2 文化人類学をとおした接近法

 

文化人類学の研究を使用する聖書本文の接近法は、社会学的接近法と密接な関係にある。この二つの接近法の区別は、視点の水準、方法の水準、考察対象である現実の側面の水準にある。社会学的接近法は――われわれがたったいま述べたように――何よりも経済的制度的側面を研究するのに対して、人類学的接近法は、言語や芸術ばかりでなく、衣装、装飾、祭儀、舞踊、神話、伝説および民族誌学に関わるすべてのものに反映されている他の諸側面の広い取合わせに関心を持っている。

一般に、文化人類学は――たとえば「地中海人」のように――それぞれの社会的文脈のなかでのさまざまな人間の特性を定義しようとする。その研究対象には、田園や都市の文脈に関わるもののすべてが含まれており、またそれは、当該の社会によって認められた諸価値(名誉、不名誉、機密、信仰、伝統、教育と訓練)、社会支配の様式、家族や家や親族について抱かれる理想、女性の地位、制度化された二重性(援護者と被援護者、所有者と借り主、慈善家と受益者、自由人と奴隷)に注意を向け、聖と俗、タブー、一つの状態から他の状態への通過儀礼、魔術、富と権力と情報の源泉などを考慮に入れる。これらのさまざまな要素に基づいて、多くの文化に共通するとされる類型論とモデルとが構築される。

明らかにこの種の研究は、聖書本文の解釈に有益であり得る。これは、旧約聖書におけるし血縁関係の観念、イスラエル社会における女性の立場、農耕儀礼の影響などについての研究に効果的に適応されてきた。イエズスの教えを報告する本文、たとえばたとえ話において、多くの詳細を、この接近法のおかげで説明することができる。このことは、神の統治の観念や救いの歴史のなかでのときの知覚の様式の観念、ならびに最初のキリスト者たちが共同体に集まるようになった過程の観念などの根本的諸観念についても当てはまる。このような接近法は、聖書の使信のなかで、人間本性にその基礎を持っているものとして恒常的な諸要素と、特定の文化の特殊な特徴に起因する偶有的な諸要素とをより明瞭に区別することを可能にしてくれる。しかしながら他の特殊化された接近法の場合と同様に、この接近法も、啓示という特別な内容を決定する資格を有していると主張することはできない。この接近法のもたらす貴重な成果を評価するときには、このことに留意することが大切である。