意図的に「修業の場」を設定する
森川正彦(法則化中学太子サークル)
「TOSS授業ライセンスD表」の評価項目に「子どもへの目線」がある。これにより「目線」を強く意識するようになった。
他人の授業を見るときにも「教師の目線はどうか?」という観点で見るようになった。以下に3つの例をあげる。
1.ベテランの教師の授業
以前、複数指導の「T2」として、ベテランの先生とペアを組み、同室で指導をしていた。
ある日急な用事があり、3分ほど教室に行くのが遅れた。授業の邪魔にならないように、静かに後の扉から教室に入った。
後の方の生徒は、教科書で隠しながら学級文庫の本を読んでいた。ある生徒はノートに絵を描いて遊んでいた。
教師は何をしているのか見ると、黒板に何か書きながら説明をしている。黒板に向かっている時はもちろん、こちらを向いた時も視線はおちている。おそらく教室の前半分しか見えていないようである。
この先生はまもなく定年を迎える。
とても誠実な教師である。長期休業中には低学力の生徒を学校へ呼んで、補習を熱心に行っている。しかし一年間、通常の授業を「T2」として見た限り「何人もの生徒を落ちこぼしている授業である」という感想を持った。
学校の中で「ベテラン」とよばれる経験を持った教師でも、授業について学ぶ機会がなければ、授業の腕は「アマチュア」のままである。
2.若い教師の授業
小学校の授業を参観した時のことである。担任は若い女の教師だった。
この教師が指示を出す。何人かの子どもが反応する。
「○○さん、早い。えらいです」
できた子を確認してほめる。
一見いい授業のように見える。
しかし、子どもはのってこない。だんだん授業のリズム・テンポが悪くなる。
この熱心な若い教師は、クラスの大多数の保護者から反発を受けたと聞いた。
理由を考えた。
この教師は、早い子は見ているが、
「今まさにやろうとしている子」「指示が分からなくて困っている子」
が全く見えていないのだ。
「○○さん、早い」と言うのは「早い子をほめることで、遅い子を叱らずに動かす」という技術である。早い子をほめつつ、今あわててやろうとしている子どもにも目線を配り、分からなくて困っている子どもにも、さりげなくフォローを入れなければならない。
ここが「見えていない」「見ようともしない」この教師は、何人もの子どもを授業から落ちこぼし、フォローもしないまま「できる子」だけを相手に授業を進めている。その冷たさが授業を崩し、保護者の信頼を失う原因となったのだと推察した。
3.自分の授業
技術の授業でロボットの製作に取り組んでいる。各自が製作したロボットを使って、競技会を行った。
待っている生徒は、予備のコートで練習したり、具合の悪い部分を調整している。
授業自体は盛り上がった。
しかし、生徒が帰った後の技術室を掃除していると、机の天板にねじが刺さっているのを発見した。
その席に誰がいたのかも思い出せない。いつそういった動きがあったのかも見えていない。
技術室の空間を把握できていない自分に愕然とした。
これまでもそんなことがあった。特に実習中に個別指導をしている時に、死角を作ってしまう。(現場を見つけられていないので、いつかなのかは、はっきりと分からない)
「必要ない工具は渡さない」ようにするなど、システムの面で対応しようとしていたが、それと同時に、もっともっと生徒の動きを把握できるような力量を身につけなければならない。
4.意図的な修業の場をつくる
向山洋一氏はこう書かれる。
サッカーが好きで、毎日ボールをけっていたとしよう。それを20年続けたら、プロの域に達するだろうか。(中略)授業が好きで、毎日授業をしていたとしよう。20年それだけを続けてプロの域に達するだろうか。 【教室ツーウェイ(No.323)p.9】│
プロの修業は、きちんとした方法で修業しないと身につかない。 【同書 p.11】
多忙な毎日の中で、楽な方へ流されてしまわないように、教師修業も意図的・計画的に行わなければならない。
@サークルで模擬授業をする。
A授業をビデオに撮ってチェックする。
B今年同室指導で入っている先生(T2)に チェックしてもらう。
今年はこの3点を中心に、私は教師修業を積み重ねていく。