個人投資の奨励
昔はともかく現在でも、個人が株に投資する事は、なんとなく憚られる雰囲気がある。 株で利益をあげると”は額に汗して働かないで得たアブク銭”として軽蔑され、損をすると”それ見たことか投機に現を抜かすからそうなる”と冷笑される。
株式投資を、競輪や競馬、花札、サイコロのように、偶然に賭ける賭博行為と同列に認識するという風潮がある。 だから健全な一般人は、株式投資には近づかないものとの意識もあった。
選挙のたびに公開される国会議員とか、大臣の資産内容で、大量に株式を保有している事がわかると、その政治家をなんとなく胡乱な目で見てしまう傾向もある。
こういう株に対するいわれなき偏見を打破するには、国が投資を奨励するという意思表示を積極的に示す必要がある。
約1400兆円にも及ぶ個人金融資産を資本市場に呼び込むには、国が個人の株式投資を奨励するという具体的な意思表示、即ち政策が必要である。 どちらかというとこれまで個人の株式投資に対する国の政策(主に税制面)は冷淡であった。
例えば株の売買による損益は、分離課税として他の所得とは通算できない。 だから株の売買でいくら巨額の損失が出ようと他に所得があれば、その所得に対する税金は課税される。 即ち株の損失は無かった事として救済されない。 しかもこの損失は一年限りで翌年に繰越できない。 又不幸にして投資している株が倒産等で上場廃止になった場合、その損失も税制面で何ら救済されない。
法人であれば総合課税であるから、前述の二例とも税金面で救済される。
国が投資を奨励するのであれば、法人に比べて不利な取り扱いの多いい現在の税制は、是正する必要がある。 それでないとリスクを取って投資し、その上リスクは全部個人が負担するのであれば、(税制上の救済措置も受けられないのであれば)誰も安全資産からリスク資産に乗り換えたりしないであろう。
今株式市場は銀行の持ち合い株解消、法人の株式時価評価問題で、売り手ばかり多くて買い手がいない。 今後も法人は所有する株式を売却こそすれ、買い手にはまわらないであろう。
銀行や他の金融機関も勿論買わない。 それでは誰がこれを肩代わりするのか。
株価が下落している今の時点で、個人がリスクをとって株式投資をするのには相当の決断が要る。 景気低迷が続く現在、将来に備えて蓄えた資産をリスクを伴う資産に乗り換えるためには、相応のメリットが必要である。 株価が上昇している局面では、株式投資に対する抵抗も比較的少ないであろうが、長期低落傾向が続く現在では相当な優遇措置が必要となろう。
国の方針として、将来銀行主体の間接金融に頼らず、資本市場からt直接資金を取り入れる直接金融を目標とするのであれば、この際個人投資家を大幅に優遇する事こそ、将来の資本市場振興に役立つのではないか。