虫嫌い

 この時期湿気と共に鬱陶しいのは虫であります。洗車場などでバイトしてマスと、
やってくる殆どの車のフロント部分に虫の死骸が。虫はへばりつく車を選びません。
パキンパキンのギャル車やファミリーBOX車、小粋なミニクーパーにも容赦なく、
それは自らの生の痕跡を現世に示すようにへばりつきます。大の大人が本気になって
コスらないと落ちないトハ。ゲニ恐ろしきかな虫の執念。見習いたいものです。

 しかし僕は虫が苦手です。生死を問わず。僕の友人など地元の祭りで売りさばく為
に、夏の盛りに山に入ってクワガタを乱獲しておるんですが。とても正気の沙汰とは
思えません。・・・だって蛾ァおるやんけ。

 僕も幼少の頃は虫たちと仲良くふれあうメルヘンな時を過ごしました。蟻の触角を
一本むしり延々と円を描くように歩き回るソイツを眺めたり、螳螂を打ち据えてケツ
から出てくる寄生虫みたいなモノを眺めたり―主に視姦メインのサディスティックな
ふれあいでしたが―まあそうやって生と死について学ぶごく一般的な子供だったので
す。
 ところが。中学生の頃だったか、僕はある晩夢を見ました。何もない世界。そこに
一辺が1メートル程の立方体があり、その上に僕は立っていました。そこでそうして
いるのが当然かのように僕はただ立ち続けていました。すると突然。その立方体の上
の面、つまり僕が立っているフタの部分がパカッと開きました。やはりというか当然
というか、夢の中でも重力は働いているようで、僕はあっさり垂直落下したのです。
ハコの中には何万匹もの蛾・蛾・蛾。黄色い蛾、白い蛾、茶色の蛾。飛び立つ蛾もい
ればそうでない蛾も。僕は幾重にも重なった蛾を裸足で踏み潰してゆきました。鱗粉
が目、鼻、耳、口全てを覆いつくし、足元ではあのフサフサの毛や飛び出た体液が指
にからみつくような、もう本当にリアルな感触が僕を襲い、中学生の僕は叫び声をあ
げて飛び起きました。体中吹き出る汗。鳥肌、悪寒。
aaaaaaaaaaアンチモスラ派
 その日から 虫嫌い の僕です。

→モドル