<地域密着と阪神タイガース>


*企業チームとクラブチーム

矛盾しているようだが、日本中にある全てのスポーツチームの中で、
最も「地域密着」を果たしているチームは、
間違いなく「阪神タイガース」である。

関西人にとって、阪神タイガース(以下、タイガース)は「≧」の存在だ。
人生の中で、非常に大きなウェイトを占めている。
球場は常に大入り満員。
飲み屋に行けば、皆がタイガースの話題で盛り上がる。
子供達のヒーローは、タイガースの選手。
マスコミは、タイガースのことばかりを大々的に持ち上げ、
事実、その話さえしていれば視聴率が取れる。
さらに、チームが優勝すれば、関西の景気すら回復する。
まさに、タイガースの存在が、人々の生活の一部と化しているのが現状だ。
それが最も明確に表出するのは、関東の敵=読売ジャイアンツと戦う時であろう。
この時、阪神タイガースは関西の代表として、
自分達の気持ちの代弁者として、憎き関東と戦ってくれる。
これが、本来の地域密着のあるべき姿であり、
Jリーグチームの最終的な目標とする形だ。

ただ、残念なことに、阪神タイガースは企業チームである。
阪神グループという一企業の持ち物に過ぎない。
関西数千万人の生活に密着している半公共物を、
ただの鉄道会社が管理しているという現実。
この大いなる矛盾が、関西で新たなプロスポーツチームを作ろうとした際、
様々な弊害を及ぼす原因になる。
言い換えると、関西にはクラブチームの生まれる素地がないということだ。

*チームの所有者

企業チームとクラブチームの一番の違いは、所有者は誰かという点だ。
企業チームの持ち主は、当然、その企業であり株主である。
一方、クラブチームの持ち主は、その街に暮らす市民、
つまり、自分自身(サポーター)である。
もちろん、これは概念的な理想論であるが、
このお題目を掲げるか否かで中身が大きく違ってくる。
一言で言うと、ファンがチームに対して、
受動的であるか能動的であるかの差異だ。

私事ながら、自分の両親は数十年来の阪神ファンである。
と言っても、球場まで応援しに行くでもなく、食事をしながらテレビで観戦する程度。
それでも、年がら年中、タイガースの話ばかりしているし、
テレビで特集されれば必ず齧り付く。
ただ、面白いことに、試合で少しでも相手チームにリードされると、
すぐにチャンネルを変えてしまう。
(曰く「飯がまずくなる」)
そして、試合中にも係わらず、監督やフロントの批判を公然と口にする。
成績が悪ければファンをやめ、成績が持ち直すとまた戻ってくる。

もし、これが自分の所有するチームの話だったとしたら、
このようないい加減なスタンスの応援ができるだろうか。
そのチームが負けるということは、自分自身が負けることに等しい。
当然、最後の最後まで死ぬ気で応援するだろう。
勝てば喜び、負ければ泣く。
自分の想いは、直接、スタジアムで選手・監督・フロントに伝えるだろう。
さらに、企業の論理により、不当に選手が解雇されたり、
本拠地の移転問題が上がったりすれば、
文字通り、身を削るような想いでそれを阻止するはずだ。
だが、企業チームではそれはできない。
なぜなら、そのチームは、あくまで他人の私物に過ぎないのだから。

これが、受動的応援と能動的応援の違いである。
分かりやすく言うと、他人の子供と自分の子供の違いと言えよう。
他人の子供は見捨てられても、自分の子供を見捨てることはできない。
全身全霊を懸けて、愛し、慈しみ、育てようとするだろう。
また、自分の子供がどこか誤った方向に進もうとしたら、
その子の将来のために、烈火の如く叱り付け、正しい道を教えるだろう。
これが、クラブチームの真の有り様である。
このために、多大な犠牲(スポンサー収入減等)を払ってまで、
チーム名から企業名を外し、地域名を入れているのだ。
市民が主体的に関与できるように。
(ちなみに、阪神タイガースは、血は繋がっていないが、
自分の家で世話している居候と言ったところか)

*クラブチームの目指す先

このように、「市・街を挙げて、企業チームを応援する」
という風土が染み付いている関西では、
阪神タイガースの影響力を無視して、クラブを運営することはできない。
常に、タイガースという内なる敵と戦い続けなければならない。
ただし、これは、「タイガースを倒す」という意味ではない。
現に、タイガースファン兼ヴィッセルサポという人は、かなりの割合で存在する。
兼任は可能だ。
しかし、本当に活動地域にクラブチームの芽を下ろしたければ、
阪神タイガースの良さを認めつつ、
それとは別の道を歩まなければならない。
同じ道を歩けば、絶対に牙城「阪神タイガース」を超えることはできないのだから。

別の道を歩むとはどういうことであろうか。
簡単だ。
それは、クラブチームであることを全面に押し出し、
タイガース以上に地域密着を徹底させることに他ならない。
上記の通り、地域密着とは、
そのクラブが住民にとって「≧」の関係になり、生活の一部と化すことである。
球場は常に大入り満員。
飲み屋に行けば、皆が地元クラブの話題で盛り上がる。
子供達のヒーローは、地元クラブの選手。
マスコミは、地元クラブのことばかりを大々的に持ち上げ、
事実、その話さえしていれば視聴率が取れる。
さらに、地元クラブが優勝すれば、その土地の景気すら回復する。
それが地域に密着するということだ。

関西地区でJリーグチームが生き残るには、こうなるしか道はない。
そして、それは十分に可能だ。
なぜなら、阪神タイガースは、地域住民に対して何の主体的な努力もしておらず、
ただ100年の歴史に安住しているに過ぎないのだから。
企業がチームを持っている以上、その親会社の経営方針に逆らうことはできない。
いわゆる、企業チームの限界である。
それゆえ、Jクラブチームが、より深い地域密着を推し進めれば、
タイガースを超えることは決して不可能なことではない。

*結論

さて、以上のような点を踏まえて、我等が神戸市にあるVヴィッセルはどうか。
はっきり言って、ファンがチームカラー変更を受け入れた時点で、
すでにクラブチームですらない。

(自分の子供と他人の子供を交換したようなもの)
地域密着以前の問題だ。

*追記

阪神タイガースを超える方法は、もう一つだけある。
それは、読売ジャイアンツになることだ。
ただし、それが関西地区で受け入れられるかどうかは、果てしなく微妙だ。

この記事は書きかけです。
加筆、訂正してくださる協力者を求めています。


<戻る>