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植物のかたち作りと環境情報をつなぐ鍵:COP9 Signalosome (CSN)

cop9はCSN8の変異体
 生き物の生存はいかに「かたち作り」を制御するかに依存しています。特に高等植物は生育地を移動できないので、まわりの環境情報を利用して「かたち作り」を制御する多彩な仕組みをもっています(1, 2)。その仕組みの一つ、COP9 Signalosome (CSN)は、光形態形成を抑制するCOP/DET/FUS遺伝子群の解析過程で同定された8つのサブユニットにより構成される、核内タンパク質複合体です(3)。双子葉植物の「モデル植物」であるシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) のCSNを全く産生しない変異体は、暗所で形態形成が進行し、明所では子葉展開以後の茎頂分裂組織の形成が止まり致死となります(右図)。
 一方、CSNは真核生物に広く存在し、動物では細胞周期、器官形成、発生、ストレス応答など広範な現象に関わり(4)、動物での変異体もまた胚発生および発生初期過程で成長が停止して致死となります。これらのことからCSNが「環境情報」と「かたち作り」とを結ぶ重要な制御因子であると考えて僕らは研究を展開しています。
 CSNを構成するサブユニットはすべて、プロテアソームの19S制御複合体を構成するLid複合体の8つのサブユニットと一対一対応で相同性が認められます(左図)。一方CSNの機能の一つは、SCF型E3ライゲースのCullinサブユニットからRub1/NEDD8を脱修飾してライゲース活性を調節することにあることを明らかにしてきました。その結果CSNはユビキチン・プロテアソーム系のタンパク質分解調節を介して(5, 6)、植物では光や植物ホルモンなどの情報伝達経路を制御し、花や葉の器官形成や耐病性に不可欠であることが明らかになりました。近年、CSN1サブユニットに着目した生化学的解析から(4, 7)、これまでに知られていない、遺伝子転写後の発現調節機構がある可能性が見いだされました。ここでは、植物を用いて、生物の環境情報と形作りとを結ぶ新たな遺伝子発現調節メカニズムを解明するアプローチを紹介します。
 詳細なCSN1の機能解析の結果、C末端部位はCSN1サブユニットがCSN複合体に取り込まれる際に必須な領域であり、N末端部位(CSN1N)は強い遺伝子転写抑制機能をもつことが明らかになりました(4)。具体的にはCSN1Nがヒストンの脱アセチル化を介してc-fosプロモーターの転写を抑制すること、およびJNK1タンパク質の蓄積量の抑制を通じてcJunのリン酸化を抑制することが動物培養細胞で明らかになりました(右図)。
 この抑制は全く新規の制御であり、タンパク分解系を介さないことが強く示唆されたので、CSN1Nに直接結合する因子(NBP)群を動物より生化学的に単離しました(左図)。同定されたNBP群は遺伝子の発現調節に関わる因子群を含み、CSNが担う制御機構の解明に重要な手がかりを示しています。そこで、各NBPの詳細な解析をシロイヌナズナで行なっています。シロイヌナズナでは、全ゲノムシーケンス情報の解明、多岐に渡る変異体のリソース、多様な形質転換系の手法、などが確立されています。これらを活かして、形質転換体、変異体、逆遺伝学、生化学、などの手法を組み合わせて動物の系では容易にできない、個体レベルで解析を進めています。これまでに、NBP群の相同遺伝子がシロイヌナズナに存在することを確認し、その単離と変異体の解析を進めています。同時にCSNと各NBPとの相互作用部位の解析、その部位の変異タンパク質を作成しています。相互作用部位に変異が入ったタンパク質をNBP変異植物体で発現することで、各NBPの制御系を個別に解析することができます。今後、植物に固有な新規NBP群の単離、各NBPの制御メカニズムの詳細な解明を通じて、CSNがかたち作りに担う情報伝達系の新たな制御機構をどんどん解明していきたいと考えています。

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参考文献:
1- Tsuge T, Tsukaya H, Uchimiya H. (1996) Development 122: 1589-600.
2- Tsuge T, Inagaki N, Yoshizumi T, Shimada H, Kawamoto T, Matsuki R, Yamamoto N, Matsui M. (2001) Mol. Genet. Genomics, 265: 43-50 .
3- Wei N, Tsuge T, Dohmae N, Takio K, Matsui M, X. Deng XW. (1998) Curr. Biol., 8: 919-22.
4- Tsuge T, Matsui M, Wei N. (2001) J. Mol. Biol., 305: 1-9.
5- Lyapina S, Cope G, Shevchenko A, Serino G, Tsuge T, Zhou C, Wolf DA, Wei N, Schevchenko A, Deshaies RJ. (2001) Science, 292: 1382-85.
6- Yang X, Menon S, Lykke-Andersen K, Tsuge T, Xiao D, Wang X, Rodriguez-Suarez RJ, Zhang H, Wei N. (2002) Curr. Biol., 12: 667-72.
7- 柘植知彦 (2004) 植物の環境応答と形態形成のクロストークSpringer Verlag Tokyo, 163-9.

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