草津市志那浜のコハクチョウ 第三報

―北帰行と直前の行動記録―

大津市  山本毅也  

 2月も中旬を過ぎるとコハクチョウはいよいよ北に帰る準備が始まる。今冬は東北、北陸地方の異常な大雪で、餌が充分に採れずに南下せざるをえず、琵琶湖岸全体では1月15日に例年の3倍弱の905羽を数えた。ここ草津志那浜でも1月12日に最高の140羽に達した。その後2月中旬までは80〜90で落ち着いていたが、徐々に減り始め、23日は34羽、24日13羽、28日に2羽となり、3月1日は終にゼロとなった。それでもその日には未だ近くの赤野井湾に2羽、野洲川河口に5羽が確認されている。

 2月中旬以後コハクチョウは日々数が減ってきているので、北への旅立ちが始まっているのは確かであるが、ねぐらの場所から直接飛び立つことも多く、これが確かな旅立ちの飛翔であるという現場に立ち会うのはなかなか難しい。2月24日天気が良かったので北帰行をねらって出かけた。6時31分最初の5羽が北から到着した。6時44分8羽のグループが同じく北から飛来し、いつもと異なる行動パターンを起し、結果的に9羽の北帰行へと繋がった。

2月24日の行動記録

 6:31:00   第1グループ5羽北方より飛来、旋回せずに直接着水(写真1)
 6:43:57    第2グループ8羽北方より飛来確認(写真2)
 6:44:39   真上を通過(写真3)

(写真1)

(写真2)

(写真3)

 6:44:49  真西(対岸比良山方向)を通過(写真4)
 6:44:55  着水準備(足出し)
 6:45:03  着水(写真5)
 6:45:17  うち7羽離水再旋回開始(写真6)

(写真4)

(写真5)

(写真6)

 6:45:55   真南通過
 6:46:05   真西を通過(写真7)
 6:46:24   真上を通過、2周目の旋回スタート(写真8)
 6:46:49   真西を通過(写真9)

(写真7)

(写真8)

(写真9)

 6:47:01   真上を通過、3周目の旋回スタート(写真10)
 6:47:16   真西を通過、オナガガモの群と交叉(写真11) 
 6:47:33   着水準備(足出し)
 6:47:54   着水(写真12)

(写真10)

(写真11)

(写真12)

 6:47:59 9羽が南方向に離水開始(写真13)
 6:54:29 上空高く真上を通過、北方に飛び去る:北帰行(写真14)
 8:01:21 志那浜湖面には4羽が残った。8時の給餌の際にも再確認(写真15)

(写真13)

(写真14)

(写真15)

観察経過

1. 2番目のグループ(8羽)は確認してから正面上空まで42秒、その後1周するのに24秒かかっている。従って前回(1月24日)の測定例と比較すると、直線距離は467m(前回600m)、旋回直径75m(前回80m)でほぼ同じ値になった。

2. 同グループが着水の14秒後に再び8羽のうち7羽が離水して湖面上を3回旋回した。旋回に要した時間は1周目67秒、2周目37秒、3周目53秒であった。1周目は離水のスタートダッシュに、又3周目は着水準備の足出しでブレーキをかけるため飛翔速度が極端に落ちるため、その分を考慮して計算すると、旋回直径はそれぞれ137m、131m、151mとなった。これは通常、他地域から飛来して1回旋回して着水する際の円弧の直径に比べて2倍近くの大きい円弧を描いたことになる。飛来して1回旋回して着水する場合の必要最小限の円弧直径は70〜80mということであろうか。

3. 3周旋回の後、着水して5秒後再び9羽が離水した。今回は旋回せずに真っ直ぐ南を向いて飛び去った。直前に3回旋回した7羽に加えて2羽が今回の離水に加わったことになる。

4. 9羽のグループは離水後約6分後に突然南方から再飛来し上空高く編隊を組んで北方向に飛び去った。飛行速度を時速60kmと仮定すると、往復6km、即ち志那浜の南3km付近まで南下し再び北上したことになる。志那浜から草津川河口までは約2km超あるからそこを超えてさらに約1km南下したことになる。もし草津川河口で一旦着水したのであれば、そこで休むこと無しに直ちに北に向けて再出発したであろう。それとも着水はせずに志那浜の場合と同様に河口上空を2,3周した後北上したのであろうか?

5. 早朝13羽飛来したコハクチョウのうち9羽が飛び立ち4羽が残った。その後8時の給餌の際にも4羽を確認している。4羽のなかに通称ファントムと呼ばれる雌の成鳥が残っていた(写真15)。首の中ほどにリング状の傷痕がくっきり残っていて、いつも仲間を追いかけ廻すやんちゃが目だっていた。

6. 翌2月25日のコハクチョウの飛来数は8羽とのことである。前日残った数より4羽増えているが、飛び去った9羽のうち4羽が舞い戻ったのか、それとも近くの赤野井湾や野洲川河口、或いは湖西あたりから移って来たものかは分からないが、多分後者であろう。3月1日には志那浜ではゼロになったが、赤野井湾で2羽、野洲川河口で5羽が確認されている。赤野井湾の2羽のうち1羽はファントムが志那浜から移ったとのことである。

考 察

今回北帰行に先立ち3周の旋回飛翔をしたがこれは志那浜の位置を脳裏のコンパスにセッティングするためであろうか? 次に北帰と真反対の南方向に約3km飛んだ後北上したのはなぜか? これも南湖に滞在中安全なねぐら、餌場として頻繁に利用した草津川河口の位置を来年のため脳裏のコンパスにしっかり刻むためであろうか?
 志那浜での3周の旋回飛翔に参加していないコハクチョウが少なくとも2羽が北帰行に加わっているが、彼らは通常グループ行動をとるため必ずしも全員がコンパスのセッティングをする必要は無いものと考えられる。

終わりに

 今回の探鳥に同行し協力いただいたMさん、Nさんといつも情報をいただいている草津湖岸コハクチョウを愛する会のYさんはじめ皆さんにお礼申し上げます。(山本毅也)

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