わたしがAnneと出会ったのは中学1年生の時。初めての文庫本で、ちょっとオトナ気分でページを開いたことを覚えています。村岡花子さん訳、新潮文庫でした。
まだお下げ髪だった頃。友だちに誘われて教会の日曜学校に通い始め、教会の雰囲気にあこがれていた頃。わたしにとってAnneは、そんな新しい世界の扉を開いてくれる存在でした。ティー・パーティやピクニック。まるで、夢の世界のようでした。
読み始めてすぐ、わたしはAnneに魅了されました。『赤毛のアン』を読み終わってすぐ『アンの青春』『アンの愛情』『アンの夢の家』『炉辺荘のアン』『虹の谷のアン』そして『アンの娘リラ』。本編以外の『アンの友達』『アンをめぐる人々』も一気に読みました。家の近所の本屋さんに置いていないときは、梅田の紀伊國屋書店や阪急百貨店まで電車で探しに行きました。
アン・シリーズを読破した後は、『かわいいエミリー』『エミリーはのぼる』『エミリーの求めるもの』。Anneとは違っていたけれど、お話を書いたり読んだりが何よりも好きだったわたしには、エミリーはAnneよりも身近に感じられる存在でした。
続いて『パットお嬢さん』。これも村岡花子さん訳、新潮文庫で読みました。そのころのわたしは何にでも批判の目を向け始めた生意気な高校生でしたが、頑固なほど古風なパットに、なぜか自分に近いものを感じていました。
いつの間にかわたしは、お下げ髪の中学生ではなく、家族に反発し、社会が悪いのだといっぱしの批判家気取りの大学生でした。Anneなんて、結局家庭の主婦におさまってしまったじゃない。女は家庭に入ればいいってことなの? あんなに大好きだったAnneは、わたしの中では「つまらない女」になってしまっていました。
再び、Anneを手に取ったのは、いつだったのでしょう? 結婚した頃だったか、慣れない育児に一人で悩んでいたときだったか。結婚が夢物語ではなく、より複雑な人間関係の中でのしがらみだと気づいたころだったのか。夢の家で暮らすAnne、子どもたちに囲まれて忙しい日々を送るAnneが、人生の先輩のように思えてきました。そして、夢を捨てずに書いていたエミリーも、再びわたしに呼びかけてくれました。
読むこと、書くことが好きだったから、もしかしたらわたしにもできるかもしれない。そんな気持ちで翻訳の勉強を始めました。そして、勉強のために原書を読まなくては、と思ったとき、わたしは迷わずAnneを選びました。Anne
of Green
Gables、これが、わたしが初めて読了したペーパーバックとなりました。 村岡さんの訳は中学生の時から数え切れないほど読み返していたので、細部まで記憶に残っていました。だから、話の筋は覚えていました。だけど……読後になぜか、ちょっと違うという感じがしました。あれ、こんなこと、書いてなかった気がするけど……ここ、何か違う気がする……。全体的にちょっと違うのです。
村岡さん訳のAnneは、まるで赤白のギンガムチェックのように元気な女の子のお話。だけど、原書は金襴緞子のような、重厚な感じでした。でも、その時には、わたしの読解力が足りないせいだと思い、ちょっぴり落ち込んでしまいました。
『赤毛のアン』についての松本侑子さんの本が出たのはその後のこと。『「赤毛のアン」の翻訳物語』を読んで、原書を読んだときのわたしの感覚は間違っていなかったことを知ったときは、驚きました。それからわたしは、以前とは違った眼でAnneを見るようになりました。
明るく元気なだけではなく、Anneのこころの奥深いところまで知りたい。それはまた、作者であるモンゴメリへの関心にもつながっていきました。梶原由佳さんの『「赤毛のアン」を書きたくなかったモンゴメリ』を本屋さんで見て買って帰り、一気に読みました。牧師夫人という立場で、家庭の苦労をかかえながらAnneを書いていたモンゴメリ。そこには、妻として、母として苦しみながらも書き続けた一人の作家の姿がありました。
ともすれば少女小説家としか受け取られていないモンゴメリですが、その人間観察の細かさ、心理描写の巧みさは、アン、エミリー、パットのシリーズでも十分に発揮されています。
わたしはまだ、シリーズもの以外のモンゴメリはほとんど読んでいません。今、ちょうどいい機会が与えられましたので、これから少しずつ読んでいきたいと思っています。まずは、『青い城』から読んでみようかな、と思っています。
追記 "THE BLUE
CASTLE"(『青い城』)は、大人が楽しめる良質のロマンスです。オススメです♪
2003.6.13
追記2 "THE STORY
GIRL" は最も自伝的色彩が強く、モンゴメリ自身最も気に入っていたと言われています。続編 "THE GOLDEN
ROAD"とともに、ぜひ読んでいただきたい本です。 2006.5.31
モンゴメリの本を読んだ感想はこちらから。L.M.Montgomeryの欄に並べてあります。
|