カレーライス

 
中学校最後の夏休み。

クラブ活動のテニス部で初めて夏合宿があった。

合宿といっても日程は1泊2日だし、泊まるところは学校の教室で、布団は体操マットタオルケット、風呂代わりに学校のプールというアバウトさだ。

わたしたち3年生は既に部活動を引退していたが、最初で最後の合宿経験ということで、炊事係として参加することになった。

ラッキー!炊事係に専念する方が絶対に楽しいに決ってる。

いくらテニスが好きでも、炎天下に部活を1日中、休みナシでしたいわけないやん。秋の試合に関係のない3年生は玉拾いをさせられるのがオチ。

しかもシャクにさわることは、わたしたちよりも2年生の方が強かったこと。

わたしたち3年生は6人、後輩たち1・2年生は総勢25人くらいいただろうか・・・6人で30人前以上の料理を作ることになる。

夕食のメニューは定番のカレーライスと決めていた。市販のカレールーを使うわけだから失敗のしようがないしね。

しかも当時のわたしたちは食べ盛り、絶対にみんな「お代わり」をするだろう、という推理の結果、50人前を作ることにした。

わたしたちは夕方から6人で家庭科教室にこもり、ダブルスのペアごとに3チームに分かれて調理を開始した。

どのチームのカレーが1番美味しくて、1番売れるか競争〜! とか言いながら始めたわけだが・・・

1チームの担当は約17人前だ。

17人前?一体どれほどの量やねん?全然想像できないなぁ。

そういうときこそ、箱の裏に書いてある作り方の分量を厳守し、それの何倍か計算するべきだったのだが、わたしもわたしとペアを組んでいたYも、分量を計ったりするのが嫌いだった。

それに何?ジャガイモ、中3個だって?

中ってどんな大きさや〜主観があるやろ、人によって違うやろ〜

しかも箱に書いてある通りに作ったのでは全然オリジナリティというものがない!そんなことでは他のチームに差をつけられないよ。

だから自分だちの才能を信じて適当にやろう、ということになった。

肉と野菜を炒め水を加えるときにも、わたしたち2人は「カレーは煮込むほどうまい」、とか叫びながら大量の水を投入した。

グツグツグツグツ・・・30分経過。

一向に煮汁の量は減る気配なし。それどころか野菜が煮崩れてきて、シャビシャビ感が更にアップしている。どーする?

グツグツグツグツ・・・1時間経過。

全く水の量は減ってない。野菜がドロドロにとけているから今更煮汁を捨てるわけにもいかない。
他のチームはカレールーを入れ始めたぞ、確かルーを入れてからも煮込むんじゃなかったっけ?

げげっ!出遅れてる!ピーンチ!

相談の結果、他のチームに比べてかなり水っぽいのだがわたしたちもルーを入れることにした。ルーを入れれば少しはドロッとするだろう。それに煮込むのはルーを入れてからでもいいハズだ。

きゃあぁぁぁぁ!全然変わらない!なんなのこれ。

これじゃカレースープじゃないの!

カレースープのくせに強火にできない。弱火にしていてもやたらかき混ぜていないと鍋底が焦げついてくる。

ああ、いつまでたってもドロドロしないよぉ。

他のチームのカレー鍋からはいい匂いが漂ってくる。夕食までの時間ももうあまりない、絶体絶命〜!

そうだ!たしかトロミをつけるのにお母さんが片栗粉を使っていたっけ?
カレーで入れているのは見たことないけど、この際背に腹はかえられん。片栗、片栗〜っ!片栗がないっ!あ、でも小麦粉がある、小麦粉でも同じだよね、だってカレールーってカレー粉と小麦粉で作るんだから。

投入〜!起死回生じゃあ。

しかし結果的にこの小麦粉の投入が、わたしたちのカレーの致命傷となってしまった。

小麦粉を水溶きせず、そのまま熱いカレースープの中に入れたため、小麦粉がダマダマになってしまったのだ。

アンビリーバブル!

その後の時間の全てをダマダマの小麦粉をお玉で潰すことに終始したが、万事休す。

ドロッとはなったけど小麦粉臭いカレー。

はっきり言ってまずい。どうやって作ったかわかっているわたしたちは食べる気がしない。

オリジナルカレーは後輩にやろう。なーに、部活を1日中やっていて、お腹が空いているに違いないんだから、わかりゃしないよ。

わたしたちは別の鍋のカレーを食べよう。

このカレーのことは2人だけの秘密だ。

 

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