地 理 学 geography


地理学(geography)という語は、ギリシャ時代にアレキサンドリアのエラトステネス(B.C.285〜 B.C.205)が初めて使った geographia (geo は "earth" 、graphia は "to write" の意味)に 起源するヨーロッパ語に由来するといわれている。

 その当時の地理学は、地球の形状や大きさを探求すると共に、地表上に存在する各種の事象を取り 扱う学問とされていた。このうち地球の形状や大きさに関する研究は後に地理学から離れて測地学な いしは地球物理学の中で研究されるようになったので、地理学は地表上に存在する各種の事象を取り 扱う学問であると限定されるに至った。
 地表上に存在する各種の事象は、自然に関するものと人間に関することがらとに二大別することが できる。現在の自然地理学人文地理学は、このようにしてギリシャ時代からその萌芽を蔵していた といえる。しかし、当時はそれらの事象に関する where , what についての単なる記述にすぎず、 why という疑問についての考察はほとんどなされなかった。ルネッサンス期を経て、漸く地理学は科 学的に取り扱われるようになった。
 地理学の二大部門
 現在、地理学は地誌学 regional geogr. と系統地理学 systematic geogr. とに二大別され る。地誌学を地域地理学・地方地理学と称する場合もあるが、これはいずれも regional geog. の 訳語である。17世紀の B.Varenius(1622〜1650)は、これを Speziale Geography と称したが、 この特殊ということばの意味は、特定の地域ということであった。
 系統地理学は B.Varenius が geographia generalis (general geogr.) と称したもので、 日本ではこれを直訳して一般地理学と呼んだ人が多かった。学者によっては、地理学概論、または 地理学通論と呼んでいた。systematic geogr. という語は1905年にイギリスの A.J.Herbertson (1865〜1915)が初めて使ったものであるが、現在では英語使用国ではこの語を使う場合が多い。
 地誌学
 地誌学は特定地域における地域的性格(地域性 regional characteristics) を総合的に究明す る目的をもち、その地域の広狭にはかかわらない。科学としての地誌学の成立は19世紀以降のことで、 単に各地域の地理的状況を記述するだけであった古い時代の地誌は、日本でも中国でも西洋でも古代 から行われ、各時代において政治・行政や軍事に役立たせる目的で各地域の地誌書が編纂された。
 系統地理学
 系統地理学は自然地理学と人文地理学とに二大別される。
A.自然地理学 地球表面における自然現象を地域的な観点から究明する分野。地表の起伏形態等を 研究対象とする地形学 geomorphology,地表上の気象状態を地域的に研究する気候学 climatology, 地表上における生物の分布状態を研究対象とする生物地理学 biogeography、河川学、湖沼学、地下 水学を包括する陸水学 terraquatic scienceなどがある。
B.人文地理学 自然と人間の関係からあらゆる人文現象の地域的分布とその位置関係を地域に即し て研究する分野。人文地理学に属する地理学部門としては、経済事象の地理的配置を説明し、経済地 域の成立・構造・機能等を究明する経済地理学 economic g.,がある。これは、第一次産業と目され る農業・林業・水産業、第二次産業と考えられている鉱工業、第三次産業とされている商業・交通・ 通信のそれぞれにおいて各分野が成立している。さらに、社会地理学 social g.,の分野に集落地理 学・都市地理学・人口地理学がある。  

「地理学の諸分野とその体系」(青野壽郎,1974)による

青野壽郎(1974):地理学の諸分野とその体系化、『立正大学文学部論叢』、No.50、pp.1〜16、から一部抜粋

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