クリスマスイブの夜

 
サンタクロースがプレゼントを持ってきてくれる、と母が言うので、わたしはその夜はなかなか寝つけなかった。

幼稚園年長組の年のクリスマスイブの夜のこと。

お菓子を詰めてもらう長靴下の用意は既に完璧に枕元になされている。

わたしと同じようにはしゃいでいた弟は眠ってしまった。

サンタクロースが来るのを布団の中でじーっと待っていたが、わたしもとうとう睡魔に負けてしまった。

しかし、夜中に目を醒ました。

枕元を見ると長靴下はお菓子で膨らんでおり、床の間の上に真新しいレコードプレーヤーとレコードが1枚置いてあった。

もう、サンタクロースは来て、帰ってしまったんだ・・・

わたしはゴソゴソ起き出して、レコードプレーヤーをしげしげと眺めた。

初めて手にするものだが、使い方は知っているぞ。確か、このレコードを円盤の上に置いてグルグル回ったところに、この針を置くんだ。そうしたら音が鳴るハズだ。

レコードはA面が「エリーゼのために」、B面が「乙女の祈り」のクラシックだった。わたしは一刻も早くそのレコードを聴いてみたかった。

どんな音楽なんだろう?よーし、セットしてやれ。

わたしはレコードをプレーヤーにセットした。
なぜか電源のことは考えられなかった。コンセントのことはどういうわけか頭になかった。

わたしはレコードを手で回した。

ぐるぐるぐるぐるぐる・・・

そして回っているレコードの上に針を落とした。
ギギッと鈍い、変な音がしてレコードは回転を止めた。もちろん音は出ない。
わたしは2度、3度とやってみたが何回やっても結果は同じである。しかもよく見るとレコードの表面に何本かキズがついている。

そのキズを見たとたん、わたしは嫌な気がした。何かとんでもないことをやったのではないだろうか?もう止めておこう。

そしてわたしはレコードをジャケットにしまい、注意深く、もとあった位置に戻した。そして再び布団にもぐり込んだ。

次の日の朝は、一世一代の大芝居である。

まずレコードプレーヤーを見て驚かねばならぬ。わたしは大袈裟によろこんだ。
わーい、すごい、すごい!うれしい〜!

母がプレーヤーにレコードをセットした。もちろん電源は入っている。手で回さずとも針を持ち上げただけでレコードは回転し始める。

なるほど、こうすれば勝手に回転するのか・・・手で回さなくてもいいんだな。

わたしは昨夜のことを思い出していた。

「エリーゼのために」が鳴り始めた。曲が始まるとブチッ、ブチッとやたら耳障りな雑音が・・・

あれっ?ひょっとしてこの雑音はわたしのせい?

昨夜の無茶のせいでレコードにキズがつき、この雑音となったのだった。
そのとき幼いわたしには原因がわからなかった。ただ自分のしでかしたことのせいであることは野生のカンでわかった。

「何かな?この音・・・」母も雑音に気付いたようだ。

・・・・・

まだ芝居は終らない・・・。それどころかこれからが佳境だ。

 

吟遊詩人夜話に戻る