狐会(こんかい)

一 痛はしや母上は、花の姿に引きかへて、しおるる露の床の内、
  智恵の鏡もかき曇る、法師にまみえ給ひつつ。
  母を招けば後見返うしろみかえりて、さらばといはぬばりにて、
  泣くより外のことぞなき。野越え山こえ里打ち過ぎて、
  来るは誰ゆゑそさまゆゑ、誰ゆゑ来るは、来るは誰ゆゑそさま故。

二 君恋し、寝ても覚めてもな、わすられぬ、わが思ひ、わが思ひ、
  それをもみれば、春の花散りて秋の紅葉も色づく、
  世の中は電光石火の夢のうち、捨てて願ひをさ、捨てて願ひをさ、
  なむあみだぶつ、なむあみだ。

三 君は帰るか恨めしや。いのうやれ、わが住む森に帰らん、
  勇みに勇みて帰らん、わが思ふわが思ふ、心の内は白菊。
  岩隠れ蔦隠つたがくれ、篠の細道かき分け行けば、虫の声々面白や。
  降りそむるやれ、降りそむる降りそむる、今朝だにも今朝だにも、
  處は跡もなかりけり。西は田のあぜ危ないさ。
  谷峯しどろに越えゆく。あの山越えてこの山越えて、
  こがれ焦るる憂き思ひ。

解説
[調弦]
三絃:三下り
箏:平調子

[作曲]
岸野次郎三
箏手付け:市浦検校・浦崎検校
     宮城道雄・富崎春昇など

[作詞]
多門庄左衛門
[他]
三下り端唄、芝居歌物。
母の病気を治すために招いた法師が、実は母親に恋慕する狐の化けたものであったために追い払うといった内容。地域によって詞章の構成に異同がある。
2と3の間奏を「南無阿弥陀仏の合の手」と称して夜中に三遍弾くと狐が現れると言う伝説がある。