犬を連れて散歩の帰り道、裏の家の前の田んぼの畦を歩いていると、その家のおじいさんが畑の土手に腰を下ろしているのが遠くに見えた。夕方近く、昼下がりのそのときは、靄のかかった秋の日の光が柔らかな、やさしい時間帯。
畑は冬に向かって全ての収穫を終え、寒々した土が見えている。
おじいさんはその畑で、何をするでもなく、手持ち無沙汰の状態で、静かに土手に座っていた。
ただ、ただ、座っていた。心持ちうなだれたようなそんな姿勢で。
おじいさんはずっと昔、その家に婿養子にやってきた。今は長男が跡を取っていた。
その家はおじいさんの義理の両親も含めての大家族であったのが、歳月が過ぎ、義理の両親は長生きはしたけど、相次いで亡くなり、数年前にはとうとう連れ合いのおばあさんも死んでしまった。そして息子夫婦と内孫4人の7人家族で暮らしている。
しかしおばあさんが亡くなってからは、おじいさんは皆と同じ家に暮らしているのに、息子夫婦たちとは食事は別に食べているとのウワサだった。
たった1軒のよろず屋に、おじいさんはインスタントラーメンや食パンをひとりで買いに来る。
好奇心旺盛なよろず屋のおばあさんが、おじいさんにズケズケと尋ね、おじいさんが愚痴半分にその理由を話すと、その話は半日もしないうちに尾鰭がついて村中に広まったのだった。
そしておじいさんはより一層孤独になった。
夕日を浴びて、畑でひとりじっとしているおじいさんの姿を見て、そんな話を思い出した。
休日の午後なのに、話す人もなく、家にも居られないのだろうか。
寂しい人は寂しい。
たとえたくさんの家族に囲まれていても。
あのおじいさんがただ、秋のうららかな陽射しを浴びて、昔を追憶しているだけであればいいのだが・・・。