薬局のおばちゃん

以前、クスリ屋さんでパートをしていたことがある。調剤はなく、日用雑貨を店の前に山盛り並べて、ポップと呼ばれる派手に商品名と値段を記した札をはりめぐらした店で、京都では結構有名なチェーン店の、とある支店だ。

毎朝、出勤するとシャッターを開けて、通路いっぱいにしまい込んだ商品を店先にずるずるひっぱりだして並べ、ポップをつける。よれよれになったポップは書き直して付け直し、減っている商品は在庫を補充する。もちろん古いものを前に並べ、後ろの方に新しいものを並べる。ポップ書きは楽しいのだけれど、これは結構センスがいるし、字が上手な人、絵がうまい人が断然カッコいいポップが書ける。私は楽しんで書いていたけどあんまり上手には書けなかった。

トイレットペーパーや箱ティッシュは段ボール箱に入ったまま並べるのだが、かさは高いし、重たいしなかなか大変だ。トイレットペーパー同様、雑貨の納品は大抵段ボール箱(ケースと呼んでいたナ)ごと来るので、カッターでスパスパと体裁よくカットし並べていく。ぶ厚い段ボールもあるので、カッターはかなりごつい黄色いやつだ。刃物が苦手だった私も、このおかげで段ボールをカッターで切るのはずいぶん上手になった。

そんなこんなで品出しが終われば、後は、はたきをかけたりほうきをかけたり一通り掃除をして、後は来客を待つのである。

このチェーン店ではノルマというほどのことはないのだが、特定のいくつかの商品について目標売り上げを定め、毎月の売り上げがパートも含め個人別に順位をつけられて発表される。売った個数を正の字を書いていってチェックし、本社に報告するのだ。年間を通じて優秀な成績をあげるとたいそうなご褒美がいただけるらしいのだが、私は全然関係無いところにいたのでそれがどんなご褒美か知らない。毎月毎月いつも同じ人が1番だったけど、その売り上げが2番以下をぶっちぎって途方も無い数字なのだ。長年いるパートさんだと聞いたけど、いったいどうやったらあんなに売れるんだろう?

パートは成績が悪くても別に止めさせられることもなかったけれど、正社員の人たちは、成績が悪いと格下げになって給料も減るらしく、自腹で店の商品を買ってたなー。なんかかわいそ。しかも、何箱もビタミン剤買っても、そんなに消費できるわけも無く、「どうぞ持ってかえって下さい」と言うので私も時折いただいたものだ。売り口上の指導なんかもあったけど、どうも私はお客さんをだましているようでうまく売り込めずにいた。なんというか、確かに嘘じゃないかもしれないけどなーんか暗示にかけるかのようにして買う気にさせるんだなー、ベテランは。暗示にかかってホントに薬が効けばお客さんにとってもうれしいことだし、それはそれで構わないのだけど、自分で本当に効果を実感してもいないものを売りつけるのは気が引けてどうしても上手に売れなかった。

まあ、店にとってはあまり良い店員では無かったわけだが、その正直な(?)感じが受けたのか、おじいちゃんおばあちゃんにはなかなか人気者であった。毎朝、必ず用も無いのにやってきて「おはようございます」とあいさつだけしていくおばあちゃんや、来る前に電話をしてきて私が出勤しているかどうかを確認してからやってくるおじいちゃんもいた。あるおばあちゃんの応対をしているときに別のおばあちゃんがやってきて、他の店員さんがいるにもかかわらず「私の好きな人あの人ですから」と私の手が空くのを待っていると、先のおばあちゃんが「私もこの人好きですねん」と負けじと言ったりして、二人のおばあちゃんに「好き」と告白されてうれしいようなはずかしいようなこともあった。一度支店を変わった(一応転勤?)のだけれど、私を追いかけて馴染みの店をかえたおじいちゃんもいた。でも、そんなおじいちゃんやおばあちゃんはたいした買い物はしないので私の売りあげ成績には全然影響しなかったけど..........。

下の子を産む1ヶ月前くらいまで勤めて止めたのだけれど、もうそれから3年半たつ。「赤ちゃん産んだら又戻ってきてくださいよ」と言われつつ、出産後は今の仕事をはじめてしまい、店に顔を出すことも無く月日が経ってしまった。あのおじいちゃんおばあちゃんたちは、元気にしておられるのだろうか?私と入れ替わりにパートに入った方がとても良い人だったので、あのお年寄りたちを大事にしてくださっているかもしれない。今度久しぶりにあの店をたずねてみようかな。

(1999.3.28)

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