孝子物語
むかしむかし、この美濃の国に貧しいけれど年老いた父をいたわり、それはそれは大切にしている樵がいました。
ある日、薪を採りに山に入りますと、苔むした岩間から、酒の香りがただよってくるのです。ふしぎに思ってなめてみますと、酒の味がします。
喜んでその水をひょうたんにつめて持ち帰り、老父に飲ませますと、この上もない良い酒だといってたいそうな喜びようです。
この父と子の笑いさざめく寿の声は、やがて奈良の都にまで聞こえていきました。
時の帝、元正天皇は「これは孝行の徳を天地の神々がおほめになったのであろう」と、天皇御自身この多芸の野におこしになり、その酒になったという美泉に浴され、「美泉は醴泉であり、若変りの水です。私自身若々しくなりました」とおおせになり、このめでたい年を記念して、80歳以上の老人に授階や恩賜があり、孝子節婦を表彰され、年号をわかがえりの年、即ち「養老」と改められたのです。