個人投資家

いま市場では企業(主として金融機関)による持合株の売却が、株価下落の一因と取り沙汰されている。

これまで我国では企業が資金を調達する場合、金融機関から借り入れする間接金融が主体であった。  そのため企業は安定した取引ができるように取引銀行の株式を取得し、銀行も望ましい取引先であれば継続した取引を確保する為、融資先企業の株式を取得する。    又取引関係で関連のある企業同士、友好関係にある企業同士、今後取引を深めたい企業同士等がお互いに相手先企業の
株式を取得し合った。   こうしてお互いが株式を持ち合う慣習が出来上がった。

株価が右肩上がりの時代には、この持合はお互いに結構メリットがあった。  市場に流通する株数がその分少なくなるので、株価が
値上がりしやすくなるし、企業買収を防止する為の安定株主作り等に効果があったからである。  またこの時代には株式を保有していれば、長期的には含み益が期待できた。

しかし株価が暴落し、立ち直れないまま下落歩調を続けると話は別である。  株は持てば持つほど含み損が拡大する。  又資金が固定するので、資産の有効利用の面で効率が悪くなる。   その上これまで取得原価主義で、株を売却するまで損益が表面に現れなかったものが、国際会計基準に合わせて時価会計に移行する為、決算期末に時価評価しその損益を決算書上に反映させなければならなくなった。

この影響を一番強く受けるのが銀行等金融機関である。  金融機関は前述のごとく持合により取引先企業の株式を多数保有している。
決算期末の株価が下がると、株価水準によっては巨額の赤字を計上しなければならなくなる。  株価が18,000円台であれば、大部分の金融機関の保有株は評価益が出ると思われる。   しかしそれが13500円台となると、評価益が出せる銀行は極めて稀である。

金融機関は株価水準によって決算の数字が大きく変動する株式の保有を、極力圧縮するする傾向にあり、今後もこの状況は変わらないであろう。  事業法人も時価会計移行に伴い、持ち合い株を解消する方向では金融機関と同じである。   結局法人は今後株を売却する姿勢を強めこそすれ、新規に取得する可能性は極めて少ない。

それでは誰がリスクを取って株を肩代わりするのか。   それを期待されているのが金融資産1400兆円とも言われている個人である。
しかし個人はバブル時代の株価崩落に懲りて、そう簡単には乗ってこない。  そのため株式譲渡益の課税軽減、配当二重課税の廃止、株式譲渡損の他の所得との通算、譲渡損失の翌年度繰越等個人が株式を取得しやすい税制を検討していくものと思われる。  また
個人が株式投資に参加するには税制に限らず、株式市場の信頼性を高め、公正な価格形成を実現させるとともに、上場企業はディスクロジャーを徹底し、投資家の判断を誤らせないよう努めなければならない。
こうする事によって、個人が徐々に安全資産からリスク資産へ資産を移動することが期待できるのである。


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