2006年7月号

☆ 旭山動物園からのメッセージ ☆

          

  うだるような暑さが続く毎日、皆様いかがお過ごしですか?

 子供達は夏休みを満喫していることでしょうね。

 大人の私達は、この時ばかりは子供達が羨ましくなりますね。


  さて、私は先日『「旭山動物園」革命―夢を実現した

 復活プロジェクト(旭山動物園園長・小菅正夫著)』という書物を読みました。

 様々なことを教えられる良い本でした。

 今月はその一つを分かち合いたいと思います。


  既にご存じのように、

 今や旭山動物園は

 東京の上野動物園を凌ぐ入園者を獲得する動物園です。

 テレビでも何度も取り上げられ、

 旅行社は「旭山動物園パックツアー」までも企画しています。

 交通の便の悪い北海道の真ん中に位置し、

 しかも珍獣のいない動物園が日本中の人々に注目されています。


 その最も大きな理由は、動物の展示の仕方にあるでしょう。

 動物の展示の仕方には、動物の姿形で分類して、

 おもに檻に入れて展示する「形態展示」(従来の動物園の展示)、

 動物の生息環境を園内に最大限再現して展示する

 「生態展示」(サファリパークの展示)があります。

 しかし旭山動物園が取った展示の仕方は、

 それぞれの動物がもっている特有の能力を発揮できる

 「行動展示」という方法でした。

 当然、それぞれの動物を入れる器には、

 その動物の特性を生かせる構造になっているわけです。

 動物たちがイキイキと活動している。

 それを見た人間も嬉しくなり元気になる。

 これが人々を惹きつけて止まない魅力なのでしょう。

  
 小菅正夫園長はこの書物の中でこう言っています。

 「人間でも、自分が誰にも負けない能力を発揮できる場を与えられて、

 それを人に評価されれば、そんな嬉しいことはないだろう。

 勉強でも、運動でも、仕事でも、もっとやろう、

 もっと上手くなりたいと思ってますます能力を高めていくだろうし、

 イキイキしてくるはずである。

 動物も同じだと思う。

 外の動物にはない、

 自分だけの持つ能力を発揮できる環境を提供されたいのだ。」

 更に彼は言います。「野生動物と向き合い、

 園長として動物園のスタッフを見ていて思うのは、

 動物も人間も『自分らしさ』を発揮できる環境は

 なにものにも替え難いということである。」


  逆に考えれば、

 旭山動物園の人気の陰には、

 「自分らしさ」が生かされない閉塞感があるのではないでしょうか。

 だから人々はイキイキと活動する動物達を求め、

 彼らを見て、嬉しくなり、元気になるのでしょう。

               
  「自分らしさ」を充分に発揮できる環境。

 なんて有り難い環境でしょう。

 でも、残念ながら、

 そのような環境は現実社会では余り期待できないでしょう。

 大なり小なり「自分らしさ」を抑圧されるのです。

 社会人になるとはそういうことでしょう。

 私は、今日のフリーターとかニートとか呼ばれる若者達の問題は、

 旭山動物園の動物のように、

 「自分らしさ」を発揮できる環境を棚ぼた式に

 求めすぎていることではないかと思います。

 彼らは、この仕事は自分に合わないからと直ぐに辞めてしまいます。

 ある若者は「自分は何がしたいか分からない」といって

 定職に就こうとしません。

 「自分らしさ」を発揮できる環境を求めすぎてさ迷っているのです。


  旭山動物園の動物達は、

 自分達で自分らしさを発揮する環境を作ったわけではなく、

 人間によって環境を作ってもらって自分らしさを発揮できました。

 ここに人間と動物の決定的な違いがあります。

 人間の素晴らしさは、

 置かれた環境で創意工夫をしながら自分らしさを発揮していけることであり、

 更には自分らしさを発揮できる環境を創り上げていくことなのです。


  世界史で学んだ4大文明の発祥の地は、

 決して良好な土地ではありませんでした。

 大河が氾濫を繰り返す最悪な土地であったのです。

 その自然の猛威に人が立ち向かい戦った結果、

 4大文明が興ったのです。

 神のかたちに創られた私達人間には、

 環境を管理支配する力が与えられているのです。


  私達は、旭山動物園の動物達の姿を見ながら、

 人間に備えられた特有の能力を見つめ直そうではありませんか!


                     教会学校教頭 新谷和茂