ジャージ

 
高校生のころ部活動で軟式テニスをしていたのだが、少ないお小遣いでは新しいジャージはなかなか買えるものではない。

お年玉を貯めてお正月明けにやっと、前からずっと欲しかった「オニヅカ」のジャージの上下を手に入れた。

黒地に深紅のラインの入ったカッコイイやつ。まだだれもこんな斬新なデザインのもの着てない・・・やったね!

あまりにもうれしくて部活動で使う前に家で部屋着として着てみた。似合ってる、自画自賛!

そのままコタツに入って本を読もうとしたのだが、コタツの中に、当時の飼い犬で柴犬の「バン」(♀)が既にもぐり込んでいた。

うわっ、犬のくせに〜!コタツが狭いんだよ、えーいっ!

バンを足でギュウギュウ押してコタツの端に追いやる。

バンもコタツの中では、一応遠慮してなすがままにされている。抵抗しない。

よし、これで少しは広くなった。そしてわたしはそのまま、本の世界に入ってしまった。

1時間ほどしてふと気付くと、ひざのあたりに犬が乗っかっているような感じ。

重い、足がしびれる。退いてくれよ〜バン!

コタツから足を出したら、なんと!わたしのオニヅカのジャージがっ!

わたしの!
新品の!!
オニヅカのジャージの!!!
左の膝小僧の部分に、直径5センチの大穴があいているではないか?!
まるでハサミで丸く切り取ったかのように?!

なぜこんなことに?!

あまりにもきれいに丸く穴があいていたので、どうしてこんなことになったのか理由がわからなかった。コタツの熱で溶けたのかとも思ったが、いくらなんでもそれほどの熱さならわかるだろう。

そのときバンがわたしの異様な状況を察知してコタツから出できた。出てきて口からビロ〜ンと黒い切れっぱしを出した。

・・・・・

なにもかもわかったよ・・・

バン、おまえは1時間かけてせっせと、わたしの新品のジャージのひざをギジギジと噛みつづけたんだね。芸術的といえるほど丸く・・・

泣くに泣けない状況。

新品のオニヅカジャージは部活動デビュー初日から、継ぎがあたってました。

結局、だれにも新しいジャージを自慢できなかった・・・

 

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