「あ〜あ……ナデシコ……何やってんだ……」
 ギルバートがナデシコを恨みがましく見つめる。
 「ごめんなぁ〜アイリス。ウチ等はそういう仲やねん!」
 ナデシコがギルバートの腕に抱きつく。
 「違うだろ!」
 アイリスはそのやり取りを黙って聞いていたが、黙ってギルバートまで歩み寄り、その耳元に唇を近づける。
 「お、おい? どうしたんだ?」
 息がかかるほど近くにアイリスを感じ、ギルバートが赤くなる。
 そしてアイリスはとうとう
 「どういうことよ!!」
 耳のすぐ近くで大声を張り上げた。本当に鼓膜が破けるかもしれないほどの大声のせいでギルバートの耳鳴りは鳴り止まず、頭がくらくらした。
 「そうよ! いろいろあって忘れてたけどナデシコに言ったそうじゃない! なんなのよ 『お前がいてくれて良かった』って!」
 「な、なんだって? 何も聞こえない!」
 「そうやギル様! 何でアイリスに『いつまでも待ってる』だとか『守りにきたぜ』なんて一度は言われてみたいセリフを!」
 「あー! だから! 何にも聞こえないんだって!」
 この際なので、二人はいったんギルバートを無視することにした。どうせ何言っても聞こえないのだ。
 この後、耳が回復してからゆっくりと話を聞けばいい。
 「ところで、ナデシコ。秘密って何?」
 アイリスが怒りをにじませながらナデシコを見る。盛んに指輪を触っていた。
 「そういや、アイリス。言われた数はウチより多い見たいやな?」
 ナデシコが怒りをにじませながらアイリスを見る。手は握り締められていた。
 「ところで、一体どんな状態で『お前がいてくれて良かった』なんて言われたの?」
 「あんたこそ!どんな汚い手でギル様にそんな言葉を言わしたんや?」
 一触即発の空気。そんな中でようやく耳の治った勇者が立ち上がる。
 「なんだ……そんなことで喧嘩するなよ。俺が誰に何を言おうと、別にいいじゃないか?」
 この瞬間。二人の思いは一つになった。
 アイリスとナデシコは同じタイミング、同じ動き、同じギラリと光る瞳でギルバートを睨みつけた。あまりの恐怖にギルバートは言葉を失い、顔が青ざめてゆく。
 「「そんなわけ無いでしょ!」」
 二人の拳が、同時にギルバートの顔にめり込む。
 『自業自得だ』
 ギルバートは、薄れ行く意識の中で、核心に近づいた。

 気持ちのこもったパンチは効くなぁ〜……。
 「思いは確実に力になる!」ってことか

 ……随分情けない辿り着き方だった。

〜〜〜Fin〜〜〜

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