更年期障害とエストロゲンホルモン補充療法

1. 閉経(低エストロゲン)により誘起される症状
◎更年期障害
閉経前にエストロゲンが低下していくことにより、多くの女性で血管運動神経障害症状(のぼせ、ほてりなど)、不眠、憂鬱などの神経症状、肩こりや易疲労感などの多彩な不定愁訴がみられます。
◎ 骨粗鬆症
大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折は寝たきりの大きな原因、または生活の質を低める原因となります。女性では閉経前後より急激に骨塩量が減少し、50歳代後半より多くの女性で骨折危険域に入ってきます。これは、エストロゲンが骨代謝における骨吸収を抑制し、また骨の増殖を亢進させる作用を有しているからです。
◎ 泌尿生殖器系の症状
腟上皮はエストロゲンの影響を強く受けていますから、エストロゲンが低下すると、腟の萎縮、しっとり感の欠如、腟の自浄作用(腟内に雑菌が繁殖しないようにする仕組み)の低下が起こりやすく、腟の乾燥感、性交時痛、老人性腟炎などが出現しやすくなります。
また、エストロゲンは尿道内膜の肥厚、柔軟化に働き、また尿道抵抗を高める作用を有しています。そのため、高齢女性の尿失禁の一部には低エストロゲンが関与しているものと考えられています。
◎ 心血管系疾患
女性では、50歳代より心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などの動脈硬化性疾患が増加してきます(男性では、40歳代から)。検査の上でも、女性では、総コレステロール、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が閉経前2〜3年より増加し、60歳前で男性を抜き、高値を維持します。また閉経前でも両側卵巣摘出した女性では年齢に関係なく高コレステロール血症になりやすく、エストロゲンが低いことが高脂血症の危険因子であることがわかっています。

2. ホルモン補充療法とは
上記の低エストロゲンに基づく諸症状を女性ホルモン(エストロゲン)を補うことにより改善し生活の質を高めるものがホルモン補充療法です。エストロゲンはもともとは人間の体の中で(主に卵巣)作られているホルモンです。
◎ 骨粗鬆症に対して
骨粗鬆症に対する治療薬としては、現在、
カルシウム製剤
活性型ビタミンD3製剤
カルシトニン製剤
ビタミンK製剤
などが広く日本においては用いられています。しかし、高齢女性の骨粗鬆症の主たる原因はエストロゲンの低下による骨吸収の促進にありますから、エストロゲンを補充するホルモン補充療法が効果も確実でありますし、理にかなっているものと考えられます。
◎ 泌尿生殖器系に対して
腟の湿潤性の欠乏による性交時の疼痛に関しては、エストロゲンの補充により多くの症例で痛みがほとんど消失することがわかっています。また、尿失禁に対しては、骨盤底筋訓練法の運動療法が主体となり、尿失禁予防のための薬剤が用いられることが多いと思われます。しかし、運動療法にホルモン補充療法を併用することにより尿失禁の程度が早くから軽快することもわかっています。
◎ 心血管系疾患に対して
エストロゲンには総コレステロール、LDLコレステロールを低下させ、一方HDLコレステロールを増加させる作用を有することがわかっています。実際に臨床的にも多くの報告でホルモン補充療法が心血管系疾患の発症をおよそ50%程度減少させることが確認されています。

3. ホルモン補充療法の実際
◎ ホルモン補充療法に使われる薬剤
1. 結合型エストロゲン(プレマリン) 0.625mg/日
2. エストリオール(エストリール)2mg/日
3. エストラジオール貼布剤(エストラダームTTS)1〜2枚/2日
4. 酢酸メドロキシプロゲステロン(プロベラ、ヒスロン)連続投与法では2.5mg/日
逐次投与法では5〜10mg/日
◎ 投与方法
逐次投与法と連続投与法があります。
逐次投与法はエストロゲン製剤を21〜28日間投与し、後半の7〜14日間プロゲスチンを併用投与し、その後5〜7日間の休薬期間(通常この期間に月経用の出血を認める)を置き、再度繰り返す方法です。
連続投与法はエストロゲン製剤とプロゲスチン製剤を毎日休薬期間なく内服を継続する方法です。

◎ 実際の使用にあたっての禁忌
絶対的禁忌 エストロゲン依存性悪性腫瘍(乳癌、子宮内膜癌など)
重症肝機能障害
血栓性疾患
比較的禁忌 エストロゲン依存性良性腫瘍(主に子宮筋腫)
高血圧
糖尿病
注意を要す 胆石症
片頭痛
肥満
ヘビースモーカー

5. ホルモン補充療法の副作用
◎ エストロゲン依存性悪性腫瘍
◎ 性器出血
◎ 肝機能障害