童話 「どんぐり博士」
  みつるは、クラスの皆からドングリ博士と呼ばれています。
それはみつるのお父さんが山が好きで、いつも一緒に山に行きドングリを集めたりしていた
からです。 ある日クラスに転校生が来ました。名前はつよしと言います。
つよしは山育ちで、どんぐりの好きなみつるとうまが合って、すぐ友達になりました。
 しかし一か月程してつよしが学校に来なくなりました。
みつるは心配して様子を見に、つよしの家に行きました。名前を呼んでも返事がありません。
玄関のドアには鍵がかかっていませんでした。
中に入ってみると、家具がなく、どうやら引っ越したようです。
みつるはがっかりして帰ろうとした時、天井から葉っぱが一枚、ひらひらと落ちて来ました。
葉っぱに何やら書いてあります。
 みつる君へぼくは、ドングリ山にいます。前にみつる君に助けてもらった事があります。
お礼をしたいので、ドングリ山へ来て下さい。お母さんと待っています。今夜は、九時にお蒲団に
入って下さい。つよし読み終えた、みつるは変な手紙にきょとんとしました。その夜は、夜更かしを
しないで九時に蒲団に入りました。つよしと遊んだことを思い出していると、だんだんと瞼が
重くなってきて、いつの間にか眠ってしまいました。
 気がつくと、みつるは山にいました。そばにつよしが立っています。みつるは、つよしの目を見て
「何も言わないで引っ越すなんて、ひどいよ。」と口をとがらせて言いました。目には涙が浮かんで
いましたつよしも「ごめん」とすまなさそうに頭をかいています。つよしの目にも涙がありました。
つよしは、「ここがぼくが育った、どんぐり山なんだよ」と言いました。
山のあちこちから小鳥のさえずりや小川のせせらぎが聞こえました。のどかで空気がおいしくて、
みつるは、大きく深呼吸をしました。ふと、そばの木の切り株が目に入りました。「あれ、ここは!」
と驚きました。
 半年前の事です。みつるがお父さんと、この山でどんぐりを拾っていた時、子熊に出くわした
のです。不思議なことに親熊の姿は、ありませんでした。お父さんが「冬の準備をするため
食べ物を探しているんだろう。」と言いました。
みつるは、袋一杯に集めた、どんぐりと残っていたお菓子をその切り株の上に置いて、お父さんと
静かに山を下りました。
 その時の子熊がつよしだったのかなあとみつるは、わくわくしながら、つよしの後について
山道を登って行きました。

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