猫と鶫鳥

〜月の夜〜


夢を追い求め月に憧れる猫のシイと夢よりも現実的な鶫鳥のつぐみ

相反する一羽と一匹

それは微妙なバランスを保ちながら成り立っている

秋の風が吹き始めた頃のある綺麗な満月の晩のこと

「綺麗な月だな」

「そうだね。とっても大きな満月だ。」

どこまでもつづくススキの原で一羽と一匹は月をながめていた

今夜は見事な満月がそらに昇っている

雲ひとつ見えない空はお月見をするには格別な夜

「僕はいつかあの月へ行ってみたいな。」

「月にだって!?あんなに遠いところにあるのに無理だよ。」

「どうして無理なんだ?遠ければ近づけばいいじゃないか。」

「駄目、駄目。第一シイはあんなに高いところまで飛べないだろ?まあ、もし飛べたとしても途中で力尽きてしまうだろうけど。」

「飛べなくたって飛ぶ方法ぐらいあるさ。」

「どんな方法だい?」

「人が使う空飛ぶ機械さ。あれなら僕が飛べなくても大丈夫だし。途中で力尽きることも無いだろ?」

「無理だね。あれは飛行機といって空は飛べるけど月までいけないよ。せいぜい雲の上までだよ。」

「そうなのか。」

「だから、ね。シイ、あきらめなよ。」

「・・・・・。」

「月に行けなくたって、こうして眺めることが出来れば十分じゃないか?」

「・・わかっているさ。でも少しぐらい思ってみたっていいだろ?」

つぐみに次から次へと否定されてへこたれながらも、あきらめきれずにすねたように呟く

「勝手にすればいいよ。さて、そろそろ家に帰りましょう。」

「つぐみは先に帰ればいいよ。僕はもう少しここに残る。」

「なら先に帰らしてもらいますね。おやすみ、シイ。良い夜を。」

「おやすみ、つぐみ。また明日。」

つぐみは羽を広げると森の方に向かって飛び去っていった

残ったシイはしばらくの間大きな満月を飽きることなく眺めていた



その夜のこと

シイは月に降り立つ夢を見た

夢に出てくる月にはどこまでも続く草原と大きな森、そして湖があった

シイは考えた

ここにはどんな生き物がいるのだろう?

そして思った

月にも猫がいると良いな



さてさて

シイの夢には月に住む猫はいたのでしょうか


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