2008年2月号

☆家族の実力☆

  寒さの中にも春の息吹が感じられるようになりました。

 みなさん、お元気ですね。
           
  
  さて、私は「家族の実力」(柏木哲夫著)という本を読みました。

 著者の柏木哲夫氏は淀川キリスト教病院名誉ホスピス長であり、

 また金城学院大学学長を務めておられます。

 柏木氏はホスピス医として2500人の死を看取ってきた経験から、

 家族の絆を強める秘訣を平易な言葉遣いで私たちに教えてくれています。

  柏木氏はこの書物の中で良い人間関係を作り出すための 

 8つの条件を紹介しています。以下引用します。


   @人の話をよく聴く

   A相手の感情を汲み取る

   B相手の言いたいことを理解し、会話を持続させる。

   C相手に自分の判断を押しつけない

   E自分も変わろうと努力する

   F相手と距離を保つ

   G相手のことを分かろうという「理解的な態度」で接する。

  この@〜Gは、どんな場面でも必要なことです。

 「それは、あくまで理想だ」と思われるかもしれません。

 しかし、これらが実際に行えていないので、家庭でも職場でも、

 そして学校でも「様々な問題」が生じてくるのです。自分自身が常日頃、

 意識しなくても、こう言ったことを身につけていれば、

 自分自身も成長するはずです。…(中略)…

  この8つのことが実行できる人は、どんな人でしょうか。

 私のこれまでの経験から考えられることは、一言で言えば、

 「自分が生かされていることを深く自覚している人」のような気がしてなりません。


  確かに、「生かされている深い自覚」は人を謙遜にし、

 良い人間関係を形成していく土台となっていきます。

  更にF項の「相手と距離を保つ」ことについて、柏木氏はこう説明されています。


  私たち一人ひとりは独立しており、

 「私は私」、「あの人はあの人」という「自律性」を持つ必要があります。

 しかしそれがあまり離れすぎると、二人の関係は冷たくなります。

 「適当な距離と保つ」ことは、とても難しいのです。

 ここで、哲学者であるショーペンハウエルの比喩として

 有名な「ヤマアラシの距離」の話を紹介しましょう。

  冬の寒い夜、2匹のヤマアラシが野原で会いました。

 風が吹き、寒くて仕方ありません。

 そこで、互いの体温で温め合おうと、2匹が近寄ったところ、

 近寄りすぎて、自分たちの持つ針で互いを傷付け合い、

 とても痛かったといいます。

 これではいけない、と離れると、2匹の間を風が通り抜けていき、また寒いのです。

  そこで2匹は少しずつ近づき、お互いの針で互いが傷付かない程度で、

 しかも体温を感じられる距離を保ちながら、夜が明けるのを待ったということです。


  「ヤマアラシの距離」とは言い得て妙です。

 私たちは多かれ少なかれ針(トゲ)を持っているものです。

 接近しすぎると、互いの針(トゲ)で傷つけ合うことになり、関係がまずくなります。

 かといって距離が離れすぎると寂しくなってしまいます。

 程良い距離感は試行錯誤の中で体得していくしかありません。

  近ごろは、この人間関係の距離感を

 うまく調整できなくなっている人が多いように思います。
               
 携帯メールで長時間つながり続けて接近しすぎ、

 振り回され、束縛し合い、果ては傷付け合うパターンもあるようです。

  武者小路実篤の有名な言葉に

 「君は君、我は我也、されど仲よき」という言葉を思い出します。

 夫婦であっても、また親子、友人であっても、

 「君は君」「私は私」という自律性を持ち、

 お互いの考え方、感じ方の違いを認め合い、

 お互いを尊重し合って協力し合う関係を築き上げていきたいものです。

  問題はその「自律性」をどのように養うのかということです。

 それもやはり「生かされているという深い自覚」から養われるしょう。

 どんなことがあっても私は愛され、守られ、支えられている自覚が、

 心の安定をもたらし、自律性を養うことになります。

  「家族の実力」という言葉は柏木氏の造語でありますが、

 夫婦や親子にまつわる事件が頻発している現代にあって、

 この「家族の実力」が問われていることを痛感します。

 ご一緒に「私の家族の実力は?」と見直し、強化していきたいと願わされます。

                          教会学校教頭 新谷和茂