*しろの日*(2005/3/14)*
「んー…。あと、5分…」
もぞり、と動くシーツを抑えて蹲った。
はみ出しているオレンジ色の鮮やかな髪は白い枕の上に散らばっている。
(ん?…『もぞり』…?)
半分寝惚けたままの頭で、昨日の夜寝るまでは確か一人だったことをぼんやりと思い出す。
その瞬間、ぺたりと背中に何かが張り付いた。
「うわぁぁぁっ!」
「おはよ、みげう。お声、おっきいの」
飛び起きると、そこには何時の間に入って来たのか後輩がいつも連れているちびがにこにこと佇んでいる。
「おはよーさん…、って、どっから入って来たんだ、お前は」
「う?あのね、あしゅがね、お出掛けでね、きらはみげうとおうすばん〜って言ったの」
「はぁ?お出掛け…?イザークは」
「いじゃはね、んとね、わかんない」
「ああ、そう…」
折角今日は昼出で午前中はゆっくり出来ると思ったのに、とミゲルは盛大な溜息を吐いた。
そんなミゲルの内心露知らず、キラはころころとベッドの上で転げて遊んでいる。
気が付くと、キラのどんぐりの様な瞳がミゲルをじっと見据えていた。
「…なんだ?」
「みげう、すっぽんぽんで寝たあね、ぽんぽん痛くなうの。あしゅね、いつも、め、て言うよ?」
「そうですか…」
疲れる。
この狭い空間に二人きりだと確実場が持たない。
仕方なく首を2,3度横に振って関節を鳴らすと、シャワーを浴びるために立ち上がった。
その間、キラには大人しくトリィと遊んでいるようくれぐれも忠告をしておいて。
「わぁ、キラちゃん可愛い〜〜〜vvv」
奇しくも本日は3月14日。
世に言うバレンタインデーのお返しの日だった。
アスランのお出掛けは国防庁長官命による婚約者嬢のご機嫌取り…と言ったところだろう。
きっとラクス嬢は奴が行くよりもこのチビを連れて行った方が数段喜ぶと思われるとミゲルは思ったが…そんなことは国防庁長官と世間様の知ったことではない。
他の紅もさして変わりないところと思われる。
特にお返しを意識していなかったミゲルは、キラに一肌脱いで貰うことにし、そしてまたキラをも退屈させない遊びを思い付いた。
(さすが俺。あったまいい…)
どこから出して来たのかはさておき、朝シャワーを済ませたミゲルはピンクや黄色をあしらったふわふわのぼんぼりが付いた髪飾りでキラの蔦色の髪を両耳の横で結い上げた。
そしてゴシック調を象るひらひらのレースが付いた白いエプロンを着せて、たくさんのキャンディを持たせる。
「えへへ…。こえね、キラかあのぷえぜんとなの!」
エプロンの端と端をそれぞれ持ち上げ、出来た空洞の中にキラはキャンディを溢れる程抱えている。
そんな姿を見て、心を動かされない女性は居ないだろうとミゲルは心の中で断言した。
案の定キラの周りに集まる女性兵士達はまるで妖精のようなキラの出で立ちに夢中だ。
「可愛い〜」
「連れて帰りたい!」
「キラちゃん私にも〜」
きゃあきゃあとまるでバーゲン会場のようになって居たたまれなく、ミゲルは数歩離れた席に着いてコーヒーを飲む。
確かに、自分で言うのもあれだけど、キラはなかなか可愛く出来たと思う。
女の子だと言われてもきっと遜色はないだろうし、恋人にするならあんなー…、
(って、違う違う。…俺はアスランじゃないんだから)
目の中に入れても痛くない程溺愛しているキラの保護者は自分が服装に無頓着だからなのか、余りキラを着飾るところを見たことがない。
たまにはこうして変わったキラを見るのもいいと思うのに。
「あれ?キラにミゲル…。こんなところに居た」
今、想像していた人物が目の前に現れ、ミゲルは吹き出しそうになるのを耐える。
普段の、無造作に流している横髪と違って今日はシックに整髪料で掻き上げ、甘い花の香りをその体躯に纏っていた。
ミゲルの隣に立ち、女性兵士に囲まれるキラを遠巻きに見ている。
「あー、あしゅ!」
「ただいま、キラ。良い子にしてた?」
キャンディを配る役目を終え、キラは脇目を振らずに駆け寄って来る。
そんな愛しい幼子をアスランは抱え上げた。
抱っこしたその状態を見ると、どう見ても親子にしか見えない…とミゲルは思った。
その一因はキラにだけしか見せない甘くとろけるような崩した双眸にあるのかも知れない。
「…もうそんな時間なのか。そろそろ勤務交代だな〜」
「すまない、ミゲル。突然急用が入って…、」
「姫さんのご機嫌取りだろ?大変だな、お前も。イザークは?」
「エザリア議員のところへ行くと言っていたが」
「ディアッカは」
「庶務課の女子と一日出掛けると」
「ニコルは」
「小さなホールでお返しコンサートを開くと言っていた」
モテる男は大変だな、とミゲルは揶揄す。
飲み干したコーヒーカップをその場から投げ捨てた。
ちなみにミゲルも後輩に負けない数のチョコレートを貰ったが、甘いものは余り好きではないので殆どキラにあげたし、今は本命も居ないので特にお返しに意味を感じて居なかった。
「きらね、みげうとね、『お返し』してたの。頑張ったの!」
「そうなんだ。偉いね、キラ」
「みげうもえあい?」
「ああ、偉い偉い」
ぽんぽん、とミゲルがキラの頭を撫でると、とても嬉しそうにキラの顔が綻んだ。
少しだけその表情に鼓動が逸る。
キラは小さな手を伸ばし、ミゲルに顔を近付けさせるようせがんだ。
「?」
「あのね、こえはきらかあみげうにお返しなの!」
ちゅ。
キラの小さな口唇がミゲルの頬を掠める。
その後、「きゃー」と甲高い声を出して、アスランの肩に顔を埋めた。
「なっ…。キラ、キラ。俺は?!」
「う?…あしゅは、…ぷんぷん、するかあ、や!なの」
「えぇっ!?じゃあ、すぐシャワー浴びてくるっ。その後たくさんお写真撮ろうね、キラッ」
抱えていた小さな身体を降ろし、上着を脱ぎながら自室へと戻る動作がマッハなアスラン・ザラ。
どうやら、彼は一生キラには勝てないらしい。
「…浮気は出来ないってやつかな…」
「う?」
「なんでもねぇよ」
幼心にこれだけ勘が良ければ大きくなったらきっと余所見などさせて貰えないに違いない。
最もそれ以上に他を見る余裕無いくらいこの小さな天使に夢中になるだろうけれど。
無意識にご機嫌を携えてミゲルは午後の勤務へと向かった。
ひなさまに相互記念で頂いてしまいましたvv
ちまですよ!
ちまきらですvv
しかも飼い主はちゃんとアスランなのですvv
ミゲルさんは里親風味…
いえいえ、里親なミゲルさんも素敵ですわw
素敵小説をありがとうございましたvv