闘将として評価の高かった政治家、斉藤隆夫の帝国議会における“粛軍演説”の一節である。

景気低迷の続く米国は8月30日、約4ヵ月半ぶりにダウ30種平均株価が一万ドルの大台を割り込み9、919ドルで引けた。
年初には、金利引下げと所得税減税の効果により年央には景気が立ち直り、年後半には景気回復は本格的になると、予想されていた。  しかし度重なる利下げにもかかわらず景気は一向に立ち直る気配が見えず、時とともに企業業績の悪化を伝えるニュースばかりが目立ち、これを映して株価も下落を続けている。   唯一GDP(国内総生産)の60%を閉める個人消費のみが今のところ堅調で、景気予測もこれを期待しての希望的観測の面が見受けられる。  それでも最近では景気の本格的な立ち直りは、来年後半にずれ込むと報じられだした。  景気が悪化するにつれ人員整理、企業倒産が相次ぎ、金融機関の不良債権も増加しつつある。  なかでもハイテク産業分野はこれまでの過剰投資、過剰生産がたたり、その在庫調整は容易ではなく、バブル崩壊の様相さえ呈してきた。
金利の低下から不動産価格は今のところ比較的落ち着いており、株価の下落ほど値下がりしていない。  これが消費者心理を安定させ個人消費を支えている。  もしこれが株価とともに下落に転じると、消費者心理は一気に悪化し景気底割れの可能性も出てくる。

一方米国経済に依存する我が国は、一段と景気悪化の兆候が鮮明になってきた。  冒頭に掲げた斉藤隆夫の演説は、日本の現状をよく示唆している。   不良債権の処理、構造改革の遅れ、いずれもこの格言どうりである。  不良債権も構造改革の遅れも、初期の段階で抜本的処理を行っていれば、このように長期にわたって不況に苦しむことはなかったであろう。  痛みを伴う処理を先延ばしした結果、我が国はその何層倍もの苦しみを味わってきた。
この苦境を克服するため国民の衆望を担って登場した小泉内閣も、発足当時の改革の意気込みが、最近はやや後退しているように見受けられる。

たとえば、証券税制の問題
ペイオフを来年に控えて、銀行の金融仲介機能の低下から、直接金融移行は重要な課題であったはづである。  その為に1400兆円といわれる個人金融資産をいかにスムースに資本市場に呼び込むか。  個人投資家を優遇する税制は、早急に処理(決定)しなければならない問題であろう。  個人がリスクをとっても参加できる魅力的な政策が必要である。  しかしながら、現実には税制の朝令暮改は困るとか、証券税制だけを優遇するのは他の所得との整合性にかけるとか、後ろ向きの意見が出て思い切った政策が出てこない。
今までとほとんど変わらない政策であれば、誰もこの不景気にわざわざリスクをとって株を買うとは思われない。
小泉政権の改革後退ムードを受けて株価は下落歩調を強めだした。

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