第2章:気持ちだけでは


 湖畔の村エレイン、それがこの村の名前だ。
 高い木に隠れて発見しづらかったが、比較的大きな村で中心にはメインストリートがある。その道だけは太く、整備も行き届いているようだ。北の国の中心部へ向けて、緩やかなカーブを描いて伸びていた。
 その両脇にはこの町の商人が多数の露店を出し、全ての店が活気付いている。
 そして路地に入るとあまり一般的でない商品や、魔法のクスリなどを扱う店、商品を卸す問屋などが多い。
 さらに外側には、村の周りを囲うような形で家屋が広がっている。
 周りの村よりは裕福なのだが、到底町とは言えない広さだ。けれども村と森ばかりのこの辺りでは、間違いなく中心的な存在だった。
 フィソラは、あえて人目を引くために湖の岸に降り立とうとしている。その場で宿の場所をすぐ聞き、必要ならば最近の様子などの情報も仕入れることができるからだ。
 予想通り降り立つ前に多くの村人が集まって来ていた。ほとんどは物珍しさに集まってきた子供のようだが、ちゃんと大人もいる。
 「すいませーん! 少し空けてくださーい!」
 アイリスのその声が届き、村人が一斉に降りる場所を空けた。こうして迅速に降りられるかだけが心配であったが、それも大丈夫のようだ。
 フィソラが最後に大きく翼を羽ばたかせ地面に降り立つと、多くの人に取り囲まれ……。
 「まあ! 天使じゃない!?」
 「へ? ウチ?」
 「まあ本当!」
 フィソラを取り囲んだのは子供ばかりで、肝心の大人に取り囲まれたのはナデシコであった。その大人もどんどんと増えてゆく。
 全員が胸元で手を組み、地面がぬかるんでいない事を確認すると、膝をつき祈りの言葉を紡いでいた。
 ナデシコもまんざらでも無い様子で、頬を桜色に染めながら「ウチなんかが天使でええんかな〜」と微笑んでいる。
 『私が目立っていないとは……珍しい事もあるものだ』
 「……うん」
 アイリスとフィソラは呆然とした様子でその一風変わった光景を眺めていた。
 ギルバートも最初はそうだったのだが一足速く立ち直り、「よっこいしょ!」という掛け声と共にフィソラから飛び降りた。
 「おお偉大なる三体の神々よ。私はあなた様の使いであるこの天使様にお会いできた事を……」
 「……あいつは天使なんかじゃないぜ?」
 小さな声でたった一人に声をかけたつもりだったのだが、その場の全員が敵意のこもった目でギルバートを見つめた。悪口は伝わりやすい。たとえ本人にそのつもりは無くてもだ。
 「あいつは俺の仲間だ」
 村人の様子を見たアイリスが「あ〜あ」と言いながら頭を抱え、取り囲まれたギルバートは「あいつも俺もビーストガーズの……」と必死に説明しながら村人の敵に回り、ナデシコは「困ったなぁ〜」と言いながらわざわざ翼を見せていた。

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