しゃりしゃりしゃり………。
病室に響く音。アイリスのいるベッドからだ。
黒髪の男が刃物を持ち、アイリスの隣に座っている。
刃物が何かを切りさくたび、赤い物が垂れて行く。
男の目は青く、服は黒い。ズボンは長く、茶色。
ベッドの脇にイスを置き、腰掛けている。膝の上には金属のトレー。
そのトレーの上には、さっきから液体がぽとぽとと落ちている。
手にしているのは、真っ赤な玉と、鋭利なナイフ。
微笑を浮かべながらナイフを突き立て、玉を八つ裂きにしてお皿の上に置いた。
「はい!早くよくなってね」
「うん」
黒服の男レグルスが、皮をむき、八等分したりんごをアイリスに手渡す。
アイリスは頬を赤く染めながら、それを受け取った。
「僕も力になりたかったんだけど、入団したてで全然自由に動けなくて……。
君がこんな怪我をしていると知ったら絶対行ったのに……」と悔しそうな表情を浮かべる。
「ありがとう!でも気持ちだけで十分嬉しい!」
病人であることを忘れさせるような、本当に嬉しそうな笑顔だった。
レグルスが少し赤くなる。
「他に何か気になる事はある?」
「……うん…」少しアイリスがうつむいた。
レグルスの予想通り、やはり気にしていたらしい。
心優しいアイリスが今気にすることといえば……手を打っておいて良かった。とレグルスが思う。
「フィソラはヴリトラが見てるけど、大丈夫だって。
例の森の生態系も、回復しつつあるみたいだから、気にしなくても大丈夫だよ」
「そう!良かった……」まだ何かあるのだろう。少し暗い。
「あと、ギルバートさんだけど」
「どうかしたの!」
心配そうな顔で、慌ててアイリスが聞き返す。
それを見て、レグルスが笑いながら。
「元気そうだよ」
「なんだ。良かった!」
アイリスがこぼれるような笑顔で、りんごをかじった。
「もう一つ食べなよ。
本に書いてあったけど、こういう病気にはりんごが聞くんだって」
そう言って、また差し出す。
「ありがとう」
アイリスが、笑顔でそれを受け取る。
体調が回復してきて、面会謝絶も無くなった。
思いは伝えていないものの、相思相愛の二人。
照れながらも楽しく話す。
新人ゆえにレグルスには任務が少ない。
だが、それゆえに、思う存分共にいる時間を楽しめる。
ああ……青春。
ああ……あれ?………………ギルバートが報われない。
〜〜〜To Be Continued.続く〜〜〜
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