婁紀民と婁紀春

 婁紀民の連行について何を質問しても、婁紀春は、『覚えていない』『分からない』と言う。私たちの質問はそれで途絶えてしまう。  県城からも遠い片田舎で、連行された一人の貧農と、周りに残された貧農の生活。拉致されたということ以外、把握できないまま今日まできた。私たちは今まで多くの情報を持っている当事者を捜し、聞き取りをしてきた。しかし、実は、“婁紀民”の方が多かったのでないか!
今存在しない婁紀民の日本に来るまでの姿を、暮らしを、感じたことを、そして婁紀春のそれを、今度もう一度村へ行って、婁紀春から丁寧に聞き取りしようと思っている。今聞き留めなければ、一人の日本帝国主義の犠牲者、婁紀民が永遠に消えてしまう気がしてならない。
       (01年1月21日「大阪かわら版」第11号)