ちびヤドカリの悲劇
(先に「ヤドカリの話」を読んでね)

その悲劇が発覚したのはある晴れた晩秋の土曜日のお昼過ぎだった。
良いお天気なのでヤドカリハウスのお掃除でもしようと思い立ち、住人を非難させるために取り出そうとしたときだった。

ちびヤドのパルシェンがおとといの夜にのぞいたときと全く同じ格好でサザエの殻に入り込んでいた。

そのサザエは大きい方のシェルダーの宿替え用になるかも知れないと思い入れていたもので、パルシェンにはまだまだ大きすぎてパルシェンの殻ごとサザエの中に入ってしまえるのだった。それでもなぜかパルシェンはサザエの殻が大好きでよく上にのぼったり、貝ごと中にはいって遊んだりしていた。

パルシェンの貝殻はもう小さくなってきているようで、そろそろつぎの宿をみつけようとしているように見えた。サザエを入れたときには無謀にも引越しを試みて小さい殻から抜け出しごそごそしていたこともあるが大きさに無理があると悟ったらしく、また小さい殻にもどった。そして、サザエに宿替えするのはあきらめたけれどじゃれつくようになったのだ。いつかこれに住むんだ!と心に決めていたようだ(ホントかどうか確かめる術はなかったが.......)

悲劇の発覚する前の前の晩、いつもならおしりからサザエに入って遊んでいる(2重のヤド状態)パルシェンが、その時は頭からつっこんで、小さい殻のとんがりがこちらをむいていた。いつもと違うなーとは思ったものの、まあ、そういうこともあって不思議はないのでそのままにしておいた。
その翌日見たときもまだそのままだったけど、秋も深まってだいぶん寒くなってきてからは動きも鈍くなってじっとしていることが多かったので、サザエの中が暖かいのかなーと思ったくらいで、まだそのまま放っておいたのだった。

しかし、さすがにその次の日も同じ状態というのは変だ。いやーな感じがした。サザエを持ち上げてひっくり返した。パルシェンは落ちてこない。あれっと思って何度かかなりきつく振ってみるところんと転がり出たのは冷たくなった(もともと冷たい?!)パルシェンだった。もう殻の中で足をふんばっていないので体が殻からほとんど抜け落ちそうになっていた。どう見ても死んでいる。サザエの殻にひっかかって出られなかったのだろうか?それならあまりにもかわいそうすぎる。

なんか胸がきゅーんとなった。ブルーのきれいなからだのシェルダーにくらべ地味なベージュで殻も欠けて汚いベージュだったパルシェン。宿替えしたいのに私がちゃんと準備してあげなかったからできなかった。あこがれのサザエの殻にいつか引っ越すことを夢見ながら殻のまま入って出られなくなって死んでしまったなんて!

ほんとは単に寒さに絶えられず死んだのかもしれない。体が大きくなったのに引越しする貝殻がなくて死んだのかもしれない。

でも、いずれにしても悪いのは飼い主の私だ。まだ、部屋の中はそれほど寒くないからと防寒対策を怠っていたし、適当な貝殻を準備してやらなかった。
サザエのからも入れておく必要は無かったのだ。

かわいそうなちびヤド、ごめんね。
花壇で安らかに眠ってください。

ひとりぼっちになったシェルダーもこころなしかさみしそうだ。
あわてて買った小さいパネルヒーターが仲間を失ったシェルダーの心を暖めてくれるだろうか。(果たしてひとりぼっちになったって気付いているのか?)

(1998.11.14)


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