銀行決算発表

2001年3月期の大手銀行16行の決算発表が新聞に報道されている。  その中で不良債権に関し、今下期に発生した不良債権の総額が3兆4千億円にのぼった。  16行は下期に4兆4千億円の不良債権を最終処理したが、貸出債権の不良化がとまらないことで今後3年以内に最終処理を迫られる不良債権は11兆7千億円近くに及ぶ。  本業の利益を示す業務純益は大手16行合計2001年3月期に3兆6千億円となり、前記より6パーセント強増えた。だが不良債権処理の負担が重いので最終利益は計520億円にとどまり、16行中7行が赤字となった、と報じている。  

去る5月11日、米国の高名な経済学者が寄稿した論文が新聞に掲載されている。   その中で日本の銀行の低収益に関し
名目金利がほぼゼロまで不自然に押し下げられているせいで、銀行の経営危機は一段と深刻になりつつある。  日本の銀行は優良融資先に対してすら、十分に利益の上がるような新規貸し出しを実行してバランスシートを健全化することができない。  現在の日本のプライムレート(最優遇貸出金利)は年1.4パーセントである。   つまりインターバンク市場で銀行が資金調達するときのほぼ0パーセントの金利コストと比較した利ざやは年1.3パーセントに過ぎない。
これに対して米国では、プライムレートが現在でも7.5パーセント(5月11日当時)であり、短期金融市場で資金調達するときの金利は4.5パーセントだから利ざやは3パーセントある。  これだけでも米国の銀行の利ざやが日本の銀行の2倍に及ぶ。  さらに当座預金口座で集めた金利ゼロの資金を優良顧客に7.5パーセントで貸付することができる。  ところが日本の銀行は1.4パーセントしか金利収入が得られない。   これでは日本の銀行が貸し渋るのは無理はないし、過去の融資が不良債権化して巨額の損失をこうむった結果として、事実上目減りした自己資本を回復するだけの利益を生み出せないのも当然である。  市場金利がゼロに近い水準にとどまる限り銀行のバランスシートの健全化、すなわち過去の不良債権の処理と資本注入の繰り返しだけでは、新たな銀行貸出を刺激することはできない。  したがって低金利の流動性のワナから抜け出すことが次の理由から必要である。   経済をマクロ的に管理する日銀の能力を回復させることと、銀行の利ざやを十分拡大して新規貸し出しを促進し、自己資本の建て直しを目指すことである、と説いている。
そしてもし、為替リスクさえ考えなければ金利裁定の圧力が働いて、利回りがはるかに良いドル建て資産に資金が向かうはずである。
その結果日本の金利も上昇し、銀行の利ざやも拡大して「正常な」国際水準に近づくはずである。   ところが日本の家計も、企業も将来は必ず円高になるという予想が驚くほど強い。   今から10年後日本の円はずっと高くなると信じ込まない限り,10年物国債を1.3
パーセントというきわめて低い利回りでもつ理由がない。   日本の金利を「正常な」国際水準に近づけるには、将来の円ドル相場が現在の相場から大きく乖離しないとの信頼できるシグナルを日米両国の政府が発信する必要があると、述べている。

確かに一面では傾聴に値する名案である。  金利が上昇すると銀行の預貸金利ざやは拡大し、不良債権処理に弾みがつくだろう。
銀行の収益も改善し、金融不安の懸念もなくなるだろう。  然し我々素人には理解できない疑念も生じる。  現在の状況で金利が上昇すると、これに対応できる企業が果たしてあるのか。 株価下落が当然予想されるが、これにどう対処するのか。 企業倒産も顕著に増加すると思われるが、その対策をどうするのか等々。

日本経済がこの長期低迷から抜け出す対策について、いろいろの人が、いろいろの場面で述べているが、抜本的な名案はなかなか見つからない。

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