化学むだばなし0101

201.高温超伝導体

 冬休みに実験の補習をしたので、そのときのようすを紹介しましょう。高温超伝導体というのを知っていますか。絶対0℃(-273℃)の近くで水銀の電気抵抗がなくなるという超伝導の現象が発見されたのが1911年ですが、10年ほど前に銅の酸化物を主成分とする高温超伝導物質が発見されました。-190℃程度で高温といっても常識からすれば極低温ということになるのですが、液体窒素で超伝導状態を実現できるのは画期的なことなのです。黒い超伝導物質を液体窒素で冷やしてから丸い磁石をその上に持っていくと、超伝導物質の上、数mmのところの空中に浮いています。指で触るとくるくると回ります。横に少し押すと、押された位置で浮いています。磁石どうしの反発で浮いているのではないので、磁石を裏返して極性を逆にしても同じように浮いています。この原理はよくマイスナー効果で説明されていますが、高温超伝導体ではピン止め効果という磁力線が超伝導体の内部の不均一なところに捕らえられて動けなることによるものです。ただ、円形の磁石では磁石が回転しても磁力線は動かないので磁石は回るのです。

202.無電解メッキ

 メッキというのは、電気分解でするのが普通なのですが、無電解メッキといって銀鏡反応のように電気を使わずに、酸化還元を利用してメッキをする方法があります。この方法を使うとプラスチックのような電気を通さないものにもメッキをすることができます。銀鏡反応の銀はこすれば取れてしまいますが、プラスチックで銀色に光っているのはもっと丈夫です。これはニッケルを無電解メッキしたものです。木の葉などもメッキできるということだったので、頑張ってやってみたのですが、わずかに黒くなるだけで、この実験は完全に失敗しました。授業でする実験は誰がやっても成功するものばかりですが(それでも失敗するから不思議なものです)、研究でする実験では大抵はうまく行かないものです。うまく行かないときにその原因を突き止められるかがほんとうの力だと思います。

203.分析化学

 化学の中で物質の中に何が入っているかを調べる分野を「分析化学」といいます。分析の簡単な例として「陽イオンの系統分析」というのがあります。今回は、鉛と鉄、バリウムのイオンが入った液を調べてもらいました(もちろん調べる生徒は何が入っているか知らない)。こういう場合、おもしろいほどその生徒の性格が出るものです。ある生徒は、こういう難しいのはイヤだと逃げてしまいます。よしやってやろうという生徒にも、めんどくさくても順を追って可能性を絞り込んでいくタイプと、一発で当てようとそれぞれのイオンの特異反応で攻めるタイプがあります。前者の方は確実なように見えて、一カ所でもいい加減な操作をするとその後の結果が全部ウソになってしまうのです。後者の場合も当たれば早いのですが、見当がはずれると何がなんだか分からなくなってパニックになります。結局、どんな実験でもていねいにするしかないようです。

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化学むだばなし0108

204.黄リン

 高校生の頃に一度見てみたい物質の一つに黄リンがありました。理科年表を調べると発火点が60℃であるにも関わらず、室温で自然発火するというのも不思議したが、毒性の高い物質であるというのも興味を持った理由の一つです。黄リンは、水に入れて保存しますが、少しは水に溶けるので黄リンの入った瓶のふたをあけただけで、うっすらと白い煙が出てきます。ピンセットで黄リンの固まりを取り出すと、煙はもっとはっきりとしたものになってきます。手に付くと取れないのでおっかなびっくりで、ナイフを使って小さく切ります。黄りんと言ってもそんなに黄色くはありません。表面は白く中はロウのような感じです。このかけらをしばらく見ているとだんだん煙の量が多くなって表面が溶けたかなというところでポッと火がつきます(つまり、切るのにもたもたしていると大きい固まりのままで火がついてしまうことになる。)。黄リンの固まりをくらいところで見るとうっすらと光って見え、この光を「燐光」といいます。これとよく似たことをしようとすると、マッチ箱の横の赤燐の部分を燃やすと、紙の灰と共にどろっとした液体が少し残ります。これをラップにとって、真っ暗なところでラップをもんで空気に触れさせると光るのが分かります。昔の人が火の玉と思ったのはこのような現象かも知れません。さて、白い煙の正体は何だったのでしょう。

205.乾燥剤

 実験をする中で水が不要な反応を起こして邪魔をすることがあります。そういうときは反応させる前に水を取り除く操作が必要になります。化学ではこういう操作を「乾燥させる」と言い、そのときに使う物質を乾燥剤といいます。日常で使う乾燥という言葉は、水などの液体の成分が蒸発して固体だけになるようにイメージがあります。しかし、化学でアルコールを乾燥させるというのは、水を含んだアルコールから水分を抜くことなので、乾燥したアルコールも液体のままということになります(理屈では分かっていても、乾燥した液体というのには違和感を感じるものです。)。五酸化リンは乾燥剤しては優秀な(残る水分の量が少ない)のですが、水を吸うとベトベトになってしまうので、あらかじめ塩化カルシウムなど乾燥させてから使います。

206.ナウル共和国

 骨はリン酸カルシウムを主成分とするので、小魚を食べるカモメなど海鳥の糞にはリン酸カルシウムが多く含まれています。南太平洋のナウル共和国では、この鳥の糞が長い年月の間に変化してリン鉱石となったものを輸出しているそうです。そして、このリン鉱石にケイ砂、コークスと混ぜて電気炉で加熱すると、

     2Ca(PO) + 6SiO → 6CaSiO + PO10

         PO10 + 10C → 4P + 10CO   となってリンが得られます。教科書には、リンの同素体として、赤リンと黄リンしか出ていませんが、そのほかに黒リンというのもあり、これは半導体の一種で電気をとおす性質があります。

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化学むだばなし0110

207.二酸化炭素

 最近、二酸化炭素の増加による地球の温暖化が問題になっているのを知っていますか。人類の活動によって二酸化炭素の濃度が上昇し、地球の気温が上がることで、南極の氷が溶けて……。ということですが、なぜ二酸化炭素が増えると温度が上昇するのでしょう。例えば、二酸化窒素の気体が赤褐色に見えるというのは、可視光線(赤から紫までの目で見ることのできる光)のうち青系統の色の光が窒素と酸素の共有結合に吸収されるので、残りの赤系統の色が目に入るからです。逆に、酸素も二酸化炭素も可視光線に対しては透明であるということは、分子の中の共有結合が可視光線を吸収しないということです。ところが、二酸化炭素の分子には、可視光線は吸収しないけれども、赤外線(熱線)を吸収する性質があります。そのため、太陽によって暖められた地球の表面から放出された赤外線がそのまま無限の宇宙空間に逃げてしまうのではなく、空気中の二酸化炭素に吸収され、そのエネルギーで二酸化炭素の温度が上昇します。そして、そこから放出された赤外線が地表に戻ってきて、地表の温度を挙げるという働きをするのです。簡単な実験で確かめるなら、風呂桶に少し水をはって、ドライアイスを入れ、風呂桶一杯に二酸化炭素をためます(二酸化炭素は空気より重いのでよく溜まる。白い煙を目安にすればよい)。そして、その中に袖をまくって腕を入れると、暖かく感じます。これは、腕から出た赤外線が二酸化炭素に一度吸収され、再び腕に戻ってくるからです。地球もこの腕と同じように暖かくなるという訳です。では、酸素はどんな光を吸収するのでしょう。

208.二酸化炭素の増加

 二酸化炭素の増加を抑えるには、石油や石炭を使わなければいいのはよく分かっているのですが、現在の生活の中で自動車やストーブをはじめとしてエネルギー源としてなくてはならないものです、原始時代の生活に戻るといった極端なことではなく、実現可能な方法としては空気中の二酸化炭素を海の深いところに溶かしてしまうということが考えられています。実際、空気中の二酸化炭素の量よりも、海に溶けている二酸化炭素の量の方がはるかに多いので地球に対する影響も少ないと考えられます。

209.炭素繊維

 ラケットなどに利用されている炭素繊維は、どのようにして作られるのでしょう。まず、アクリル樹脂を原料として繊維を作ります。これは、化繊の毛糸の繊維とほぼ同じものです。これを空気中で200℃から300℃で十分に熱処理することで高温にしても溶けなくなります。次に1200℃以上に熱して、炭素以外の原子を追い出し、炭素によるグラファイトの構造を形成します。このようにすると、グラファイトの網面は繊維の縦軸方向を向いているので、大きな引っ張り強度と弾性を持つようになり炭素繊維ができあがります。この炭素繊維をエポキシ樹脂で固めたものは鋼鉄の5倍以上の強さを持ち、飛行機にも利用されています。

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化学むだばなし0115

210.太陽電池

 昔は、太陽電池(光電池)というと人工衛星用の電源で大変高価なものというイメージがありましたが、現在では電卓などにも利用され安価な電源の一つになってきています。以前はシリコン(ケイ素)の単結晶で作っていたのですが、最近では非晶質(アモルファス)を使うようになったからです。太陽電池の原理はボルタ電池などの化学電池とは異なり、光のエネルギーによって共有結合に使われている電子が自由電子になることで電気が起こります。この共有結合を切るのに必要なエネルギーというのは、物質によって決まっていて非晶質のケイ素の場合は赤い色の光に対応します。つまり、赤外線のようなそれよりエネルギーの少ない光では電気は起きないし、その他の可視光線や紫外線のようなエネルギーの大きい光では余分のエネルギーは熱になってしまいます。その結果、太陽の光のエネルギーの30%くらいしか利用できません。最後に、太陽電池は二酸化炭素を出しませんが、「環境にやさしい?」かどうかは疑問です。理由は、太陽電池を作るのに太陽電池から取り出せる五倍くらいのエネルギーが必要であり、それを石油でまかなうとかえって二酸化炭素が増加することになります。また、黒い色をした太陽電池を敷き詰めれば、それだけ太陽のエネルギーを吸収することになり、地球の温暖化は進むことになります。

211.クォーツ

 最近はほとんどがクォーツ(quarz、水晶)の時計ですが、なぜ、二酸化ケイ素の結晶である水晶で時計になるのでしょうか。水晶の結晶の中にはケイ素と酸素の原子があり、結晶の両端に電圧をかけると電気陰性度が大きく負に帯電した酸素の原子は+極の方に少し偏り、正に帯電したケイ素の原子は−極の方に偏ります。その結果、水晶の結晶は少し曲がることになります。電圧の向きを反対にすると反対に曲がります。鉄琴や木琴の音の高さがいたの長さで決まるように、その振動数は板の形によって決まります。水晶を薄い板の形にして両側に極板を付けたものが水晶発振子といわれるもので、その水晶の振動する周期に合わせて電圧の向きを変えると電流がよく流れます。1秒間に100万回振動する水晶発振子を電気回路に組み込むと、電気の向きも同じように変化するので、その回数をカウントして100万回になったところで1秒ぶんだけ時計の針を進めればよいのです。さて、クォーツの時計がほとんど狂わないのはなぜでしょう。

212.水ガラス

 ケイ酸ナトリウムの水溶液(水ガラス)はどろっとした液で、硫酸銅やニクロム酸カリウムのようなきれいな色の結晶を水ガラスの中にいれると、ケイ酸イオンはいろいろな金属と反応して水に溶けにくい物質になるので、その結晶からまるで木が生えたようにケイ酸化合物が成長して大変きれいなものになります。昔の人は、これを「ケミカルガーデン」と呼びました。では、水ガラスに塩酸を加えると白い固まりがドサッと出てきます。これは何でしょう。

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化学むだばなし0116

213.セラミックス

 セラミックス(ceramics)というのは、ギリシャ語で粘土をあらわすkeramos からできた語です。従来の焼き物(土器、陶器、磁器など)つまりセラミックスは、全て粘土の成分であるケイ酸の化合物からできていましたが、ファインセラミックスと呼ばれるものは、ケイ酸以外の材料を使うことで従来の焼き物の概念を越えるすばらしい性質を実現しています。ここでは、その一部を紹介しましょう。基本的な考え方としては、硬いが形が作りにくい石器と形は作りやすいが壊れやすい土器のいいところをとった硬くて形が作りやすいものがファインセラミックスといえます。そして、現在ではさらに熱的、電気的、生物的に優れた性質を与える研究がなされています。

214.ファインセラミックス

 ファインセラミックスの持つ耐熱性を利用したものを紹介しましょう。金属を材料とした場合には、特殊な合金を使っても1000℃あたりが一つの限界になっています。それ以上の温度では金属が軟らかくなったり、酸化されたりして使いものにならないのです。ところがセラミックスは最初から酸化物なのでこれ以上酸化されることがないわけです。スペースシャトルも本体は金属でできていますが、大気圏に再突入するときに高温になる部分にはセラミックスのタイルが貼られています(軽くするためにスポンジ状になっている)。また、セラミックエンジンの研究も進められています。エンジンというのは、原理的に高温で反応させるほど能率が良くなることが分かっているのですが、金属を使ったエンジンでは高温になるとエンジンが焼き付いてしまうので、水で冷却しています。このことは、ガソリンの燃焼で出たエネルギーを無駄にしていることになります。セラミックエンジンでは、冷却する必要がないので効率のアップと小型化が可能です。材質としては強度も高くて運転中に割れないような酸化アルミニウムや窒化ケイ素などを使ったのが研究されています。

215.セラミックスの特性

 ファインセラミックスの持つ電気的特性を利用したものを紹介しましょう。ラジカセなどを分解するといろいろな電子部品がはいっています。その中に茶色い色をした円形のものがあれば、それはセラミックコンデンサです。電圧がかかると内部の原子の位置が少し変わるので同じ電圧でもたくさんの電気をためることができるのです。また、セラミックスは絶縁体としても優れているので高い電圧に耐えることもできるようになりました。ICなどもそれ自身はシリコンでできていますが、その台(基盤)やパッケージには絶縁性と放熱性が要求されます。セラミックスは、共有結合でできているので金属よりも熱伝導性がよいのです。もしパソコンがあれば、中のCPUのパッケージがセラミックなのをたしかめてみてください。ガス漏れのセンサーなどもセラミックでできていて、ガスの分子が吸着されると電気抵抗が減ることを利用しています。

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化学むだばなし0117

216.陶器と磁器

 陶磁器とというのは、陶土という良質な粘土を焼いたものです。では、粘土を乾かして固めたものは水で再び元の粘土に戻るのに、陶磁器は水で元の粘土に戻らないのでしょうか。これは高温で焼いたときに粘土の粒子の表面がわずかに溶けて、粒子どうしが溶着するからです。比較的低い温度で焼いたものを土器といいます。身近なところでは素焼きの植木鉢がこれにあたります。これに釉薬を掛けたものが陶器です。食器で「瀬戸物」と呼ばれるものは、瀬戸で作られた陶器という意味で、「清水焼」も陶器の一つになります。磁器というのは、もっと高温で焼いたもので、粒子と粒子がしっかりととけてくっ付いているので隙間がない分だけ音の伝わる速さが大きくなり、叩くと金属的な音がします。また、透光性も少しあるので陶器と区別することができます。

217.釉薬の美しさ

 陶器の楽しみの一つに、釉薬の美しさがあります。釉薬というのは金属の化合物を主体としていて、焼いたときの窯の状態で微妙に色合いが変わるので興味が尽きません。代表的な釉薬を紹介しましょう。まず、唐三彩は、8世紀頃の中国(唐の時代)に栄えたものです。白地に緑と黄色みのある茶色の三色で独特の落ちついた雰囲気を持っていて、緑色は銅の化合物、茶色は鉄の化合物によるものです。日本では織部釉というもっと鮮やかな緑の釉薬があり、この釉薬には銅の化合物の他に石灰が含まれています。茶碗などをみると青い(藍色)の釉薬もよく使われています。これはコバルトの化合物を使っています。条件で色が変わるものとしては、鉄が挙げられます。鉄を含む釉薬には、唐三彩のように茶色の系統もあれば、青磁のように青野系統、天目のように黒の系統があります。

218.セメント

 古代エジプトでは、ピラミッドの石材の接合に石灰、焼き石こうなどの天然素材に砂や泥を混ぜたものが使われていました。これは古代のセメント(cement,接合剤という意味)ということができます。現在のセメントはイギリスのジョセフ・アスプジンによって発明され、ポルトランド島でとれるポルトランドストーンに似ていたことからポルトランドセメントと呼ばれています。セメントは石灰岩や粘土を混ぜて焼いたもので、酸化カルシウムや二酸化ケイ素が主成分となっています。セメントが固まるのは、セメントの成分が水和水を吸収してできた水和物の結晶が互いに三次元的にかみ合って一体化した構造になるからです。セメントに水を混ぜると数時間で固まりますが、この時点ではまだ一部分しか水和は進んでいません。十分に水和が進んでセメント本来の強度に達するには数日がかかります。このときにセメントが乾いて水が不足すると未反応の部分残ってセメントの強度が上がりません。そこで、水を撒いたり、ブルーシートを掛けて水分が蒸発しないようにしたりするのです。このようにすることを「養生」というので、ブルーシートのことを養生シートともいいます。         

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化学むだばなし0128

219.ナトリウム

 ナトリウムは水と反応するので石油中に保存します。しかし、石油中で保存していても、古くなったものは表面が白くなって水酸化ナトリウムで覆われています。これは空気中の水分が石油に溶けて、それがナトリウムと反応したからです。常識では水と石油は混ざらないことになっていますが、ほんの少しは混ざるのです。ナトリウムは水と敏感に反応するのでそのわずかの水も見逃さないのです。このことを逆に利用して石油やエーテルのような有機溶媒の乾燥剤としてナトリウムが使われます。注意することとしては、水分によって水素が発生するので密栓をしてはいけないことや、クロロホルムのようなハロゲンを含む物質とは爆発性の物質を生成するので使用しないことがあります。では、アルコールのような水素イオンを出す物質の乾燥にナトリウムが利用できないのはなぜでしょう。

220.Nak

 ナトリウムとカリウムを混ぜるとどうなるでしょう。エーテルのような有機溶媒の中で、ナトリウムの固まりとカリウムの固まりをガラス棒でぐいぐいと押しつけて擦れ合わせると、擦れ合ったところからきれいな銀色の液体が涙のようにぽろぽろと出てきます。これがナトリウムとカリウムの合金です。見た目は水銀のようですが、水銀と違って密度が小さいので水に浮き、反応性も大変大きいので扱いには注意が必要です。この合金(NaK)をスポイドでエーテルと共に少し採り、水に落とすとどうなるでしょう。当然、水と激しく反応して発火しそれがエーテルに引火するのでなかなかの迫力があります。このときの炎の色はナトリウムの炎色反応で橙色に見えます。カリウムの炎色反応の赤紫色は大変弱いのでナトリウムの色に隠されて見えません。ここで質問です。なぜこの合金は液体になるのでしょうか。

221.液体アンモニア

 アンモニアの沸点は−33℃名のでドライアイスで簡単に液体のアンモニアを手に入れることができます。この液体のアンモニアにナトリウムを溶かすときれいな青い色になり、電気を通すようになります。研究によるとナトリウム原子が電子を出し、その電子が自由電子となっているようです。そして、ナトリウムの濃度を上げていくとこの溶液は銅色の金属光沢を液体となるそうです。この溶液ではアンモニアの分子はどのような働きをしているのでしょうか。

222.過酸化ナトリウム

 ナトリウムが酸化したら酸化ナトリウム(NaO)と思っているかも知れませんが、実際に反応させるとそう教科書通りにうまくはいきません。この反応は発熱反応なので反応が進めば温度が上がります。温度が上がってくると白い酸化ナトリウムではなくて、黄色い過酸化ナトリウム(NaO)が生成してきます。こういうことはバリウムなどでも起こるので、教科書の反応しか起こらないと考えるのは早計です。さて、過酸化ナトリウムが水と反応するとどうなるでしょう。

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化学むだばなし0129

223.系統図

 ある物質の化学反応を調べるときに役に立つ方法に系統図というのがあります。ある物質からできる化合物がいろいろと絡み合って反応するとき、それらを単に反応式で書くだけでは全体の様子がわかりません。こういうときには、自分で系統図を書いて見るのが一番です。教科書では、190ページにアンモニアソーダ法の系統図ともとの5つの反応式が書いてあります。反応式だけではよくわからない全体の中での各物質の関係も系統図にするとよく分かります。一度、カルシウムについて知っている反応を系統図にまとめてみましょう。

224.サンゴは示性化石

 サンゴは示性化石のひとつで、サンゴ礁の存在はサンゴが活動していたときその場所が暖かい海であったことを示します。では、冷たい海ではサンゴは活動できないのでしょうか。この答えが CaCO3 + HO + CO2 → Ca(HCO) という反応式です。この反応は温度が低くなると右向きに進み、温度が高くなると左向きに進みます。サンゴは海水中に溶けている炭酸水素カルシウム、Ca(HCO)を体内に取り込み、水に溶けない炭酸カルシウム、CaCOに変えて自分の骨格としているのです。この反応がおこる温度が20℃あたりより上の温度なので、冷たい海ではサンゴは自分の骨格を作ることができないので、サンゴ礁はその場所がかつてサンゴがこの反応のできる温度であった。つまり、暖かい海であったということを示すことになります。鍾乳洞の鍾乳石ができるのもこの反応が基本になっています。建物のコンクリートも石灰分を多く含むので石灰岩と同じように雨水で浸食されます。校舎を調べて鍾乳石の様なものができていないか調べてみましょう。

225.カルシウム

 カルシウムといえばまず思い浮かぶのは骨や歯で、人間についていえば、体の中にあるカルシウムの99%は骨と歯に含まれています。では、残りの1%はどんな状態で、体のどこにあるのでしょうか。1%に当たるカルシウムの大半は血液中、すなわち細胞の外にあります。そして、血液中のカルシウム濃度は,ほぼ3mM(mmol/l)に保たれています。食事によって補給されるカルシウムが不足し、血液中のカルシウムイオンの濃度が低くなると、骨のカルシウムを溶かして補うことになります。筋肉の収縮を例にとって、血液中に溶けているカルシウムイオンの役割を説明しましょう。筋肉細胞の中のカルシウム濃度は0.1μM以下なのですが、神経やホルモンの指令をうけると、細胞膜の透過性が変化して外部のカルシウムが流れ込み約10μMに上昇します。そうすると、増加したカルシウムがカルモデュリンというカルシウム結合蛋白質に結合し、筋肉の収縮に関わる酵素が活性化されて筋肉が収縮するのです。つまり、筋肉が神経の指令で収縮するは、神経の指令によって細胞内に送り込まれたカルシウムイオンの働きによるもです。このように、心臓や脳の働きをはじめ重要な生理機能を維持するためには、血液中のカルシウムイオンの濃度を一定にしておくことが不可欠になります。

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化学むだばなし0131

226.マグネシウム

 マグネシウムは、マグネサイト、MgCOや「にがり」から純粋な塩化マグネシウムを作り、それを融解電解して取り出しますが、融点を下げるために塩化ナトリウムを加えます(こういうのが実験のノウハウというものです)。マグネシウムは反応性の高い金属なので、空気中で強熱すると明るい光を出して燃焼し、白い酸化マグネシウムが生成します。このとき酸素が不足すると普通は反応しない窒素とも反応して黄色い窒化マクネシウム、MgNも生成します。この化合物は水酸化マグネシウムという塩基とアンモニアという弱い弱い酸との中和による炎と考えることができるので、水というアンモニアより強い酸を加えることによってアンモニアが遊離してくるのでその生成が確認できます。そして、マグネシウムは酸素分子がなくても燃焼?できるのです。いったん燃焼の始まったマグネシウムは二酸化炭素の気体の中でも燃焼が続きます。さらにマグネシウムの粉をドライアイスの間に挟んで火をつけてもドライアイスと反応してぼーっと光りながら反応します。さあ、このときの反応を反応式で書くとどうなるでしょう。

227.アルマイト

 アルミニウムはイオン化傾向の大きい金属ですが、表面に酸化アルミニウムの皮膜を作ってアルマイトにすると耐食性が増加します。それだけでなく表面を染色することができるので着色して商品価値を高めることもできます。では、どのようにしてアルマイトにするのでしょうか。よくおこなわれているのは、シュウ酸の水溶液や希硫酸につけて電気分解をする方法です。電気分解では陽極で酸化がおこります。この酸化によってアルミニウムの表面が酸化されて酸化アルミニウムが生成するのでアルマイトになるのです。いつもの電気分解と違うところは直流でなく交流を使うことです。直流では陽極になった方の極板しかアルマイトになりませんが、交流では電気の向きが変わるので両方の極板がアルマイトになるのです。できた酸化アルミニウムには、微少な孔がたくさんあいているので、そこに染料や色素を吸着させることで染色することができます。染色した後で沸騰水に数分間浸けておくと穴がふさがり(これを封孔処理という)ます。このようにアルマイトにしたものは酸化アルミニウムで不動態になっているので塩酸に浸けてもほとんど反応しません。

228.塩化アルミニウム

 塩化アルミニウム、AlClは、少し黄色みを帯びた白い固まりです。この物質はアルミニウムイオン、Al3+と塩化物イオン、Clのイオン結合による物質だと思うかも知れませんが、共有結合性も強くて分子を形成し、180℃でAlClとなって昇華します。また、この物質は有名な電子欠損化合物でアルミニウムのまわりには、アルミニウム自身の電子が3個と、塩素からの電子が3個で合計6個の電子しかありません。そこで残りの2個分のところにいろいろな原子が結合するのでフリデル−クラフツ反応の触媒などに利用されます。

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化学むだばなし0201

229.テルミット

 アルミニウムの燃焼の熱化学方程式は、4Al + 3O = 2AlO + 1675kJ でその発熱量は金属中でも最も大きいものの一つです。この燃焼熱を使ったものが酸化鉄、FeOとアルミニウムを混ぜたテルミットで、点火すると2500℃の高温を発生するので、融点が1400℃程度の鉄は簡単に溶けてしまいます。反応熱が大きいということは、アルミニウムと酸素との結合エネルギーが大きいということであり、テルミットでは酸化鉄のように他の物質から酸素を取ることもできます。この性質を利用して炭素では還元しにくいCr、Mn、Co、Vなどの冶金に用いられます。また、酸化アルミニウムは、アルミナとよばれ耐火性が強く硬度が高いので、耐火器具や坩堝、乳鉢や研磨剤(金剛砂)として用います。天然に産するもので、微量の酸化クロム、CrOを含むものは紅玉(ルビー)とよばれ、酸化チタン、TiOを含むものは青玉(サファイア)と呼ばれています。

230.亜鉛

 亜鉛の主要な鉱石には閃亜鉛鉱(Zincblend、ZnS)があります。亜鉛を精錬するには、この硫化物を焼いて(焙焼)酸化物に変えてから炭素と加熱します。すると亜鉛は還元されて蒸気となって出てきます。これは亜鉛の融点や沸点が低く、蒸気圧が高いためです。この蒸気を冷却するとブルーパウダーとよばれる亜鉛末が得られます。金属の亜鉛は、室温ではもろくて扱いにくいのですが、100℃〜115℃では延性・展性が著しく増大するのでいろいろな加工ができます。そして、この温度より高くなると再びもろくなります。さて、加工しやすくなったりもろくなったりするのは何が原因なのでしょうか。

231.亜鉛で金メッキ

 亜鉛を使った実験を一つ紹介しましょう。まず銅のコインを用意して、蒸発皿にこのコインと亜鉛の粉末と、水酸化ナトリウムの水溶液を入れます。溶液が沸騰するくらいまで加熱して数分間待つと、銅のコインの表面に亜鉛が析出してコインの色は銅色から銀色に変わっています。次に、このコインをガスバーナーの炎の中で数秒間、加熱するとコインの色は金色に変わりゴールドコインのできあがりというわけです。さて、なぜ銅の表面に亜鉛が析出するのかを考えて見ましょう。亜鉛は両性元素なので酸とも塩基とも反応するので水酸化ナトリウムと反応して水素を発生し、亜鉛酸イオン(ZnO2−)になります。銅はこの亜鉛酸イオンよりイオン化傾向が小さいのでそのままでは亜鉛酸イオンを還元できません。しかし、この反応では亜鉛の酸化数は0から+2になり二個の電子が亜鉛から出ています。この電子が亜鉛と接触している銅に流れ、銅の表面で亜鉛酸イオンがこの電子をもらってもとの亜鉛に還元されるのです。つまり銅は電気分解の陰極となって反応の場所を貸し、陰極で亜鉛が析出したということです。この変化は電池と電気分解の反応が同時に起こったとものと考えられます。では、金色になったのはどんな変化が起こったからでしょうか。

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化学むだばなし0203

232.遷移金属の色

 遷移金属にはいくつかの酸化状態があり、それぞれの酸化数に対応した電子状態になっているので、その違いが色の違いとなって現れます。マンガンを例にとって説明しましょう。マンガンの最高酸化数は、+7です。この状態の物質としては過マンガン酸カリウムがあり、これは過マンガン酸イオン、MnO4−のとても濃い赤紫色をしています。この溶液に亜硫酸水素ナトリウム、NaHSOの粉を少しずつ入れていくと、酸化数が+4の硫黄の原子によってマンガンが+6の酸化数に還元され、緑色のマンガン酸イオン、MnO2−が生成します。つぎにこの溶液にエタノールを少し加えて加熱すると、溶液は褐色の濁った溶液になります。これはエタノール、CHCHOHがホルムアルデヒド、CHCHOに酸化されたときに、酸化数が+4の二酸化マンガン、MnOができたためです。そして、エデト酸を配位子として加え、酢酸で酸性にするとマンガンの酸化数は+3になりピンク色になります。さらに、希硫酸で強酸性にすると酸化数は+2になりほとんど無色の溶液になります。

233.塩化コバルトと磁石

 鉄の釘が磁石にくっ付くのは小学校で実験したと思います。しかし、磁石に付くのは金属だけでなくこれらの金属のイオンも磁性を持っているのです。例えば、桃色の塩化コバルトの溶液をシャーレに入れて下に強力な磁石を置きます。すると磁石のところにコバルトイオン、Co2+が集まってくるのでその部分の桃色が濃くなり溶液の表面も盛り上がってきます。この現象は、Fe3+だけでなくCr3+やCu2+でも観察することができますが、Mg2+Zn2+では観察できません。では、どんな条件を満たせばイオンが磁性を持つのでしょうか。あなたの考えではNi2+は磁性を持っているでしょうか。

234.銅の反応

 遷移元素は典型元素と違って有色の化合物が多いので、実験をしていてもなかなかおもしろいものです。つぎの銅の一連の反応は先生の好きな反応系の一つで、実験の実演をするときによく使うネタです。まず、銅板を濃硝酸に入れます。すぐに赤褐色の気体が発生し、溶液はメロン色から濃い緑へと変わっていきます。銅板が全部溶けたら、溶液と同量の水を加えます。溶液の色は薄い水色になりよく見る銅イオンの色に変わります。次に水酸化ナトリウムを加えると青い色のどろっとした沈殿が生成します。沈殿が新たにできなくなるまで水酸化ナトリウムを加えてからバーナーで加熱すると沸騰する手前くらいから色が変わり始め、黒色の沈殿に変わります。この沈殿は火から下ろしてしばらく試験管立てに立て、冷えた頃にはきれいに分離し上澄みは透明になっています。ここに希硫酸を加えると黒色の沈殿は溶け、もとの青い液にもどります。最後にアンモニア水を加えると再び青い沈殿ができ、さらに加えると深青色の溶液になります。さあ、どれだけの反応が分かりましたか。反応理論としても重要なものが多いので、反応式を書いて考えてみましょう。

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化学むだばなし0204

235.エデト酸

 錯イオンの配位子としてはアンモニアやシアン化物イオンのような非共有電子対を持ったものがあります。これらの配位子は中心の金属と一つの配位結合しかしませんが分子によってはいくつもの非共有電子対を持っていて、中心の金属と一度に複数の結合を生成するものがあります。グリシンやエチレンジアミンが銅イオンに付いたもの図のようになります。昔の人はこの形をカニがはさみでつかんでいるとみて、カニのハサミを意味するギリシャ語のキレート(chelate)と名付けました。そして、このように一つの配位子が金属と2カ所以上で結合してできた錯化合物をキレートといいます。エチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)と呼ばれるものは6配位の能力があり、遷移元素のイオンだけでなく典型元素のイオンに対しても周りから包み込むような形で結合し、キレートを形成してイオンのはたらきを押さえ込んでしまいます。シャンプーの中など洗剤はイオンが多いと石鹸の分子がイオンと結合して泡が立たなくなるのでエデト酸という名前でこのEDTAが配合されています。

236.キレート

 キレートは滴定などでイオンの検出・分析に利用されます。水溶液中の微量のCa2+を調べる場合、古典的に二酸化炭素による炭酸カルシウムの沈殿では、沈殿が生成しないので測定できません。しかし、まずCa2+とEBT試薬との赤色のキレートを作り、つぎに少しずつEDTAを加えて、より安定なEDTAとのキレートに変化させ、その色の変化からCa2+を定量するキレート滴定という方法があります。また、変わったものとしては、ニッケルとジメチルグリオキシムのキレートを利用するものがあります。このキレートはごく少量のニッケルのイオンとも反応して赤色のキレート化合物を生成するので、このキレートに強い光を断続的に当てると光が当たったときに光を吸収して温度が上がり、その場所の空気が膨張して「音」がでるので、それをマイクで検出するというもの(光音響分析法)です。この方法で10−9mol/lくらいまでのNi2+が検出できるようです。

237.ポルフィリン

 動物の血液の中のヘモグロビンも植物の葉緑体の中のクロロフィルもともにポルフィリンという化合物と金属とのキレートでできています。(裏面参照)これらはともに生体内での酸化還元反応に関わっていますが、鉄とマグネシウムの違いが動物と植物を進化の過程で分けたと思うと自然の不思議を感じてしまいます。

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化学むだばなし0205

238.青写真

 コピー機が発達していなかった時代には、図面などのコピーに「青写真」というものがありました。現在でも計画を作ることを青写真を作るというのは、このことから来ています。子供のおもちゃにも、この原理を利用した日光写真というのがありました。日光写真の「感光紙」はうすい黄色をしていますが、光に反応するので使わないときは黒い袋に入れておきます。使うときは硫酸紙のような光を透す紙に絵や字を書いて、この紙の上に置きガラス板などで密着させます。こうしたものを2、3分間日光にあてると、光が当たったところだけが青くなり、絵や字で光があたらなかったところは白いままになります。このままでは、白いところも光に当たって青くなってしまうので、水で洗って薬品を流してしまうことが必要です。原理は、Fe3+が還元剤であるシュウ酸イオンと光によって反応しFe2+に還元され、このFe2+がK[Fe(CN)]と反応して紺青とよばれる水に不溶の濃青色沈殿を生成するためです。

239.熱処理

 鉄が金属材料として優れている理由の一つに熱処理ができることがあります。 金属の性質を改善するには他の金属を混ぜて合金にする方法もありますが、再処理のことを考えると熱処理の方が優れています。鉄は鉄鉱石を溶鉱炉の中でコークスで還元してつくられますが、炭素の含有量によって硬度が異なります。純粋なものは軟らかく延展性に富みますが、熱処理にはむきません。熱処理が有効な利は、炭素を0.04〜1.7%含む鉄(鋼)で、高温からの焼き入れによって著しく硬度を増します。なお炭素を0.89%含有する炭素鋼を磨くと真珠のように輝き、通常これをpearliteと呼んでいます。「焼き鈍し」とは常温加工により硬化した材質を軟化させる目的で加熱したあとに徐々に冷却することで、「焼き入れ」とは約900℃以上に加熱し急冷して硬化することです。「焼き戻し」とは、焼き入れしたままの炭素鋼は硬く・もろいので約730℃以下の温度で加熱して脆性を減じることをいいます。さて、和釘では錆止めとして、赤熱してから、霧吹きで水を掛けて黒くする「焼き止め」という技法がありました。この状態では希硫酸ともほとんど反応しません。どんな原理を利用していたのでしょうか。

240.鉄骨飲料

 「鉄骨飲料」というのがあります。この中の鉄分はどんなかたちで入っているのでしょうか。教科書の実験であれば水酸化ナトリウムや[Fe(CN)]4−を加えて沈殿の様子を調べるのですが、実際にはほとんど反応しません。原因はもともとの鉄の濃度が低いことや、清涼飲料であるために果汁や着色料などが含まれていて変化をわかりにくいものとしているからです。実際には、清涼感を出すためのクエン酸とFe2+が結合して(多分、錯イオンをつくっている)、沈殿しにくく体内に吸収しやすい形になっているようです。このように、食品の中の物質をそのままの形で定量することは、大変に難しいものです。

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化学むだばなし0209

241.たたら製鉄

 人類が最初に利用した鉄は、隕石の一種の「隕鉄」であったといわれています。これは加工すればただちに利用することができますが、当然のこととして隕鉄の産出や分布は偶然であり一般的に利用されるには至りません。そのかわり少量ずつながらどこにもみられるのが「砂鉄」、つまり火成岩が風化した際に砂粒として濃集した酸化鉄です。砂鉄から金属鉄への精練方法は、ほかの金属の場合に比較して割合に楽なので、日本では7世紀をすぎたころから「たたら製鉄」とよばれる簡単な製鉄法が中国地方で行われていたようで、土製の炉を使用し、1100℃ほどの低い温度で木材で砂鉄を還元したものです。名前の由来はその際用いられた炉またはふいごを「たたら」といったことによります。しかし、この方法は莫大な木材が薪として必要であり、また鉄の回収率も低いものでした。最近の製鉄炉は、原理的にはたたら製鉄と同じですが、コークスや電気を利用して1400℃以上の高温を常時保ち続けて鉄の回収率を高くしています。

242.堆積性鉄鉱床

 鉄鉱床として現在最も重要なものは「堆積性鉄鉱床」で、ケイ質部分と鉄鉱物の多い部分の縞模様がみられ、「縞状鉄鉱床」とよばれています。ヨーロッパ・北アメリカ・インド・オーストラリアなどにみられ,長くのびた盆地状の、あまり深くない海底に生じた鉱床で、世界の鉄産額の90%を占めていますが、日本には存在しません。この鉱床が生じたのは、25―30憶年前の地球がまだ若かったころのことです。そのころは大気や海水中に遊離した酸索は存在せず、塩酸などの酸を含んでいたために、地球表面の岩石(おもに玄武岩)からは,鉄・マグネシウムを始めとする多種類の金属元素が溶け出したと考えられます。そして問題の鉄のかなりの量が可溶性の2価の鉄として海水中にとどまっていました。25億年前を過ぎたころからラン藻など古い植物の呼吸作用によって酸素が蓄積され、海水中に溶解していた鉄がこの酸素で酸化され不溶性の3価の鉄となって沈殿したのが、この堆積性鉄鉱床なのです。

243.黒鉱

 一般に鉱物は純水中ではほとんど溶解しません。しかし、塩素や硫黄の水溶液中での鉱物の溶解度は純水中に比較して非常に高くなります。それは鉱物を構成する元素が安定な錯イオンを作るからです。したがって塩素などを含む熱水が岩石の割れ目を通過するときに壁岩から多くの金属が溶けこんできたものができます。これが「鉱液」とよばれるもので、鉱液が上昇を続けて海底まで達してチムニーからふき出すと、鉱液は固体粒となり条件がよければ集まって堆積します。これが「黒鉱」です。日本付近では秋田・山形県など,いわゆるグリーンタフ地域にはこのタイプの鉱床が多く分布し銅・鉄・鉛・亜鉛の硫化物を産出します。この鉱床は,我が国でとくに深く研究され,Kurokoという名称はそのまま世界に通用するまでになっています。

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化学むだばなし0211

244.銅の毒性

 硫酸銅の溶液に卵白を溶かした液を混ぜると溶液の色が青色から赤紫色に変化します。この現象はビゥレット反応と呼ばれるものです。銅イオンがアンモニアと錯イオンをつくることはよく知られていますが、配位結合するための必要条件は非共有電子対を持っていることです。このような配位子としてはアンモニアのほかにも身近なものとして水分子があり、もっと複雑な分子としては蛋白質があります。蛋白質には窒素原子が含まれているので、アンモニアと同じように銅イオンに配位しますが、一つの蛋白質の分子の中にはいくつもの窒素原子があるのでこれらが銅イオンを取り囲むように配位結合します。ビゥレット反応はこの原理を利用したものです。蛋白質は生体内で非常に重要な働きをしており、ほんの少し分子の形が変わっただけでもその機能を失ってしまうことがあります。ビゥレット反応で示されるように銅イオンは蛋白質に結合するので生体に対して毒性を示すことになり、ボルドー液として農薬の一つとして利用されます。台所のゴミがたまる網に銅の網を使うとかびがつきにくいのも銅の毒性によるものです。

245.写真の現像

 はじめて自分で写真の現像をしたのは、高一の頃でした。星野写真といって普通のカメラで星座の写真を撮るのです。暗い星まで写すためにはどうすればよいでしょう。シャッターを長く開ければいいと思うかも知れませんが、太陽と同じように星も動いているので、星を点にして写すには30秒くらいが限度です。その次はフィルムの感度を上げることになります。当時、ふつうに手に入るフィルムで最も高感度のものはコダックのTri-Xで400(国産のフィルムではネオパンSSSで200)でしたが、もっと感度を上げるために増感現像をして感度を3200まで上げるのです。こうすることで10等星くらいまでは写すことができます。しかし、実際に現像するには現像液だけでなく、定着液や停止液、後の水洗いなどが必要であり、現像の時は現像する時間だけでなく、現像液の温度の管理も必要になめので、夏は氷で冷やし、冬はストーブで暖めるということをします。こういうのをめんどくさいと思うかも知れませんが、やってみればそれが楽しいのです。失敗を重ねて成功したときの喜びほど大きいものはないといえます。

246.機器分析

 化学の中に分析化学という分野があります。つまり、ある物質に何がどれだけ含まれているかを分析して調べる学問です。その方法として、以前は教科書に載っているような沈殿反応を利用した分析が中心でしたが、現在では電気や磁気を利用した物理的な原理を使った機器分析と呼ばれるものが主流となっています。例えば、X線を照射するとX線の向きが変わること(X線回折)から結晶の構造がわかり、物質からでてくるX線(蛍光X線)の波長からどんな原子が含まれているかがわかるのです。最近では生物的な影響(イムノアッセイなど)を利用して一兆分の一の微量な成分まで検出できる分析方法が開発されつつあります。

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化学むだばなし0214

247.organic compounds

 The Swedish chemist, Berzelius was the fiest to discribe substance derived from living organisms as organic compounds(1807). That they are composed of a selected few set organic compounds apart from inorganic ones. Organic compounds are also combustible, and many of them are sen- sitive to moderate heat or damaged by strong acid and bases. Since all organic compounds known at the beginning of 19th century had been isolated as products of the life process, Berzelius, and other leaders of the periods believed that organic compounds can arise only through operation of a vital force inherent in living cells. (化学英語演習より)

248.有機化合物

 有機化合物は、熱や酸・塩基に弱く無機化合物とは違った性質を持っています。そのため、神が作った生物によってしか作り得ないものであり、生命の宿ったものであると考えられ、とうてい人間の手によって人工的に合成できるものではないと考えられていました。しかし、ウェーラーは偶然にシアン酸アンモニウムを加熱するとつぎの反応式のように尿素が生成することを発見しました。この

         NHOCN → CO(NH)

      シアン酸アンモニウム   尿素

当時、尿素は動物の腎臓だけで作られるものと思われていたのでウェーラー自身もこの反応を信じることができず、師のBerzeliusに手紙を送って確認しています。その後、いろいろな有機化合物が調べられまた合成されて、現在、有機化合物はderived fromliving organismsではなくて、それらが全て炭素原子を含んでいることから炭素化合物,made from carbon atomとされています。

249.有機化学の勉強

 有機化合物の化学は、つまり有機化合物についてどんな物質があるのかを調べたり、反応性などの化学的な性質を調べたり、合成したりという広い意味での化学(有機化学)は、いままで学習してきた化学、物理化学や無機化学とはずいぶん違ったものであることに気づきます。実際に化学を専門とする人の中でも有機化学は得意とする人とそうでない人とにはっきりと分かれる分野です。理由は簡単で、一つの項目がわかっても一つのテーマがわかるわけではないということです。例えば、電気分解の理論を知るといろいろな電気分解の反応に適用できるけれども、酸・塩基のことはわからないという(こういうのがあたりまえ?)のではなくて、一つのことがいろいろな反応に関わり、一つの反応には多くの事項が関わっているのです。有機化学の勉強をはじめてしばらくは、どんなに勉強をしても何もわからないという時期が続きます。このときにやめてしまうとおしまいですが、続けていくとあるとき急に霧が晴れるようにわかるときがきっと来ます。このときの快感はなかなかのものです。

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化学むだばなし0216

250.IUPAC

 有機化学の勉強をはじめてすぐに感じる、というか圧倒されるのは、化合物の量です。炭素と水素の二種類の原子しかなくても、これでもかこれでもかと言わんばかりに出てきます。特に高等学校で出てくる有機化合物は昔から知られていたような基本的なものが多く、昔の人がべつべに思いつくままに(これは少し誇張です)つけた名前も随分あります。そのため名前に一貫性がなく覚えにくいものとなっています。現在では、有機化合物だけでも数百万種もあり、世界中で毎日、何千という新しい化合物が合成されています。もし、これらの化合物の名前を発見者や合成した人が好き勝手に付けたらどうなるでしょう。この混乱を避けるために現在では、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry,国際純正および応用化学連合)という国連の機関で命名法が決められ物質の名前の付け方が決められています。教科書の記述もIUPACの命名法に沿ったものとなっています。

251.それにしても多い

 それにしても化合物の数が多いのは、どういう理由でしょうか。塩素とナトリウムの化合物であれば、化合物は塩化ナトリウムただひとつしかなかったのに…。まず考えられるのは、炭素の原子価は4価であり4つの他の原子と結合できるということです。この考え方に基づけば、炭素と同じように4価の原子価を持つケイ素やゲルマニウムも炭素と同じように多くの化合物を持つはずです。ところがアルカンのような炭素の水素化合物CH2n+2ではnの値が無限大と言ってもよいほど大きいものまで知られているのに対して、SiではSiH14、GeではGeH20までしか知られていません。そしてこれらの化合物は大変不安定で、空気中では瞬時に発火してしまいます。もう一つの理由として考えられるのは、炭素原子が小さいと言うことです。そのために炭素原子巻の結合距離が短くなり、その分だけ安定な結合が形成できるということです。ケイ素やゲルマニウムのように周期表でしたの原子は原子が大きくなって原子間距離が大きくなり、結合が弱くなって切れやすくなるのです。また、炭素原子間では単結合だけでなく二重結合や三重結合ができることも化合物の数を増やす原因となっています。

252.有機化合物へのアプローチ

 有機化合物に対して、化学としてのアプローチの仕方にはいろいろあります。ある毒キノコの毒のについて調べることを例に取れば、ひとつはその毒キノコから毒の成分を取り出し、それがどんな分子構造を持っているのかを調べる方法、その構造の分子が毒の成分であることを合成して確かめる方法、そしてなぜ毒性を示すのかということを生化学や反応機構など化学反応から調べる方法、そして、量子力学や統計力学を使って物理化学的に毒の成分の分子の性質を調べる方法もあります。もし、あなたが有機化学を専攻するとしたら、どんな方法で有機化合物にアプローチしますか。

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化学むだばなし0219

253.同族体

 有機化合物では炭素どうしの結合が可能なので、つながっている炭素原子の数が異なっているだけでよく似た構造の分子というものがあります。これらは性質も似ているので「同族体」として扱われます。同族体として教科書に最初にでてくるのがアルカンです。アルカン'alkane'の命名法は他の物質の命名の基礎になるので重要なものです。カタカナで覚えると応用しにくいので、できれぱ英語で覚えるようにしたいものです。つまり、methane,ethane,propane,butane・・・というように。性質については、その同族体に共通な部分と炭素の数によって変化する部分に分けて理解する必要があります。例えば、アルカンの融点、沸点と炭素数との関係がグラフになったものが教科書に載っています。ここからあなたは何を読みとりますか。何度も言うようですが、有機化合物は種類が多いのでまともに一つ一つ覚えるよりも、いくつかの化合物を同族体のようにグループにしてその性質をまとめて勉強した方が能率的になります。

254.オクタン価

 ガソリンエンジンは圧縮してから点火するように設計されているので、圧縮している途中で自然発火(ノッキング)しては困ります。ガソリンの品質を表すオクタン価は、大変ノッキングしやすいオクタン、CH18のオクタン価を0とし、大変ノッキングしにくい2,2,4-trimethylpentane(イソオクタン)のオクタン価を100としてノッキングのしにくさを表したものです。ガソリンエンジンを設計する場合、圧縮比を高めると出力(馬力)を上げることができます。しかし、圧縮の過程で自然発火しやすくなるので、オクタン価の高いガソリンを使わなければならなくなります。オクタン価の高いガソリン(ハイオクガソリン)の使用を前提としたエンジンに普通のガソリンを使うとノッキングしてエンジン本来の性能を出すことができません。逆に普通のエンジンにハイオクガソリンを使ってもあまり効果は期待できません。第二次世界大戦で有名な爆撃機のB29のエンジンはオクタン価140のガソリンを前提としていたそうです。1970年頃までは、四エチル鉛などの有機鉛化合物を使用してオクタン価を上げることが行われていましたが、鉛公害の元となることや、排気ガス浄化用の触媒に対して触媒毒となることから最近では無鉛ガソリンが普通になっています。逆にディーゼルエンジンは十分に圧縮して軽油が自然発火するように設計されているので、どれくらい自然発火しやすいかを示すセタン価というのがあります。

255.テトラヘドラン

 昔からこんな分子があればと役に立つかどうかは別にして多くの化学者が関心を寄せてきた幾何学的に美しい化合物があります(裏面参照)。テトラヘドランは、結合角が60゜と歪みの大きな分子のために不安定な分子と予想されますが、1978年に水素を第3級ブチル基で置き換えたものが合成されています。最近では、サッカーボール型のフラーレン、C60が合成されて話題になっています。

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化学むだばなし0221

256.パイプライン

 油田から精油所へ原油を運ぶ方法の一つにパイプラインがあります。アラスカのパイプライン(Trans-Alaska-Pipeline) で説明すると、このパイプラインは北極海に面したPrudhue Bayから太平洋のValdezまでアラスカを南北に縦断しているものです。このパイプラインは建設に当たって環境保護団体からの反対があり、結果的に環境に配慮したものになっているのでその一端を紹介しましょう。まず、パイプラインのパイプは直径が2m近くもあるので地上にこれを設置すると動物の行動範囲を分断してしまうことになります。また、原油は粘度が高いので流れやすくするために加熱してポンプでパイプに送り込んでいます。この熱がパイプから基礎の部分へ伝わると地盤のツンドラの永久凍土を溶かすことにもなってしまいます。これらの問題を解決するために地上から2m余りのところにパイプが設置されています。ここからは化学の話ですが、パイプの外側を断熱材で覆っていても原油の中でもロウ,waxのように固まりやすい成分がパイプの内側にだんだん附いてきてパイプがつまってきます。さあ、どうすればよいでしょうか。

257.プラスチック

 プラスチック(plastics,n.)をリサイクルするためには、プラスチックの種類を分けて集めることが必要になってきます。その手助けとして図のようなSPIコードの表示されたプラスチック製品をよく見かけるようになってきました。身のまわりのプラスチック製品について調べてみれば、ジュースのPETボトルでなじみのあるポリエチレンテレフタレートをはじめとして何種類ものプラスチックが存在することに気づくでしょう。これらのプラスチックについて名前だけでなく性質の違いを知るには燃やしたときの煙、臭い、燃えやすさの違いを調べてみるのがよい方法です。例えば、PSは熱に弱く燃えると多量のすすを出すのに対して、PVCは比較的熱に強く燃やしても自己消火性があることがわかります。さて、プラスチック(plastic,a.)とはどういう意味でしょう。

258.ラニーニッケル

 教科書では、二重結合に臭素が付加する反応を例にあげて二重結合の付加反応を説明し、水素の付加を次の問に出していますが、水素は臭素のように簡単には付加しません。反応させるためには触媒が必要であり、工業的にはニッケルが安価なのでよく使われます。触媒作用はまずアルケンの分子と水素が金属の表面に吸着し(金属との不安定な結合をし)、つぎにアルケンに水素が結合するという具合になっているので、表面積が大きい方が有利になります。そのためにアルミニウムとニッケルの合金から水酸化ナトリウムでアルミニウムだけを溶かしだした表面積の大きいラニーニッケルと呼ばれるものが利用されます。

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化学むだばなし0301

259.植物ホルモン

 まだ街にガス燈があったころ、その近くの街路樹が早く落葉することが観察されていました。何が原因なのでしょう。1901年に何とこの原因がエチレンであるということが発見されました。そして、石油ストーブで暖房しているとレモンの色が良くなるのもエチレンのせいであるというのです。1934年にはリンゴの果実からエチレンを生成していることがわかり、植物とエチレンの関わりはさらに深いものとなりました。現在ではエチレンは植物ホルモンの一つと考えられ積極的に利用されています。例えば、リンゴと青いバナナをいっしょにビニール袋に入れておくとバナナが黄色くなります。これは、リンゴからのエチレンでバナナの葉緑素の分解が進んだ為です。このことを利用して青いバナナを輸入して国内でエチレンを使って成熟促進処理をして黄色いバナナにしています。エチレンの生理作用の原因は二重結合の電子が細胞内の金属原子と結合(錯イオン?)を作って酵素の活性を高めるためではないかといわれています。この話を読んで私もエチレンを吸って早く成熟しようと思ったあなた、早く成熟するということは早く老化するということを忘れずに。

260.ポリエチレン

 ポリエチレンと一言でいっても、その製造方法で二つに分けることができます。一つは低い温度、低い圧力(5〜10気圧、50〜80℃)で作った密度の高いポリエチレン(LDPE)で、硬く強いという長所をもつ反面、透明性に難点があり、ボトルにすると見栄えが悪くなります。もう一つは、高い温度、高い圧力(1000〜3000気圧、200〜275℃)で作った密度の低いポリエチレン(LDPE)で透明性がよいかわりに剛性が低く、引っ張り強度や衝撃抵抗が弱くなっています。身近なところでは、スーパーの袋がHDPEで、フタ等の軟らかいプラスチックがLDPEです。どちらにも一長一短があるので何とかしたいのですが、そのためには原因を探る必要があります。HDPEでは穏やかな条件で合成するのでエチレンの分子が順序よくきれいに並ぶので直鎖上の分子になり分子間力も強く結晶しやすくなります。LDPEでは激しい条件で合成するのでエチレンの分子はメチャメチャに反応しそこらじゅうから枝の出た分子になり、分子どうしがきっちりとならべないので結晶もせず、隙間も多く、力にも弱いということになっています。さて、あなたならどんなポリエチレンを開発しますか。

261.グリニャール試薬

 有機化学の系統図の中には、ほんとにたくさんの反応が載っていますが、よく見るとほんとに基本的な反応がないのに気づきませんか?それは炭素の数を変える反応です。例えば、エタンをプロパンにするには、どうすればよいのでしょうか。このようなことを可能にするのがグリニャール試薬と呼ばれる有機マグネシウム化合物です。この試薬を利用すると多くの有機化合物を自在に合成することが可能になります。(裏面参照)

グリニャール反応の例

 

  CH-CH → CH=CH + H    エタンを加熱して、脱水素

 

  CH=CH + HBr → CH-CHBr   二重結合にHBrを付加させる。

 

  CH-CHBr + Mg → CH-CHMgBr この臭化エチルマグネシウムが

                    グリニャール試薬

 

  CH-CHMgBr + CHI → CH-CH-CH + MgBrI

                 プロパンの生成

 

このほかにもアルコール、ケトン、カルボン酸を思いのままに(これはちょっと言い過ぎ)合成することができ、この業績でグリニャールは1912年にノーベル賞を貰っています。

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化学むだばなし0310

262.アルコキシド

 アルコール性−OHの水素は水よりも電離しにくいので水溶液では中性として扱われますが、水素イオンとして電離しないわけではないので金属ナトリウムと反応して水素ガスが発生し、アルコキシドが生成します。では、アルコキシドにBTBを加えると青くなり塩基性であることを示しますが、何故、塩基性になるのかわかりますか。アレニウスの定義によれば塩基とはOHを出すものなので、OHの出ないアルコキシドが塩基であるとは説明できません。そこで、登場するのがブレンステッドの定義です。ブレンステッドの定義では、塩基とは水素イオンを受け取ることのできる物質となります。アルコキシドは水素イオンをもらって元のアルコールに戻るので、この定義によれば塩基であり、水よりも水素イオンを出しにくいと言うことは、逆に言えば水が水素イオンを出した形の水酸化物イオンよりも水素イオンを受け取る力が強いと言えます。実は、中和を調べる指示薬も酸や塩基の一種で、水素イオンを出したり受け取ったりすると色の変化する物質が使われているのです。アルコキシドとBTBでは、BTBからアルコキシドに水素イオンが渡されているので、BTBは酸として作用したことになります。

263.脱水

 有機化学に入ってからすでにいろいろな反応がでてきましたが、身に付いていますか。英語の単語とは違って、反応を一つ一つ覚え得るのはあまり要領のよい方法とはいえません。一度は、反応をカードにでも書いて、机の上に列べて自分なりに考えてまとめてみるようなことが必要です。と急に言われてもどうしたらよいのかわからないかもしれないので、例えば、「脱水」というテーマで考えると、アルコールからアルケンが生成するような分子内の脱水もありますが、多くの場合は分子間の脱水となります。具体的には、1.アルコールからエーテルが生成するとき 2.カルボン酸から酸無水物が生成するとき 3.アルコールとカルボン酸からエステル結合が生成するとき 4.カルボン酸とアミンからアミド結合が生成するとき などがあります。これらでは脱水によって2つの分子がつながってより複雑な分子を作ることができるので、有機の反応の中でも特に重要なものとなっています。

264.DHAとEPA

 有機化合物もカルボン酸のあたりまで来ると生体に関連するものが増えてきます。カルボン酸で例をあげると、ヨーグルトの中の乳酸、ブドウの中の酒石酸、レモンの中のクエン酸、すいすい草のシュウ酸などがあります。一般に酢酸など低級のカルボン酸にはいやな臭いのものが多く、極めつけは酪酸だと思いますがどうでしょうか。高級のカルボン酸としてはDHA(cis-4,7,10,13,16,19-Docosahexaenoic acid)やEPA(cis-5,8,11,14,17-Eicosapentaenoic acid)などがあります。一度、これらの構造式を書いてみましょう。

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化学むだばなし0314

265.Sapoの丘

 古代ローマ時代のこと、Sapoの丘で羊を焼いて神に供える風習があり、そこで汚れを落とすことのできる不思議な土がとれたことから、Sapoが石鹸(soap)の語源であるという伝説があります。たぶん、したたり落ちた油と灰のアルカリとが反応して今でいう石鹸が自然にできていたのでしょう。日本でも奈良時代の頃からムクロジの果皮などを使って洗濯が行われていましたが、これはサポニンの泡立ちを利用したものです。19世紀になってソルベー法が開発されてそれまでは草木灰に頼っていたアルカリが容易に石鹸が作れるようになり、欧米の諸国は油脂を求めて盛んに捕鯨を行いました。その後、石鹸の欠点を改良する形で合成洗剤がつくられてきましたが、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)のように洗浄力は優れていても、生態系の中でうまく分解できないようなものもあったので、現在では、石油を原料とするのではなくα−スルホ脂肪酸メチルエステル塩のように植物油を原料として分解可能な物が開発されています。

266.ベンゼンの構造

 ベンゼンの構造が決まるまでには、ずいぶん時間がかかっています。分子式がC6H6であることはわかっても付加反応よりも置換反応をしやすいという構造がわからなかったからです。現在では、ベンゼンは正六角形の構造と考えられていますが、ケクレが六角形の構造を夢の中で思いついたという話は他人のアイディアを盗用したということを否定するためのものであったようです。ベンゼンのような二重結合が一つおきにあるのを共役二重結合といい、共鳴構造が存在して二重結合の電子が非局在化(電子は負の電荷を持っているので一カ所に集まること(局在化)はエネルギー的に不利になる)するので安定な構造と言えます。逆に、二重結合の一つが付加反応をして単結合に変わるとこの安定な構造が壊れるので付加反応をしにくいのであるとも言えます。教科書ではベンゼン環を含む化合物を芳香族化合物として扱っていますが、電子の非局在化によって安定化することを「芳香族性」といい、アズレンのようにベンゼン環はなくても芳香族性を持っている化合物も芳香族として扱うこともあります。

267.天然物有機化学

 有機化学の一分野に天然物有機化学があります。これは天然に存在する有機化合物について研究するもので、例えば、「草木染めで使われるアカネの色は何によるものか」から、まずその物質を単離してその色がアリザリンによるものであることがわかります。次にその分子構造を調べて1,2-dihydroxyanthraquinoneであることがわかれば、なぜこんなきれいな色がでるのか。そして、この原理を利用してもっときれいな色の物質をつくることはできないのか。というように研究はどんどん広がっていきます。実際、このアリザリンから始まって現在ではアントラキノン染料と呼ばれる一群の優れた建て染め染料が開発され、これは後で出てくるアゾ染料と並んで重要な染料となっています。

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化学むだばなし0319

268.フェノール

 フェノールは、それ自体を身近な生活で使うことはほとんどありませんが、CDのプラスチックであるポリカーボネートなど身近な物質の原料としては広く使われている基礎的な化学製品で大量に生産されています。フェノールは石炭酸とも呼ばれるようにコールタール(石炭coalを乾留したときにできるタールtar)から分溜されていましたが、消費量が増えるにつれてフェノールを合成することが研究されました。しかし、フェノールはベンゼンを酸化した形であるにもかかわらず、ベンゼンよりも酸化されやすいのでその合成にはいろいろな工夫が必要となります。スルホン酸をアルカリ融解する方法は1890年にドイツで開発されたものです4段階の反応でした。次に、1914年にマイヤーによってクロロベンゼンを経由して3段階で合成する方法が考案されましたが、高温高圧で反応させる必要があり工業化されたのは1924年でした。その後、触媒を使うなどマイヤーの方法を改良して2段階で反応させるラシッヒ法が1930年代に始まりました。1944年にクメンヒドロパーオキシドが酸によってフェノールとアセトンに分解することが発見され、現在ではこのクメン法で世界の90%以上のフェノールが生産されています。最近では、「夢の触媒反応」と言われたフェノールの1段合成ができたというようなことも発表されています。

269.フレンチパラドックス

 フレンチパラドックス(フランス人の逆説)という言葉を知っていますか。これはバターや生クリームを多量に使った脂っこい料理を多量に食べるフランス人の心疾患による死亡率が何故低いのかというもので、赤ワインに含まれるポリフェノールが原因であると言われています。ポリフェノールとは多価フェノールとも呼ばれ複数のOH基がベンゼン環に結合した化合物の総称で、お茶の渋みのカテキンや花の色のフラボノイドなどは代表的なポリフェノールです。そして、ポリフェノールはフェノールと同様に酸化されやすいので血管の中でコレステロールが酸化されて固まるのを防ぐため健康に良いのだと考えられます。また、これらのポリフェノールはフェノールと同様に鉄をはじめとする金属イオンと反応し美しい色を示します。

270.何故、芳香族

 何故、芳香族化合物が芳香をもつとは限らないのに芳香族という名前がついたのでしょう。それは、19世紀のはじめ安息香や苦扁桃油など芳香のあるものから分離された物質には共通してC75Oの原子団(ベンゾイル基)が存在することがわかり、その後分子の構造が明らかになると、共通してベンゼン環を持っていることがわかったので逆にベンゼン環をもつ化合物を芳香族化合物と呼ぶようになったからです。しかし、芳香族化合物の中でも桂皮酸(シナモン)やクマリン(桜の葉の香り)などフェニルプロパノイドと呼ばれるベンゼン環に炭素が3つもつものには香りを持つものが多くあります。

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化学むだばなし0322

271.化学療法

 風邪を引いたら風邪薬を飲むというように、化学物質である医薬品を使って治療するというのは今では当たり前のことですが、薬草やお祈りではなく化学物質を使って病気を治すという「化学療法」の概念ができてまだ100年ほどしか経っていません。例えば、古代ギリシャではヤナギ(salix)の樹皮を痛みの治療に使っていたと言われ、19世紀になってその有効成分の抽出が試みられてサリシン(サリチル酸の誘導体)が単離されました。しかし、このサリチル酸は人によっては強い副作用を示すためにより副作用の少ない物質としてアセチルサリチル酸(アスピリン)が使われるようになりました。現在では、サリチル酸は痛みを起こさせる物質であるプロスタグランジンの合成を妨げることによって鎮痛作用を示すことなどがわかっています。

272.サルファ剤

 ドイツの細菌学者ドマーク(Domagk)によって、1932年にアゾ染料の一種でスルファニルアミドの構造を持つプロントジルが連鎖球菌感染症に対して驚異的な治療効果を持っていることが発見されました。そして、動物実験で安全性が高いことが確認されていった頃、彼の娘はままごとで誤って指に針を刺し、その傷が原因となって高熱を伴う敗血症を発症しました。彼はプロントジルの薬効を確信していましたがヒトに投与されたことはなかったので非常に悩み、最終的に娘にプロントジルを投与することを決断しました。結果は予想どうりの効果を示し娘は助かりました。その後、現在に至るまでこの種類の物質はサルファ剤として抗生物質と共に感染症の治療薬として使われてきました。

273.麻酔薬

 外科の手術で欠かせないものに麻酔があり、麻酔は患者から手術時の痛みと不安を取り除くことで手術を可能にします。麻酔には、末梢神経で痛みの刺激を抑える「局所麻酔」と脳の働きを抑えて眠らせ、痛みを感じさせない「全身麻酔」とがあります。普通の睡眠は、痛みや音などの刺激で目覚めますが、麻酔による眠りは睡眠というより昏睡なので、全身の感覚は失われて痛みによって目覚めることもありません。それだけに一つ間違うと目覚めないことになります。局所麻酔薬の代表的なものはコカインです。2000年以上も前から南アメリカのインディアンはコカの葉によって疲労感を忘れたり、傷に塗ることによって痛みを抑えることを知っていました。このコカの葉から分離された薬効成分がコカインでシナプスで伝達物質の取り込みを抑えることがわかっています。また、全身麻酔薬としてはエーテルなど吸入によるものが使われます。エーテルは毒性が弱く、低い濃度で麻酔できるのですが、麻酔が効くまでに時間がかかり、また醒めるのにも時間がかかる欠点があります。クロロホルムにも麻酔作用がありますが、少し濃くなると呼吸停止がおこるので、現在ではハロセン(2−ブロモ−2−クロロ−1,1,1−トリフルオロエタン)などが使われます。

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化学むだばなし0323

274.グルコースイソメラーゼ

 教科書に何種類もの糖が出てきますが、味の違いがわかりますか。どれも糖だから甘いに決まっていると思ったらマルトースをなめてみましょう。砂糖(スクロース)の甘さを基準にするとブドウ糖はさわやかな軽い甘みで夏向きな感じがするのに対し、果物の甘み成分である果糖は砂糖のように単に甘いだけではなく、おいしいと感じる甘さを持っています。ジュースの缶の成分表示を見ると異性化糖(転化糖)というのがありますが、これはブドウ糖と果糖の混合物です。では、なぜこれがジュースに使われるのか考えてみましょう。果糖は砂糖より甘く、またおいしい甘さで、さらに温度が低くなるほど甘みを強く感じるというジュースのような飲料に適した甘味料ですが、高価なことが欠点です。逆にブドウ糖はじゃがいもやトウモロコシから得られるので安価ですが、甘みは砂糖の60%くらいしありません。そこでどうするか、ブドウ糖と果糖が異性体の関係であることを利用して、グルコースイソメラーゼが登場します。これをブドウ糖に作用させてブドウ糖を異性体の果糖に変えるのです。別に全部変える必要はなく、ある程度異性化してもとのブドウ糖とできた果糖が混ざった状態で使われます。

275.甘味料

 ミラクルフルーツを食べてからレモンを食べるとまるでオレンジのように甘く感じるそうです。これは、ミラクルフルーツに含まれるミラクリンというタンパク質が水素イオンと反応すると甘味受容体に作用するためで、また、逆にガガイモ科のgymnema sylvestreの葉を噛んでから砂糖を舐めると、まるで砂を噛んでいるように全く甘さを感じないのは、葉に含まれるギムネマ酸のせいといわれています。このように、甘味は、味蕾の甘味受容体に化学物質が作用することによって起こるのわかっているのですが、まだどのような物質が甘味を感じさせるのかということはまだよくわかっていません。甘味をもつ物質には、天然物としてはキシリトールのように糖の仲間や、ステビア(甘草)からとれるステビオシドのようなテルペノイド、人工物としてはサッカリンやアミノ酸から作るアスパルテームなどがあります。甘味料は、以前は砂糖に対する安価な代用品でしたが、現在では低カロリーのダイエット甘味料として重宝されています。

276.アミノ酸の電気泳動

 アミノ酸にはアミノ基とカルボキシル基があります。そこで、分子全体としては中性でもカルボキシル基が出した水素イオンをアミノ基がもらって双性イオンとなった状態で通常は存在しますが、酸性の溶液では水素イオンをもらって陽イオンに、塩基性の溶液では水素イオンをだして陰イオンに変身することができるのです。ただし、どのpHでこの変化が起こるかがそれぞれのアミノ酸によって異なるところがミソで、電気泳動の装置を使うと、同じアミノ酸でもpHを変えることで陽極にも陰極にも移動させることができ、また、pHを固定していろいろなアミノ酸を陽極と陰極に分けて移動させることもできるのです。

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化学むだばなし 補

277.水と油

 水と油は混ざらないものの代名詞のように言われますが、なぜ混ざらないか考えてみましょう。これを解明するときのキーワードが「水和」なのです。水と油が混ざらないのは、水分子には極性があるので、水分子どうしで水素結合をしてかたまってしまいます。しかし、油の分子には極性がないので水分子と結びつくこと、つまり「水和」ができないので水分子の中に溶け込むことができません。結果的に油の分子は水分子の中から追い出されるようにして分離するのです。このことを使うと溶けていたものを析出させることもできます。例えば、飽和食塩水に塩酸を加えると、今まで食塩のNa+やCl-を水和するのに使っていた水分子が塩酸のH+やCl-を水和するのに使われ、水和されなくなった食塩の結晶が雪が降るように析出してきます。では、水と油が分離しているところに親水基と疎水基を持つアルコールを加えるとどうなるでしょう。

278.溶解度曲線

 溶解度の表や溶解度曲線は教科書によく出ていますが、自分で溶解度を測ったことはありますか。表では20℃での溶解度というようにある温度での溶解度が示されていますが、実際に温度を一定にして測定するのは結構難しいものです。また、温度が高くなってくると溶かしている間に水がどんどん蒸発してしまうので困ってしまいます。そして何よりも致命的なのは、溶解度は飽和溶液にしなければならないので、入れた溶質が全部溶けているときは溶けている溶質の量ははっきりわかっているが飽和溶液ではありません。そして、溶け残っているときは飽和溶液にはなっていますが溶け残りがあるのでどれだけ溶けているかがわからないということです。では、どのようにすれば溶解度と温度の関係を正確に測定することができるでしょうか。

279.多成分系

 食塩水のような2成分系では、食塩が溶質で水が溶媒そして食塩水は溶液ということになりますが、水とアルコールとアセトンが等量で混合された3成分系の溶液ではどれが溶質でどれが溶媒でしょうか。こうなるとほとんど議論するだけ無駄ということになり、「多成分系」の溶液という扱いになります。溶液において各成分の割合を示すのが濃度です。小学校で習う質量パーセント濃度は溶液と溶質の重さの割合なので簡単に計算できるのですが、溶質の物質量(モル)がわからないのと、液体では重さは体積より測りにくいので実際に反応させようとする場面では扱い難い濃度です。扱い易さを考えた濃度は体積モル濃度で、溶液の体積と溶質の物質量の関係を示しているので溶液の体積がわかれば溶質の量が直ぐにわかります。混合に関わる理論的な扱いをするときには質量モル濃度を使います。これは混合したときに質量は足し算ができますが、水50mlとアルコール50mlを混ぜると96mlになるように体積では足し算が成り立たないからです。他には、各成分の物質量の比を示すモル分率というものもあります。

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