時間が過ぎても、相変わらずみんな釣れていないようだった。
みいちゃんはその後もときどき糸を絡ませながらも黙々と釣っていたが、背中は不満を述べていた。
わたしは声をかけた・・・。
「他のところに移動します・・・か?」
「うん。」
これまで釣れないときは同じところであくまでも粘り続けるか、あっさり諦めて帰って釣り場のはしごをすることはなかったが、みいちゃんはアジのバカ釣りを夢見ていたから、この前にバカ釣りした加太の堤防の釣り場に行くことをにあっさり賛同した。
北港から加太までは近い。
道にも迷わずに加太に着いた。
近くの店屋でまたアミエビを買い、関所と言うにはあまりにもお粗末な料金徴収小屋には誰もいなかったので足早に通り過ぎ、突堤の釣り場はほぼ満員に近かったが、わずかな隙間にまたも割り込む。
・・・全然釣れない。
この前のあの感動的にバカ釣れしたところと同じ場所とは思えない。
海の中を覗き込むと、前回たくさんのアジが黒々と群れているのが見えていたが、今回はまるっきりだった。
みいちゃんの期待とはうらはらに、魚はさっぱり釣れなかった。
わたしはそれでもベラらしき魚を1匹釣った。

|
ベラか?
|
神様、どうかみいちゃんの竿に魚が引っかかりますように!!
隣で密かに念じていたが、とにかく魚がいないのだから、えらにもひれにも引っかかることもなく、時間だけが過ぎていった。
アサリが少なくなった頃、わたしの竿の先が折れてるのに気づいた。
さすがに安物の竿だ。
銀色に塗られていたから金属かと思っていたが、折れたところをよく見ると木だった。
錆びたらいけないと思って釣りに行った後、よく水洗いしていたけど、必要なかったね。
わたしはすっかりやる気が失せていまい、止めることにした。
みいちゃんはしばらく釣りを続けたが、全然釣れないのでついに諦めて、帰ることになった。
わたしは竿からリールを取り外して、竿は捨てた。
ふたりしてぶつぶつ文句を言いながらが突堤を入り口に向かって歩いていると、入り口近くの釣り人の竿がいやに上下している。
なんとアジが釣れているではないか!!
近くの人に聞いてみると、
「さっきからアジが湧いてきたんや〜。」と、おじさんはうれしそうだ。
「やりますか?わたしは竿もう捨ててしまったけど、前にバカ釣りは経験しているし、でもみいちゃんは今日もまだ全然釣ってないから〜。エビ、わたし買ってきますよ。」
みいちゃんはわたしができないので、自分ひとり釣りをするのは悪いと思ってためらっていた。しかし、すぐそばで湧いているアジを釣りまくっている人たちを見て、誘惑に勝てなかった。
みいちゃんが竿をセッティングしている間に、わたしはアミエビを買いに行った。
その後みいちゃんはバカ釣りと言うほどではなかったが、それでもアジを10匹くらい釣った。
みいちゃんはヘンな魚も釣り上げた。小さなオレンジ色の魚である。

|
謎の魚
|
みいちゃんが釣り上げたアジは例によってわたしが針をはずしていたが、みいちゃんが、
「さっきエビを買いに行ってくれているときも、このヘンな魚釣れてん。○○ちゃん(わたし)がいなかったから、怖いからはさみで糸を切ったんよ。隣のおじさんもこれと似たような魚釣って、糸を切ってた。触らない方がいいんちゃう??」
と言うので、わたしは笑いながら、
「え〜?糸ばかり切っていたら、いくらサビキでも針が無くなってしまうわ。魚には触らないようにこの棒で押さえて(割り箸の片方が落ちていた。)針を持って外すようにしますよ。」
3センチくらいの小さなオレンジの魚は運命を受け入れたかのように、箸で押さえつけられてジッとしていた。
針を外そうとしたその瞬間、魚はいきなり元気に飛び跳ね、しかもあらゆるひれを広げまくり、わたしの人差し指に激痛がぁぁぁぁ!!
激痛だけじゃない、血がどばーーーーーっ!!
田舎者のわたしは、この指の痛みが、ただの怪我だけの痛みではないことを本能的に悟った。
あわてて血を絞り出し、バケツの海水で手を洗った。
濡れタオルで拭いては海水で洗うことを繰り返し、そのうち出血は止まったが、指の痛みは変わらない。なんだか熱をもって腫れてきているようだ。
「毒魚やった・・・。むかつく。」
初めからそうすればよかったが、糸を切って魚を日干しの刑に処した。
みいちゃんは、「大丈夫〜??」
わたしの出血した指を見てかなりビビッていたが、それでも
「○○ちゃん(わたし)がいなかったとき、この魚釣って触らんと糸を切ってよかった〜。」と自分の無事を喜んでいた。
君子危うきに近寄らず。
みいちゃんはこのことわざを忠実に実践している人だ。
それなのにわたしときたら、何でも、好奇心旺盛というか、チャレンジ精神に富んでいるというか、そういえば聞こえは良いが、いつかこの性格が自分の身を危うくするかもしれない。
3時くらいになり、お昼ご飯も食べずに釣りを続けていたのでそろそろ体力の限界に近づいていた。
みいちゃんもとにかく何匹か魚を釣ったので気が済み、帰ることになった。
みいちゃんはクーラーボックスを持ってきていたが、結局釣った魚は人にやった。
帰途、「いろいろ持ってきたけど、あんまり要らなかったな〜」とみいちゃんは言い、
「実はわたし、着替えとかも一式持ってきた。」
まさかと思ったが冗談で
「一式ってパンツとかも〜??」と訊くと、真顔で
「うん。」
海に落ちたときの用意です。