TAEYEON 〜Forever〜
(I wanna dream with・・)


第51話「行かないで」







「そんな…今何て…、」

ティファニーは一歩前に出ると、胸に手を当てながらさらにその身を乗り出した。
会長は小さく息をついてゆっくり全体を見渡すようにしながらあらためてそれを口にした。

は…、 は今月末をもってSMエンターテインメントとのパートナーシップを解約し、ここを離れることになった。」

より明確なその言葉を耳にして、メンバー全員は一歩も動くことなくただ呆然とその場に立ち尽くす。
誰一人としてその情報を把握できない、いや…受け入れようとしていない……そんな状況。
眉間にしわを寄せ、あり得ないという顔を見せるティファニー。そしてそのフォーカスが奥に移るとそこには、無表情に焦点の合わない目をしたテヨンの姿があった。

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は相変わらず、屋上から街を見降ろす。
曇り時々晴れの陽射しの中、手摺に腕を乗せ立つその背中をテヨンは一人見つめていた。
その視線を感じたのか、 はゆっくりと顔だけを向けるようにして振り返った。
少しだけ日が陰り、同時に街から吹き上げる風がテヨンの髪を静かに揺らす。

「よっ。」

はいつものようにそう言うと、いつものように右手を上げて軽く敬礼をした。
テヨンはいつもとは違う空気で一歩だけ前に出ると、それ以上近寄れないように張られた見えないバリケードの前に、立ち止まる。
そして一瞬の静寂の後、彼女は小さく口を開いた。

「本当なの……?」

空模様より曇ったテヨンの表情から、それが何の事かはすぐに分かる。

「…ん?」

はワザと言葉になるかならないかの大きさでそう応えると、それが大したことではないかのようにすぐに言葉を続けた。

「あー、アレか。ここを出るっていう?それなら…本当だ。急で申し訳ないが僕はここを離れて日本に帰る。」

その心とは反対に強めに射し込んで来た日射しの中、テヨンは戸惑う顔を隠す事なく数回視線を泳がせた後、俯き加減に小さく口を開いた。

「……どうして…?」

はゆっくりとテヨンの方に向き直ると一度視線を外して息をつき、その後再び彼女の方を見た。

「理由は……幾つかある。まず、」

「どうして言ってくれなかったの!?」

予想と違うテヨンの言葉に は少し驚いた表情を見せてから何かを言おうとしたが、すぐにはそれが出て来ない。本題よりも確信をついたかのような質問に は空を見上げた後目を閉じた。

さんずっと変だった!どこかおかしかった!ずっと悩んでたんでしょ!?ならどうしてそれを、それを言ってくれなかったの!?言って欲しかった!私には!、"私にだけ"は言って欲しかった!!…どうして!?ねえ……、どうして…。どうしてなの……。」

空を覆う厚めの雲が陽の光を遮る。それと共に強さを失うテヨンの言葉。やがてそれは降り出す予報の雨よりも先に、雫となって彼女の頬を伝っていった。

「言おうとは…。ずっと言おうとは思ってた。」

「……。」

言葉なく真っ直ぐと を見つめるテヨン。
彼女が何も言わないであろうことを察すると はすぐに言葉を続けた。

「でも出来なかった。…それは相談と言うよりはすでに自分で決めた事だったし。それに……、」

少し言葉を止めた を相変わらず真っ直ぐに見つめながら、テヨンは微かに首を傾げた。

「それに…君に言うと気持ちが………、…自分の気持ちが……揺らぎそうだったから…。だから伝えるのも会長に任せた。勇気のないオトコだ…ホントに。」

少しずつ厚さを増していく雲を見上げるように上を向くと、 はポケットに手を入れながら小さく溜息をつく。
テヨンはちょうど視線を外す を引き戻すようなタイミングで、ようやく言葉を発した。

「それでも…。」

「…?」


「それでも言って欲しかった!!!」


は斜め上を向いたまま一度瞬きをすると目線だけをテヨンにむける。

「言われればショックだった!嫌だって言ったと思う!グズグズ泣いたかも知れないわでも…!!」

「……。」

「それでも言って欲しかった……。」

涙をこらえる事もせず、両手に力を入れながら真っ直ぐな姿勢で立つテヨン。
だがその顔を見せたくなかったのか、すぐに彼女は下を向きそのまま黙ってしまった。

はゆっくりと、ポケットに手を入れたままテヨンの前に歩み寄る。
そして数歩手前で立ち止まると、彼は気持ちを切り替えたように一つゆっくりと息を吸い目を閉じた。

「ここを離れる理由は3つある。」

頭の切り替えができないまま、テヨンは少しだけ上を向く。
それに合わせるように眼を開けた はそのまま務めて事務的に口を開いた。

「一つは、僕にもやりたい事がある。まだ漠然としてるけど自分の、やるべきことを見つけたような気がする。それともう一つは、君達はすでに僕がどうこうする必要がないほどに成長した。自分達で考え、個性を伸ばし、進むべき道を決める。そういう時期に来ている。」

テヨンは一度だけ小さく口を開いたがすぐにそれを閉じ、再び黙ったまま少し下を向いた。

「それと、3つ目…、」

そう言って少し黙った後、 はポケットに入れていた手を出し一つ息を吸いこんでから、はっきりとした口調で言葉を続けた。

「テヨン僕は…、」

「僕は人を幸せには出来ない。」

まったく想像もしていない の発言にテヨンは更に言葉を失う。
……聞きたい。その後を。…だけど聞けない。言葉が出ない。その想いが彼女の瞳に現れていたのか、 は少しだけのためらいを抱きながらもう一度、空を見上げた。





"お父さん!!お父さーん!!"

少年の叫び声が薄暗い病室に響き渡る。
すすり泣く母親の脇で泣きじゃくるその少年は、もはや息をせず横たわる父親の手を何度も握り直していた。
初めて目の当たりにした、人の命が失われる瞬間。ましてやそれが自分の父親…。もうこれ以上無いかという程の、悲しみ。
だが少しの時間の後、少年は更なる深い悲しみに突き落とされる。


"なんで…。なんでだよ……。"

遺体安置所というのはイメージと随分違うものなんだと、彼は部屋に入った時努めて冷静にそう感じた。いや恐らくそう感じようとしていた。それを受け入れ無いために…。だが母親の、悲しいほど綺麗な死に顔を見た瞬間彼は… は立つ事も出きぬほど項垂れその場に泣き崩れた。
自らが招いたこの街で、事故によりその命を奪われた母親を前に…悲しみと申し訳なさと、そして自分を責める強い感情…。
大切な人とは、これ程までに簡単に消えていってしまうのか…。


深夜の街並み。その街路樹に張られた細いワイヤーは一瞬にしてシムジャンミンの身体を吹き飛ばした。
火花を散らし滑るようにして止まった無彩色のバイクのはるか向こう、彼の身体はまるで糸の切れた操り人形のように力無く横たわった。
防護する物の無かった頭部からは、やがて多くの血が流れ出す。
は人知れず感じた。それは自分が招いた悲劇であると。


"ダメーーーー!!!"
Jと の間に割って入ったティファニーはその切っ先に倒れる。虚ろな目を見ながら は思った。
まただ。
また繰り返される。
悲劇は何度も、繰り返される。





幾つかの話を聞いて、テヨンは何故という表情を浮かべながら小さく首を傾げた。
はテヨンの顔を見つめながら真剣な顔でそれに応える。

「僕の周りで幸せになった人間は居ない。」

心当たりを探す訳ではないが、テヨンは少しだけ視線を泳がすと再び を見た。

「周りの人間はみんな傷を負い、死んでいくものもいる。親族ももう記憶にないくらい、みんな早くして死んじまった。強く関わる人間ほど、その不幸も強い。いつか言ったろ…昔、バンドをやってて、大して売れずに解散したって。アレの原因も本当は…死んだんだ。メンバーが…、二人も事故でね。」

は再び空を見上げた。

「それも俺が呼び出したんだ。…寒い日だった、雪が降りそうな。バイクで来ようとした二人は信号無視のトラックにはねられて死んだ。……言ったんだ。急がなくていいって。言ったんだ!でも、でも死んでしまった…。」

それはアナタのせいじゃ無いと、そう言おうとテヨンは一歩前に足を踏み出す。
だがそこから見えた、微かに覗く の顔が泣いているように思えて、テヨンはそれ以上何も言う事が出来なかった。

「"大切な人"ほど早く失う…。」

は見上げた顔をテヨンの方に向けると、少し赤くした目で彼女を見つめる。

「"だから"僕は、ここを離れる。」

嘘など何一つ無いであろうその瞳を前に、テヨンはただ立ち尽くすしか無かった。

気付けば静かに、小さく雨が降り出していた。
やがてそれは勢いを増し…テヨンが見つめる の、その頬に落ちた雫が涙だったかどうかももう、分からなくなっていた…。




翌日 15:00
SM事務所内 の部屋

小さくノックの音がした時、 は棚の片付けをしていたその手を止め、ドアの方を見た。
乳白ガラスの向こうに見えたシルエットがティファニーだと分かると、不思議とホッとした気がした はデスクのアームチェアに腰を下ろす。

「どうぞ。」

自然な口調でそう言うとワンテンポ遅れてためらいがちに、ティファニーはらしく無い程静かに部屋へ入って来た。
その顔は明らかに、元気とは程遠い。

「どうした?今日は、撮影じゃ無いのか?」

の問いに下を向いたまま少しだけ瞳を動かしたティファニーはすまなさそうに小さな声でそれに答える。

「体調が悪くて、休んだわ…。」

「なのにナゼここに?そんな元気があるならちゃんと仕事をしろ。今頃マネージャーは頭を抱えてるぞ。」

「だって。」

間髪入れずに少しだけ大きな声で答えると彼女は真っ直ぐに を見た後、小さく周りを見回した。

「……もう…片付けを?」

ティファニーの言葉に は同じく一度周りを見回すとその意味に気付いたのか、小さく肩をすぼめた。

「いや。これは単に散らかってたからだよ。意外と綺麗好きなんだ。知ってるだろ?」

「テヨンを選んだから?」

の返事を最後まで聞くでもなく、振り絞るようなかすれた声でティファニーは言葉を続ける。

「……テヨンを選んだから、……ここを…離れるの?」

不必要なことを省いた率直な質問にむしろ感謝しながら、 は90度だけアームチェアを回転させ窓の方を向く。

「いや。それはない。」

「え?」

あまりにハッキリとした返答に拍子抜けしたのか、ティファニーは表情を少しだけ緩めた。

「テヨンと付き合うために、会社を出るんじゃ?」

「ないよ。」

少しだけ笑みを浮かべて はティファニーへと向き直る。

「そう…なんだ。でもじゃあ、なんで…」

「理由は"2つ"ある。一つは、少女時代はもう僕を必要とはしない。個人の個性やスキルはもう十二分に高められた。それを取り巻くスタッフも申し分ない。それともう一つは、僕にもやりたい事が見つかった。」

一つ目の理由に異論を持ちながらも、2つ目の理由が気になったティファニーはそちらに頭を切り替えた。

「やりたい事って?」

その質問に は少し困った顔をしながら苦笑いを浮かべる。

「やりたい事というか…、やるべき事……なのかな。まだ具体的ではないけど、自分の人生をこう持って行きたいっていう…そういう想いはある。その手段はこれから探すんだけどな。笑」

あっけらかんとした の笑顔に、思わずティファニーもつられて微笑む。ここへ来た時の重たい気持ちが一瞬で消え去った。何も解決したわけじゃないのに。…それがこの人の魅力。
だから好きなんだ。私はこの人が…好きなんだ。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだような、そんなキレイな顔をしてティファニーは を見つめた。

「ん?何?」

「ううん。なんでもないわ。まあ、アナタがどこに居ようと私は変わらないと思うから。ずーーーっと連絡はし続けるわ!IDとか変えたら許さないんだから!」

あまりにナチュラルなティファニーの空気に、 は肩の力を抜いてから少しだけ目を閉じた後、小さく微笑んだ。




一週間後
某テレビ局

月末まで一週間を切った今日、 は最後のテレビ出演の為テレビ局を訪れた。
以前大破したのと同じ白いスポーツカーでエントランスに乗り入れると、少なくない取材陣が周りを取り囲む。

" さん、最後の出演となりますが、今のお気持ちは!?"

"依然引退理由が不明確なのですが?日本に帰って何を!?"

"事務所との確執とも言われていますがその辺りは!?"

"今日は少女時代とも競演になりますが、メンバーは何と!?"

" さん!一言だけ! さんー!"



局内に入った は一人、騒ぎが嘘だったかのようにシンと静まり返った廊下を歩く。
歩き慣れた廊下。その一際大きな柱を通り過ぎようとした時、 はふと足を止め小さく笑いながら鼻の頭を数回掻いた。

「前に言ったろ。取材はお断りだ。」

その言葉に一度だけ声を出して笑ったシムジャンミンは、柱の影から顔を出し少しの距離を空けながら の横に並んだ。

「さすが有名人、大した人気だな。」

「まあな、一部じゃスパイ説もあるらしい。」

はそう言いながら下を向くと、呆れた顔で笑う。

「何しに来た?しかも、どうやって入った?」

「幸い各局のIDは全て持ち合わせてる。」

「通報しようか?」

「いや、遠慮しとくよ。まだ質問に答えてないしな。」

「質問?」

は、した覚えの無い質問を思い出しながらチラリとジャンミンを見た。

「ああ。何しに来た?と、聞いただろ?」

「なんだ、どうせただの冷やかしだろ。」

「Jがテヨンにコンタクトを取っている。」

「!?」

速いテンポの中発されたジャンミンの言葉に、 は一瞬で険しい表情を浮かべた。

「コンタクトとは?どういう?」

「いや、オレもあのうるさいアメリカ女←に聞いただけだしちゃんとした事はわからんが…、Jからこれまでの事に対する謝罪のメールが届いたと。」

「謝罪の?」

「ああ。オレは直接見てないが、やけに丁寧な文面だったらしい。」

「そうか…謝罪…、謝罪なら…いいんじゃないか?オレが消えれば全てが…終わるだろ。」

「なら良いけど、最後にアイツはテヨンに面会する事を望んでいたと。直接会って、詫びたいと。」

「………。」

「どう思う?信じられると思うか?」

視線を横、ジャンミンと逆側に向けながら は口を閉じた。
隣の男が何も喋らないのを見てから、ジャンミンは言葉を続ける。

「今、キムテヨンは不安定だ。どんな言葉に動かされるか分からない。ここを離れるのはアンタの勝手だが、ちゃんと見といたほうがいいぞ…、テヨンの事を…。」

「……。」

は何も言わないまま俯き目を閉じる。
これ以上の言葉は必要無いと、ジャンミンは静かに闇に消えた。




同じ頃
少女時代控え室

「はぁ……。」

いつものようにスヨン達がせわしなく喋る中、テヨンはその輪から外れて一つため息をついた。
…あれからほとんど、仕事の事以外で とは話していない。

「……テヨナ。元気出せとも言えないけど、ため息ばっかつかないの。そのままオバハンになっちゃうわよ。」

右隣に座ったサニーは軽くテヨンの肩を叩くと小さく息を吐く。

「あ…、なんとも無いわよ、なんとも…。本当に、私はなんとも…無いんだから。もともとそんなのは…無いの。だから……大丈夫。」

徐々に小さくなる声にサニーはテヨンの胸の痛みを察したのか、並んだ肩をそっと付けると左手をテヨンの手に重ねた。

「アナタがそう言うなら大丈夫なんだろうけど……、まあ、辛い気持ちはみんな一緒よ。だからステージではいつものテヨンで居てね。」

サニーの言葉にテヨンは少しだけ顔を上げると小さく口角を上げた。
それを見て安心したのか、サニーはいつもと同じ笑顔を見せると先に立ち、彼女の手を取った。

「さ、時間よ!今日は生放送で さんを送り出してあげる段取りでしょ!しっかりしなさい。」

サニーにつられるように立ち上がりその場を後にするテヨン。
その勢いで傍らに置いてあったテヨンのカバンが倒れたがそれに気づかず二人は最後尾でメンバーに続く。
そして少しの静寂の後…そこに小さな振動が数回、部屋に響き渡った。
カバンから溢れたテヨンのスマートフォン。まだ明るく光るその画面にはたった一つ、アルファベットが小さく表示されていた。

"J"



---

本番が始まる。

だけどこんな大事な時間も、こんなかけがえの無い瞬間も…いつものように過ぎて行く。
と同じステージに立つ。普通ならこの自分に与えられた特別な役割をどれだけ喜ばしく思えただろう。
でも今は違う。歌う の背中を見ることが…辛い。胸が…苦しい。
気が付けば最後のステージは終わり、彼はもう最後の挨拶をしていた。

このまま終わってしまうのかな……。

このまま…。


「(テヨナ!、テヨナ!)」

「え?」

隣でテヨンの腕に肘をぶつけながら、サニーは何かを伝える。

「(アナタの番よ!一言!)」

「え?あぁ。」


『時間が止まって欲しいのは分かりますが、テヨンさんから。一言、いただけますか?』

MCが少しだけ場を和ませると、隣からサニーが静かにマイクを渡す。
テヨンはまだ少し状況が判断出来無いのか、前を向いてから数回瞬きをした。

「あ、……私は……、」

まったく落ち着きも取り戻せ無いまま、テヨンは話し始める。

「私は、 さん、あ… さんに会って、凄く、沢山の事を学びましたとても…、えっと、本当に…感謝しています。…ずっと、 さんの…あ…、その……、幸せを………祈っています……。」

言いたい事の1%も言えないまま、テヨンは落とすようにマイクを膝の上に置いた。

はそんなテヨンから敢えて目を離すと、少しだけ上を見た。
向けられたスポットライトがやけに眩しくて目を閉じる。
そしてMCが最後の時を告げ、その時間は何の変哲もなく終えようとしていた。

拍手が鳴り始める。
目を開けると観客は全員立ち上がっており、 に向かい惜しみ無く手を叩き、暖かい声をくれていた。
少しばかり胸が熱くなるのを抑えながら、 は一歩前に出る。

ほんの一瞬、…テヨンの方を振り返って。


心に空いた大きな穴を埋める術も分からず、皆んなと同じように立ち小さく手を叩く…テヨン。


そして彼は歩き出す。
背中を向けて…。

溢れそうな涙が…心の穴からボタボタと不格好に落ちていく。
そんな感情を胸にテヨンはそれを…見つめる。

鳴り止まぬ拍手。
耳をつく歓声。
テヨンは呼吸することも出来ずに唇を震わせた。




本当にこのまま……
このままこれで
終わっちゃうのかな………




頭をよぎる 楽しかった日々…
心を満たす彼に貰った…"シアワセ"という、気持ち。



「イヤ…」

「イヤだ……。」


テヨンは何かを振り切ったように大きく息を吸った。
それに気付いたサニーが小さく呟く。

「テヨナ?」


「イヤ……」

「イヤアアーー!!!」


「テヨナ!!」


サニーはテヨンの手を掴み落ち着くよう促す。
だがテヨンはそれを振りほどく。

その瞬間…………テヨンの耳は全ての音を消し去り今、その想いは抑えるべき全ての感情を…越えた。


「テヨナ!!」

「イヤアアアアーーー!!!!」



メンバーとそして、観衆の驚きの視線の中、テヨンは全力で駆け出す。
そして彼女はぶつかる程の勢いで に追いつくと、 の背中に精一杯の力で抱きついた。
涙に濡れた頬をその背中に…いつも見つめたその背中に何度も擦り寄せながら…テヨンは呟く。

「行かないで……、」

「行かないで…お願い……お願いだから……、」


「行かないでーー!!!!!」





静まり返るスタジオに響き渡るテヨンの…心からの叫び

暗闇を照らし出すスポットライトはまるで月夜の光のように

いつまでも二人の姿を……照らし出していた。








TAEYEON〜Forever〜(I wanna dream with・・) 第51話 行かないで  
to be continued.


 



続き>> 第52話「ケジメ」を読む!