高齢者受難時代

政府税制調査会は4月19日の基礎問題小委員会で、国民年金や厚生年金など公的年金の受給者が年金を受け取る段階での課税強化を検討することで一致したと報じられている。  年金収入から一定額を差し引ける公的年金控除を減額する狙い。 年金課税を強化するのは、所得税の各種控除の見直しの一環。  バブル崩壊前の90年代初頭までは高齢者といえば、社会的弱者として税制面でも、社会保障制度上でも手厚く保護されてきた。  しかしバブル崩壊後長期不況の続く現在では、高齢者は比較的ゆとりのある金融資産の保有者として、その保有する資産を如何にして他に移転させるかその対策を官民とも、虎視眈々として狙っている。 たとえば贈与税の軽減の問題、住宅を取得する際親から子への住宅資金援助の無税枠をこれまでよりも大幅に拡大し資産を移転し易くするとか、贈与税の基礎控除枠をこれまでの年60万円から平成13年度より年110万円に引き上げるなどの措置。  これらは高齢者の保有する金融資産を若い世代に移転させて、少しでも個人消費を拡大させ景気回復を側面から援護する狙い。  個人所得は高齢者に限らず若い世代も今後増税の方向がますます確定的となるであろう。  これまでにも度々述べてきたごとくわが国財政は危機的状況にある。 景気対策のためこれ以上の赤字国債の発行は許されない。 企業部門もデフレの深刻化が進む中で、戦後最悪の倒産状況が進行中である。 このため頼れるのは金融資産1400兆円といわれている家計部門だけである。 このような理由から個人所得税は課税強化が必至となろう。  前述の政府税制調査会は19日までに、基礎問題小委員会で個人所得課税の抜本的改革に向けた議論を一通り終えた。 大半の議論は所得税の各種控除の減額に重点を置いた見直し。 所得税率の引き下げには触れていない。 このままでは個人の負担増が先行する税制改革論議になりかねない、と報じられている。 

一方同じ日の新聞に厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会の年金部会が、今年から議論を始めた次の2004年の年金改革について報じている。 少子高齢化の進むわが国で将来の制度への不安が国民や企業にかってなく高まっており、国民年金は若い人を中心に対象者の20%弱が保険料を支払っていない。 また厚生年金も加入義務のある事業所の約2割が未加入状態である。とも書かれている。  国民や企業の間に広がっている年金不信を取り除くためには、制度を必ず維持するという約束と「小さな負担と給付」を目指した制度の再設計が必要とも書かれている。 これまでわが国の年金制度は将来の人口推計や、経済見通しが甘いため制度の見直しを行った後、またすぐ次の見直しを行わなければならないという、信頼性に欠けた展開が続いている。 そして見直しのつど保険料の負担は増え、給付は削減される。 これでは将来の年金制度に不安を抱かないほうが不思議である。 負担は際限なく拡大し、将来の給付は更に削減される。 年金加入者のほとんどが、多かれ少なかれ年金制度に不信感を抱いていることは間違いない。  これに歯止めをかけるのが保険料の負担を一定限度に抑え、保険料の負担増を軽減する。 その代わり将来の給付も削減する。という方向である。 この中にはすでに年金を受け取っている人の給付を減らすことも含まれている。

高齢者は年金の課税を強化され、将来の年金の給付をより以上に削減される。  年金生活者は現在の給付によって生活設計を立てている。  それが覆ることは容易ならざる事態である。

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