高校生のころ、妙なおまじないが流行った。好きな人の名前を緑色のインクのペンで、フルネームで1万回書くと自分の想いが通じる、というものだ。
わたしはバカバカしいと鼻でせせら笑っていたが、友だちには当時、片思いの人がいて、せっせと名前を書きつづけた。
授業中ずっと、1万回書き終わるまで・・・
1万回書き終えたとき、友だちの片思いも終った。好きな人に彼女がいることがわかったのだ。
そして成績はカダ落ちしていた。
授業を全く聞かずに名前を書くことだけに専念していたのだから、当然と言えば当然の結果だろう。
親と先生にどうしてこんなに成績が下がったのか、原因を問い詰められても答えられるわけもない。
これを純愛といわずして何といおう。
そしてわたしは・・・
友だちの恋がもしうまくいったなら、わたしも同じことをするつもりで、密かに緑のペンとノートを買っていた。
純愛には、ほど遠い。