2007年7月号

☆ あわてない、あわてない ☆

  涼風の恋しいこの頃でございます。

 皆様、いかがお過ごしですか?
       

  さて、読売新聞7月6日付編集手帳にこんな記事がありました。    

 ------谷川俊太郎さんに、「あわてなさんな」と題する詩がある。

 「花をあげようと父親は云(い)う

 種子が欲しいんだと息子は呟(つぶや)く

 翼をあげるわと母親は云う

 空が要るんだと息子は目を伏せる…」

 ◆子の幸せを願わぬ親はいない。

 花と翼を用意し、

 人生の空を彩り豊かに舞わせてやりたいと思う。

 願いはしても、かなうことではない。

 挫折や煩悶(はんもん)を種子にして、

 わが子がみずからの手で花を咲かせるのを傍らでじっと見守る。

 親にできるのはそれだけだろう

 ◆無理心中を図り、

 高校生と中学生の子供3人を殺した京都市の父親(42)が逮捕された。

 職がないのに会社勤めをしていると家族に偽り、

 自分の母親(72)からもらう金を給料として家に入れていたという

 ◆「子供は幸せな間に逝かせてやりたい」と遺書に記していた。

 偽りの生活には無理があり、

 これ以上は幸福の花を贈れないので、

 わが子から人生を、命を取り上げる。

 何という愚かでむごい錯誤だろう

 ◆「あのころ、一家の大黒柱に扮(ふん)した

 オヤジの名演技にはすっかりだまされたな」

 「古い話は勘弁してくれ。いまでも顔から火が出るよ…」。

 何年か後、十何年か後、酒を酌み交わしつつ、

 父と子が談笑している光景を夢想してみる

 ◆家庭の苦難も子供にはいつか、人の弱さ、

 哀(かな)しさを学ぶ種子になり得ただろう。

 生きてさえあれば。------


  ここで引用されている谷川俊太郎氏の詩を全文ご紹介しましょう。

     「花をあげようと父親は云う

     種子が欲しいんだと息子は呟く

     翼をあげるわと母親は云う

     空が要るんだと息子は目を伏せる

     道を覚えろと父親が云う

     地図は要らないと息子がいなす

     夢を見ないでと母親が云う

     目をさませよと息子がかみつく

     不幸にしないでと母親は泣く

     どうする気だと父親が叫ぶ

     あわてなさんなと息子は笑う

     父親の若い頃そっくりの笑顔で」
 


  親と子の微妙な関係を表現した味わい深い詩です。

 実は我が家に4人目の子供が生まれました。

 私は上の3人が生まれる時も立ち会いましたので、

 4人目も立ち会いました。

 新しいいのちが誕生する瞬間は本当に感動でした。

 思えば、妻は4人の子供の出産だけではなく、

 流産と子宮外妊娠をも経験しています。

 妻にはよく頑張ってくれたと感謝しています。

 この少子化の時代に4人目さんは多すぎると

 言われるかも知れません。

 しかし私は神様から「もう一人預かってくれないか…」って

 頼まれたと受け取っています。

 まだまだ未熟な私達夫婦を信頼して

 4人の子供を預けて下さった神様に

 応えていきたいと願っているのです。
      

  この4人目の赤ちゃんを見ながら本当に小さいなぁ〜、

 何にもできないなぁ〜と感じています。

 人間の赤ちゃんは「生理学的早生」と言われます。

 他のほ乳類の動物の赤ちゃんは、生まれて直ぐ立ち上がり、

 数時間で歩き出し、走り出します。

 それに比べて人間の赤ちゃんは立ち上がり、

 歩き出すのに1年はかかります。

 そういう意味で人間の赤ちゃんは早生なのです。

 しかしそれだからこそ、

 人間の赤ちゃんには可能性がある。

 その未熟さ故に、

 多くのことを吸収していくことができるからです。
 

 そこで谷川氏の「あわてなさんな」という詩が心に響きます。

 私達親はついつい早く大きくさせよう…、

 早く色んな事ができるようにさせよう…、

 早く勉強できるようにさせよう…、

 早く英語を学べるように…などとあわててしまいます。

 勿論早いには超したことがないでしょうけれど、

 子供時代には子供時代にしか感じ取れないこと、

 体験できないことがあります。

 その年代に応じた成長を見守り、

 支えていってあげることが大切だと思います。

 人生は長いです。

 子供時代にちょっと早くできたからといって、

 それで人生に勝利できるわけではありません。

 私達親は早く成長するよりも、

 たくましく成長することを願いたいものです。

 親があわてなくても子供は育ちます。
 

 そして誰よりも神様は、

 私達人間の親としてあわてることなく、

 しかしタイミングを逃すことなく、

 私達を成熟に向かわせられることも覚えておいてくださいね。

               教会学校教頭 新谷和茂